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令和3年度茨城大学学長学術表彰、教員6名が受賞

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126日に茨城大学水戸キャンパスにて、令和3年度茨城大学学長学術表彰の表彰式及び受賞記念講演会が実施された。今回は、優秀賞および奨励賞を受賞した教員6名が学長から賞状と記念品を手渡された。今年度の受賞者の顔ぶれと研究成果を、講演の内容とともに紹介する。

茨城大学学長学術表彰とは

茨城大学学長学術表彰とは、先進的あるいは独創的な研究を称え、その内容を学内外に広めることを目的に制定された制度。優秀賞と奨励賞があり、優秀賞は学会賞や文部科学大臣賞(科学技術賞)等を受賞するなど優秀な成果のあった教員に、奨励賞は若手研究者を対象に学会や文部科学省から表彰されるなど今後さらなる進展が期待される成果を出した教員に、それぞれ贈られる。今年度は優秀賞3名、奨励賞3名の受賞者があった。

優秀賞:教育学部 佐藤 裕紀子教授

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 教育学部の佐藤教授の表彰対象となった研究テーマは、「近代日本における主婦の時間意識とその形成に関わる多様な要因の分析」。これまで取り組んできた研究内容が、家庭科教育研究の発展に寄与するものと認められ、「2020年度日本家庭科教育学会賞」を受賞した。
 現代の日本では当たり前の規範となっている「機械時計の示す時間に基づいて予定を立て決められた時刻に遅れないように行動する」という意識は、日本では明治以降、近代産業社会の形成に伴い公的領域に浸透し、生産性の向上や経済発展を促進する機能を果たした。その中で佐藤教授は、これまであまり関心が向けられてこなかった「私的領域(=家庭生活)の時間」に着目。新中間層の階層形成に伴い新たに誕生した和楽団欒の場としての「家庭」(home)とその担い手としての主婦が誕生した大正期に遡り、往時の主婦養成をねらった学校教育や通俗教育の資料の分析に取り組んできた。
 佐藤教授は、大正時代の高等女学校の家事科教育や生活改善運動(生活の合理的改善を目指す国民運動)で示された改善項目の内容を紹介しつつ、これらは一方で主婦に家事労働を通じて時間の合理的活用を教え公的領域を支配した時間意識の家庭への浸透を促し、もう一方で「家庭」を強く意識した官許の価値に基づく時間の有効活用を教えて勤勉な生活態度の維持・強化を促す特徴がみられることを指摘。これらの分析を通して、家庭生活の合理化を標榜したこれらの教育は、農村の共同体や「家」から物理的に離脱し、自分たちの安定した家庭生活のみを追い求める傾向の見られた当時の新中間層の家族を統合するという国家的意図に基づく時間教育政策であったと説明。人々の家庭での生活や規範意識に関わる家政教育が、日本におけるジェンダー意識へ与えた強固な影響を明らかにした。

優秀賞:理工学研究科(工学野) 伊藤吾朗教授(※現在は名誉教授)

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 理工学研究科の伊藤教授(今年度より名誉教授)は、学部4年生の1977年から軽金属学会に所属し、アルミニウム合金を中心とした軽金属材料の製造プロセスや特性に関わる研究に長年従事してきた。そして2020年に軽金属学会賞が授与された。学長学術表彰の受賞は、2009年度(初回!)の優秀賞受賞に続き2度目となる。
 伊藤教授は、「他の研究者とは違うことをやる、ということを常に意識して研究に取り組んできた。その結果、このような受賞をいただくことができたのでは」と振り返った。
 製造プロセスと特性の間には、金属組織(地となる金属とは異なる構造の粒子や金属中の欠陥などの様相)が媒介し、様々な変化を生じるため、この変化に関する研究者は内外に数多くいる。一方、金属材料の中に存在する微量の不純物によっても、特性が劣化することがある。特に厄介なのが水素。水素脆化現象を引き起こすが、微量で最も原子番号が小さいため、検出しにくい。伊藤教授は、「セレンディビディ(探しているものとは別の価値があるものを偶然見つけること)を見逃すな」という恩師からの教えのもと、研究に邁進。新たな切り口で金属を強化させる方法を調査しているうちに、偶然、金属内の水素を探知する方法にたどり着いた。
 以降は企業との共同研究などに積極的にチャレンジ。講演では企業から迎えて伊藤研究室でドクターをとった方からも祝福のコメントが寄せられた。伊藤教授は、「既に退官しているが、今後も自身の研究および学生への助言など、好きなことを続けていきたい」と衰えぬ意欲をみせた。

優秀賞:農学部 鎗田 孝准教授

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 農学部の鎗田孝准教授は、1991年より国立研究開発法人産業技術総合研究所の研究員として勤務。2017年に本学農学部に着任した。専門は、食品分析化学とクロマトグラフィー(混合試料を成分ごとに分離する技術)。農作物の残留農薬を分析するための「認証標準物質の開発と技能試験の実施」に関する研究が評価され、2021年に「日本農薬学会業績賞(技術)」を受賞した。
 農作物に残留する農薬を分析することは、健康被害のリスクを下げるために必要不可決だが、非常に高度な技術を要する。その正確さを評価するための物質が「認証標準物質」であるが、鎗田准教授は世界初の残留農薬分析用の認証標準物質の開発に成功した。「ものさしの目盛りを定めるようなこと。非常に正確な分析法が求められるため、多くの手間がかかり、困難な挑戦だった」と鎗田准教授は語る。
 さらに、鎗田准教授は定期的に技能試験を主催してきた。認証標準物質の開発で得たノウハウを活用して試験試料を調製し、参加機関に残留農薬分析を実施してもらう。参加者の分析値を正確な分析法によって得た参照値と比較することにより、各機関の分析技能がいかに正確なものなのかを客観的に評価することができる。試験後はセミナーを開催し、参加機関の問題解決を支援してきた。
 鎗田准教授は、「農作物以外の食品でも分析精度管理方法の確立に取り組むべきものが多くある。今後も食品分析の信頼向上のために貢献したい」と意気込みを語った。

