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シリコンの同素体開発に新たな進展
ー太陽光発電やイオン電池等、籠状の構造を利用した応用開発に期待

 北海道大学電子科学研究所の藤岡正弥助教、岩崎秀博士らの研究グループは、東北大学金属材料研究所の森戸春彦准教授、茨城大学理工学研究科(工学野)の小峰啓史准教授らと共同で、Na24Si136の化学式で表される巨大単結晶から、Naのみを均質に抜き出す新たな合成プロセスを開発しました。
 Na24Si136から完全にNaを抜き出すことができれば、Siで形成される籠状の構造のみが残り、現在半導体産業に広く普及しているダイヤモンド構造のSi(d-Si)の同素体と見なすことができます。d-Siは太陽光発電の基板材料としても用いられていますが、この籠状構造のSi同素体は、より多くの太陽光を吸収するため、さらに高い特性の実現が期待されます。また、Siのユニークな籠状構造は、結晶内にイオンを受け入れる安定サイトとして機能する可能性を秘めており、イオン電池の電極材料等、様々な応用開発が期待されます。
 本研究成果は、2021年12月27日(月)公開のAdvanced Materials誌に掲載されました。

>>詳しくはプレスリリース(PDF)をご覧ください

silicondousotai1.jpg単結晶Na24Si136が形成する籠状構造からNaが拡散する様子

背景

 Na24Si136は籠状に結合したSiの内部にNaイオンが内包された化合物です。これまでに、Siの籠状構造を直接合成する反応経路は実現していないことから、図1(b)に示されるようなSi同素体を合成するためには、Na24Si136を一旦合成し、そこからNaを抜き出す必要があります。このようにして得られるSi同素体は、現在広く普及しているダイヤモンド構造のSi(d-Si)よりも大きな光吸収係数を示し、高い太陽光発電能力が期待されています。さらに、形成されるSiの籠(ケージ)はイオン電池の電極材料としても注目を集めています。このような応用開発を進めるためには、単結晶Na24Si136の巨大化する技術と、巨大単結晶からNaを抜き出す技術の両者の確立が必要不可欠となります。Naを抜き出す技術については、従来真空下での熱処理が用いられてきましたが、この手法では、単結晶が大きくなると、内部にNaが残ってしまうことが明らかになりました。そこで、本研究では、異方的にNaイオンの拡散を誘発する環境を作り出し、巨大な単結晶から均質にNaイオンを抜き出すための新規プロセスを確立することを目指しました。

研究手法

 Na24Si136をNaイオン伝導体(NASICON)に接触させて、高電圧を印加しました。Na24Si136は金属的な特性を有するため、その内部には電界が生じませんが、電子を流さないNASICON材料内部には電界が生じます。これに伴いNASICON内部ではNaに偏りが生じ、Na24Si136との接触界面でNa欠乏層が形成されます。さらに、450℃程度でこのデバイスを加熱すると、Siのケージを壊さずに、Naのみがケージ間を移動することができます。この状態を保持することで自発的にNaがSiのケージから排出され、欠乏層へと拡散します。このNaの移動は時間の経過とともに次々と進行するため、Na24Si136の単結晶サイズに関わらず、Naを均質に抜き出すことができます。

研究成果

 本手法を用いた場合は、極めて清浄な表面を保持しつつ、均質にNaが抜けていることが確認されました。一方、真空熱処理を用いた場合は、クラックが形成され、表面にNa2CO3が主成分となる白色の不純物が付着してしまいます。また、単結晶内部にNaが残っていることが確認されます。この残留したNaは、真空熱処理の時間をさらに延ばしてもほとんど変化しないことが分かりました。これは、表面に形成された不純物が内部からのNa拡散を阻害するためであると考えられます。本手法は欠乏層を介して放出されたNaが次々にNASICONの下層に移動するため、表面でこのような不純物を形成しません。また、図2(d)で示されるように、厚さ方向に単結晶を削り出し、Naの濃度分布を調べたところ、全領域にわたってNaが均質に抜けていることが確認されました。

今後への期待

 本研究では、Na24Si136の大きさに関わらず、均質にNaを抜き出すための合成プロセスを確立しました。また近年mmオーダーの単結晶Na24Si136が合成されており、これを種結晶とすることで、さらに巨大な単結晶が実現できると期待されます。これらの技術開発を推進することで、図1bに示されるSi同素体のユニークな特性を利用したデバイスが実現するものと期待されます。

 また、このSi同素体は熱力学的に準安定な物質であり、単純な熱処理ではなかなか合成することが難しい物質です。特にNa24Si136のような化合物は金属的な特性を持つため、Naの拡散を電圧の印加で直接制御することはできません。しかし、本研究は電圧の印加によりNASICONに形成されるNaの濃度差を巧みに利用することで、金属的なNa24Si136中のNa濃度を制御しており、このようなプロセスはNa24Si136に限らず、しかるべき条件を満たす種々の化合物で実現すると期待されます。さらに本研究では、計算科学を活用し、Naがケージ間を移動する新たな機構を提案しました。現在これを広範囲な物質へと適用するための研究を進めています。このような知見は、イオンの拡散が制御可能な母物質を予測し、新規準安定物質の発見を加速するものと期待されます。

謝辞

 本研究は日本学術振興会科学研究費助成事業(課題番号18H01887、19H02420、20K22544)、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(課題番号JPMJCR19J1)、イノベーション創出ダイナミック・アライアンス、物質・デバイス領域共同研究拠点、GIMRT国際共同利用・共同拠点(課題番号RDKGE 0049)の助成を受けた成果です。

論文情報

  • 論文名 Novel technique for controlling anisotropic ion diffusion: bulk single-crystalline metallic silicon clathrate
    (単結晶金属シリコンクラスレートに対する新規異方的イオン拡散制御法)
  • 著者名 岩﨑 秀(北海道大学)、森戸 春彦(東北大学)、小峰 啓史(茨城大学)、森田 一軌(インペリアル・カレッジ・ロンドン大学)、澁谷 泰蔵(NECシステムプラットフォーム研究所)、西井 準治(北海道大学)、藤岡 正弥(北海道大学)
  • 雑誌名 Advanced Materials
  • DOI 10.1002/adma.202106754
  • 公表日 2021年12月27日(月)(オンライン公開)

参考図

silicondousotai2.jpg図1.(a)Siの籠状構造にNaが内包されたNa24Si136の結晶構造
(b)Siの籠状構造からNaが取り除かれたSi136の結晶構造
(c)一般的に知られているSiの結晶構造(ダイヤモンド構造)

silicondousotai3.jpg図2.(a)Na24Si136からNaを除去するためのメカニズム。印加された電圧により、NASICON内でNa濃度に偏りが生じ、Na24Si136との接触面では、Naの欠乏層が形成されます。450℃程度に熱処理すると、Siのケージを壊さずにNaのみが移動可能な状態となり、Naが不足している欠乏層へと自発的に拡散します。Na欠乏層に到達したNaは、電界によってNASICONの下層へと移動します
(b)(a)の処理によって得られた試料の外観と断面像、及びNaの濃度分布
(c) 真空熱処理によって得られた試料の外観と断面像、及びNaの濃度分布
(d) 単結晶を厚み方向に削り出した際に見られるNa濃度分布の変化。試料全体に渡って均質にNaが抜けていることが確認された