コロナ禍の茨大生の生活実態を調査
―人文社会科学部労働経済論ゼミが報告書発表
茨城大学人文社会科学部の労働経済論ゼミナール(指導教員:清山玲教授)が、茨城大学の学生685人を対象とした「コロナ禍における学生生活調査」を実施し、このたび報告書を発行しました。昨年度に引き続く調査からは、子どもや高齢者に比べて見えにくい大学生の貧困問題、コロナ禍の中ならではの仲間づくりの難しさや幅広い支援の必要性などが浮き彫りになりました。
調査と報告書の編集を行った3年生の星龍汰さん、森大起さんの二人に話を聞きました。
―昨年度に引き続いての「コロナ禍における学生生活調査」ということで、今年度はどんな課題意識をもって取り組みましたか。
星「昨年度の調査報告書を読んで、水道光熱費の支払いに困難をきたしたり医療機関の受診をためらったりしている学生が、こんなにもいるのかと驚いたんです。その中でコロナ禍の影響が1年半にわたり続き、学生たちの苦しい生活が『当たり前』の状況になってしまっているのではないか、という問題意識がありました」
森「そうですね。4年間の大学生活の中の1年半というのは長いです。厳しい生活を送る学生を救う制度はまだ十分に整っていない中、お金や食料の状況も把握したかったですし、課外活動や授業で悩んでいる学生もいるのではないかと思い、問題を明らかにして大学や社会のみなさんに伝えたいと思って調査をしました」
―今年度の調査方法や分析で工夫した点は?
星「アルバイトの状況などは、去年との比較も示せればと思い、折れ線グラフでまとめてみたのですが、今年も昨年と同様あるいはそれ以上に厳しい状況が続いていることが見て取れて、自分でも驚きましたね」
森「学生の生活環境や属性ごとの違いも明らかにしたくて、住居形態別とか学年別でクロス集計しました。その結果、たとえば一人暮らしの学生の方がアルバイトによって学業への支障が出ているとか、オンライン授業を希望する人は実家暮らしが多いといったことを明らかにできたのは、今年ならではの点です」
―調査の結果、意外だったこと、驚いたことは?
森「医療機関の受診をためらっている学生が思いのほか多いことに驚きました。また、緊急経済支援を受けたことがあるかという質問で、未だに申請しても却下されてしまうという学生がいて、そういう方は経済支援への不満が強い。報告書には載せていませんが、そういう人たちが水道光熱費を滞納したという例もあったので、まだまだ支援が不十分な面があるのではないかと感じました」
星「『最も支援してほしいこと』という質問で、最も多かったのが経済支援などではなく、『サークル活動』だったというのも、私は予想できていませんでした。自由記述でも課外活動に関する不満が多く示されています」
森「大学生らしい生活が、大学自身の規制によってできなかった、というふうに受け止めている学生は少なからずいると思います」
―課外活動や友人関係については学年ごとの違いも大きいのでは?
星「そうですね。入学時からコロナ禍の影響を受けている1、2年生と、それより上の3、4年生との間で結果の違いが見える項目が多かったです。部活動・サークル活動・課外活動の加入状況を見ても数字ではっきりと出ています」
森「2年生の中には自由記述欄に長文で熱い思いを語ってくれる人がいて、友だちを作りづらいとか、この状況でどうしてここまで授業料を払うんだといった声もあり、胸が苦しくなりました。自分は3年生なので1年生のときは普通に過ごせただけに、今の状況が本当にかわいそうです」
―同じ学年の学生の間でも差が広がっているような感じはしますよね。
星「課外活動に加入できなかったのは、情報がないとか、タイミングを逃したといったことで、どうしても積極性の部分で一気に差が生じてしまうところはあると思います」
森「そうですね、課外活動の情報を入手したり、学生同士が交流したりといった機会が平等にあればいいのですが、大学も積極的に設けることが難しかったという中で、それが差につながってしまっているのではないでしょうか」
―誰でもまずはここへ行けば、という第一歩あるいは「ゼロ歩」を支える取り組みが必要ということですね。こうした問題を解決していくためにも、この報告書を多くの人にまずは見てもらいたいです。
星「はい。私自身、去年は2年生として回答に協力したのですが、その結果は自分から探しに行ってようやく見つけられたという感じでした。今年はそこを改めて、回答者や学生たちに積極的にフィードバックしたいなと思っています」
森「学生自身にとっては、全体での調査結果を見ると、困っているのは自分だけではないとか、反対に自分はこんなに少数の側にいるのか、とか気付けることがあると思うんです。それから昨年も新聞などで記事にしていただいたので、今年もプレスリリースのような形で発信できればと考えています」
―調査結果を踏まえて、お二人から提言できることはありますか?
森「食糧支援や経済支援はずっと続けていくべきと思うのですが、課外活動や交流イベントについては、感染が落ち着いていて活動ができている今こそ、今後感染が再拡大したときのためのマニュアルを作っておく必要があるのではないでしょうか。突然強い制限がなされる、というのが学生のストレスにつながっているので、こういう状況の場合はこうなる、というマニュアルがあれば学生の側にも気持ちの余裕がもっと生まれると思いますね」
星「私はやはり、2年生の支援をもっと十分やってほしいです。これまで他の調査でも去年の入学生が特に満足できる生活を送れていないという結果が出ているのに、その支援は不足していると思います。『コロナ禍で運が悪かった、仕方がない』で終わらせていいのだろうか、と思います」
―今回の経験を自身の卒業研究やキャリアにどう活かしていきたいですか。
森「私は卒業論文のテーマはまだ決まっていないのですが、貧困の問題は候補のひとつなので、今回の調査のようなものを規模を拡大したりして論文をかけたりするといいな、と思っています。就職してからもこういう実情を忘れずに、積極的にボランティアとかに参加したいです」
星「私も卒業研究は決まっていませんが、若者の働き方について関わっていきたいと思っています。それから、今、学生向けの食料支援ボランティアの活動をやっているのでそれも続けたい。市民の方々、地域の企業の方々がここまで支援をしてくださっているということはボランティアに携わって初めてわかりました。今後も学生の立場を活かして関わっていきたいです」
>>「コロナ禍における学生生活調査2021」調査報告書(PDF)はこちらからご覧いただけます
調査日時・方法
- 調査実施時期:2021年7月15日~8月11日
- 調査対象:茨城大学の学部生
- 回収数:685
- 調査方法:Microsoft Formsを用いたアンケート
- 調査項目の概要:属性、住居形態、大学生活(授業・課外活動)、経済生活(アルバイト・仕送り)、学生支援、大学への要望