奨励賞:教育学部 石島恵美子准教授

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 教育学部の石島恵美子准教授はかつて高等学校の家庭科の教員を務めていた。その当時に抱いた違和感や課題を解消し、授業改善をしたいという思いを胸に日々研究を行っている。
 今回の学長学術表彰は日本消費者教育学会の奨励賞受賞を受けてのもの。研究のテーマは「高等学校家庭科における消費者市民の視点を育む調理実習を組み込んだ食品ロス学習プログラムの検討」。石島准教授はこのテーマについて、「子どもたちは調理実習が大好きだが楽しいだけで終わってしまい、学びが深まらない傾向がある。一方で消費や環境分野の学習は関心が高まらず、定着しない。この両者を結び付けられないかと考えた」と語る。
 この研究では、①「食品ロスを削減するために自分ができることは何か」を考える授業、②ナシを剥いて廃棄率を調べ自分の包丁技能を評価する実習、③通常の調理法で排出された野菜くず等を利用した調理を行って食品ロス削減を体験する実習で構成されるプログラムを、高校2年生158人を対象に実施し、その上で効果検証を行った。
 授業の組み立てにあたっては目的と先行研究を踏まえて学習内容を精選し、消費者教育としての体系性を踏まえた問題解決型の調理実習プログラムを構築。効果の検証については、生徒たちへの質問紙調査を行ってその結果をさまざまな手法で分析した。
 その結果、調理技術を高めたいという個人的な願望だけでなく、「食品ロスを減らしたい」という社会的な動機づけが生まれたこと、また、調理実習でのおいしい、楽しい、簡単にできたという小さな成功体験の積み重ねが、食品ロス削減行動への高揚感につながっていたことが確認された。「消費者教育における調理実習の可能性に期待し、消費者市民の視点を育む多様な問題解決型調理実習プログラムの開発をめざす。」と石島准教授は語った。

奨励賞:理工学研究科(工学野) 小林純也助教

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 理工学研究科(工学野)の小林純也助教が取り組むのは、自動車の軽量化につながるような新たな鉄鋼材料の開発だ。それはカーボンニュートラルの実現にとっても重要なミッションだ。軽量化のためには薄くすることが重要だが、強度が低くなっては困る。
 鉄鋼の延性(延びやすさ)や強度は、加熱や冷却の仕方などで変わる。そこでさまざまな方法を試しながら、高い強度と延性を兼ね備えた新世代の鉄鋼を開発することが目標となる。
 小林助教が扱っているのは、「TRIP鋼」。「TRIP」とは「Transformation Induced Plasticity(変態誘起塑性)」の略で、従来の焼入れや焼戻しといった熱処理を変えることによって性質が変わるという鋼の特徴を活用したものだ。鋼を延ばす(変形する)→中の物質が変態して破壊を防ぐ→また延ばす...という工程を繰り返して材料を作っては、その性能を評価する。この研究に、小林助教と学生たちは日々取り組み、最近ついに同じ強度レベルで延びが倍ぐらいになる方法にたどり着いたという。
 小林助教はこの研究に茨城大学着任前を含む12年あまりの間従事してきたことが評価されて、日本鉄鋼協会の研究奨励賞を受賞した。
 講演会で「もっと改良の余地はあるか?」という質問を受けた小林助教は、「まだまだ改良の余地がある。まだ軟らかい組織が出てくることがあるので、さらなる熱処理でより高いレベルに引き上げられるのではないか」と応じた。今後の進展がますます楽しみだ。

奨励賞:理工学研究科(工学野) 多田昌平助教

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 理工学研究科(工学野)の多田昌平助教の研究も、カーボンニュートラルの実現に貢献するものだ。目指すのは、二酸化炭素を回収して別の有用な物質に変換すること。
 ある物質を化学反応によって別の物質に変換させる際、その反応を起こさせる場やそれを促す役割を果たす物質のことを「触媒」という。たとえば水素と酸素のガスを容器に入れてもそのままでは水はできないが、そこに銅を入れて加熱すると、酸化銅と水素の反応を通じて水ができる。この反応の場合は銅が触媒だ。いわば「恋のキューピッド」(多田助教)。
 したがって二酸化炭素を回収して別の有用な物質(たとえばメタノール)に変換する場合、その触媒にとって重要なポイントは、二酸化炭素をいかにくっつけることができるかということと、生成したい物質をいかに引き剝がしやすいか(選択性)、という2つとなる。
 多田助教は茨城大学に着任してからさまざまなタイプの触媒開発を成功させているが、今回の学長学術表彰につながったのは、「二酸化炭素資源化技術への非晶質材料の展開」という研究。これにより、化学工学会から2020年度研究奨励賞(副賞 玉置明善記念賞)を受賞した。
 非晶質=結晶構造をもたないこと。多田助教は、非晶質のジルコニア(ZrO2)という物質がメタノールを付着させづらい(つまり、メタノール生成の媒体として活用できる)ことに着目した。ところが、この物質は多田助教曰く「お餅みたいなもの」で、熱を与えるとカチカチになって使いづらくなってしまうそう。「これを高い温度で触媒として使えるかが問題でした」と心配したが、実験の結果、熱処理をしても非晶質が維持されていることがわかり、触媒としての有用性を確認することができた。今後は、どうしてメタノールが非晶質に吸着しないのか、その理由を調べるとともに、さらなる有用な触媒開発をしていきたいと意気込んでいた。

(取材・構成:茨城大学広報室)