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溶媒などを用いずにフェノールからフェノキシルラジカルを簡便に得る方法を開発
世界で初めて成功 新たな工業品、医薬品への展開に期待

 茨城大学大学院理工学研究科(理学野)の島崎優一准教授、同研究科複雑系システム科学専攻・博士後期課程の鈴木崇氏らの研究グループは、溶媒などを用いず、固体状態のまま酸素分子だけを用いてフェノールをフェノキシルラジカルへと酸化することに世界で初めて成功しました。
 本研究は、比較的不安定な化学種であるフェノキシルラジカルを簡便な方法で取り出したものであり、今後、このフェノキシルラジカルを自由自在に変換できれば、新たな工業品や医薬品の開発につながる様々な化合物の簡便な合成ができるようになると期待されます。
 この成果は、2021年4月21日付で英国化学会の雑誌Dalton Transactionsに掲載されました。

背景

 フェノールを含む化合物は、フェノール樹脂の原料であり、工業的に有用な化合物の一つであるほか、生体を構成するアミノ酸の一つであるチロシンにも含まれ、そのフェノールが酸化された化合物は神経伝達物質などとしても知られている重要な化合物です。そのため、樹脂や染料のほか、医薬品などにも広く用いられています。しかし、フェノールそのものはとても安定であるため、酸化して医薬品などへと変換することは難しく、より簡便な方法論が求められています。
 生体内では、フェノールは金属イオンに結合し、酸化されやすい状態になることで、穏やかな条件で酸化されることが知られています。また、フェノールが1電子酸化されたフェノキシルラジカルという化学種は、一般的にはとても不安定ですが、生体内では金属イオンが結合することで安定化していることも知られています。本研究はこれらを応用してフェノールの酸化を簡便化することを目指したものです。研究の結果、溶媒などを用いず、ニッケル(II)イオンに弱く結合したフェノールを酸素分子と反応させ、安定なフェノキシルラジカルを含む化学種へと変換することに成功しました。

研究手法・成果

 本研究では、2つのフェノールを含む有機化合物を合成し、ニッケル(II)イオンと反応させました。この溶液から得られた結晶中の分子構造を調べると、一方のフェノールはフェノール部位のプロトンが脱プロトン化したフェノキシドイオンとしてニッケル(II)イオンに結合しており、もう一方は脱プロトン化していないフェノールとして存在していました。
 この結晶を空気中で数日間放置すると、元の化合物とは異なる色の化合物へと変化しました(図)。様々な測定により、この化合物は、フェノールとして存在していた部位が酸化され、フェノキシルラジカルへと変換された化学種であることが明らかとなりました。また、酸化される前のフェノールの近傍には、フェノールのOH基と水素結合しているメタノールが存在しており、これが酸化の際に放出されるプロトンを受け取ることで、酸化反応を促進していることがわかりました。
 この結果は、ニッケルイオンに弱く結合したフェノールのOH基と水素結合しているメタノールのような、プロトンを受容することができる化合物の存在が、フェノールからフェノキシルラジカルへの変換を容易にしていることを示すものです。さらに、ニッケルイオンに弱く結合した状態で、プロトンを受容することができる化合物が存在すると、フェノキシルラジカルへの変換が難しいとされる他のフェノール類においても変換が可能になることを見出しました。
 溶媒などを用いずに、固体状態のまま酸素分子だけを用いてフェノールをフェノキシルラジカルへと酸化したという先行例はこれまでなく、世界で初めて成功したものといえます。

Phenoxylradical1.jpg図 酸素分子のみを用いた、ニッケルイオンに弱く結合したフェノールの
フェノキシルラジカルへの変換反応

今後の展望

 本研究によって、これまで困難であったフェノールからフェノキシルラジカルへの変換を、溶媒などを使わず簡便に起こすことができ、比較的安定なフェノキシルラジカルを得ることに成功しました。チロシン由来のフェノキシルラジカルからドーパミンやアドレナリンなどを合成することは比較的簡便にできると考えられることから、今後、このような研究を基盤とした工業品や医薬品の開発、さらには新しい化学システムの開拓へとつながることが期待されます。

論文情報

  • タイトル:Formation of the Ni(II)-Phenoxyl Radical Complexes by O2: A Mechanistic Insight into the Reaction of Ni(II)-Phenol Complexes with O2.
  • 著者:Takashi. Suzuki, Akari. Sato, Hiromi. Oshita, Tatsuo. Yajima, Fumito. Tani, Hitoshi. Abe, Kaoru. Mieda-Higa, Sachiko. Yanagisawa, Takashi. Ogura and Yuichi. Shimazaki
  • 雑誌:Dalton Transactions, 2021, 50, 5161-5170.
  • 公開日:2021年4月21日
  • DOI: 10.1039/D1DT00105A