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原始惑星系円盤のリング構造が惑星形成の歴史を残している可能性を示唆
最新の観測とスーパーコンピュータから世界で初めて解明:新たな惑星形成理論を展望

 茨城大学、工学院大学、東北大学らの研究グループは、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」を用いた数値流体シミュレーションにより、原始惑星系円盤にて観測されるリング構造が惑星形成の歴史を示している可能性を明らかにしました。
 惑星は生まれたての若い星の周囲にある「原始惑星系円盤」で作られます。近年、チリの大型電波干渉計「アルマ望遠鏡」によってその詳細な構造が明らかになってきており、原始惑星系円盤にはリング状の構造がたくさん存在することなどが分かっています。このリング構造を作り出す要因のひとつに、円盤内で形成される惑星の存在が考えられています。
 これまで惑星によって作られたリング構造には、常に惑星が付随するものと考えられてきました。しかし今回の計算から、惑星が生まれたときに形成されたリング構造はその場所に残る一方、惑星は中心の星に向かって、リングを「置き去り」にして移動する場合があるということが分かりました。移動した惑星はその先で新たなリングを作ることから、原始惑星系円盤内で動いた惑星の「始点」と「終点」に2つのリングが作られることになります。この計算結果は、観測されているリング構造が惑星形成の歴史をそのまま残している可能性を示唆しています。
 今後、次世代の望遠鏡であるTMTやngVLAによって、内側に移動した惑星を直接見つけることが出来れば、この説が裏付けられると期待されます。
 この成果は、11月12日(EST)、The Astrophysical Journalに掲載されました。

>>詳しくはプレスリリース(PDF)をご覧ください

背景

 太陽以外の星を公転する惑星(系外惑星)は、これまでに4000個以上見つかっています。これらの惑星は、星が生まれるときにその周辺にできる「原始惑星系円盤」に塵やガスが集まることで作られたと考えられています。その形成過程を解明するため、近年、ハワイのすばる望遠鏡やチリの大型電波干渉計「アルマ望遠鏡」によって原始惑星系円盤での惑星の痕跡、あるいは惑星そのものを探す観測が盛んにおこなわれており、その結果、原始惑星系円盤にはリング状の構造が多数存在していることが分かってきました。

 このようなリング構造の成因は、理論的にいくつか考えられています。その一つが惑星の存在です。原始惑星系円盤内に惑星が形成されると、その惑星が周辺のガスと重力を及ぼし合うことにより、惑星の通り道に沿って円盤のガスや塵の密度が下がることが、数値シミュレーションによって確かめられています。惑星の通り道に沿った密度の薄い領域(ギャップ)は、惑星の形成を示す重要な痕跡と考えられており、それらの構造の位置・幅・深さなどが惑星形成にどう関係しているかについて、世界中で研究が取り組まれています。

 アルマ望遠鏡では主に円盤ガスに含まれる微量の塵(ほこりや砂粒のような固体の微粒子、以下「ダスト」)による熱放射を観測しています。そのようなダストはギャップ構造のすぐ外側にリング状に集まることが理論的に知られていました。従って、アルマ望遠鏡で観測されるようなリング構造には、そのすぐそばに惑星があるという可能性が示唆されてきました。

 加えて、これまでの理論的な研究から、惑星が作る円盤ガスのギャップの構造には円盤内のガスの乱流の強さが重要であると考えられてきていました。アルマ望遠鏡による観測的研究によって、円盤の乱流は弱く、原始惑星系円盤には静かな流れが生じていることが分かりつつあります。しかし、このような弱い乱流の円盤の中で惑星が形成されたときにどのようなことが起こるか、ダストのリングと惑星の関係がどのようになるかについては、まだ理論的に解明されていませんでした。

 本研究は高解像度数値シミュレーションによって、乱流の弱い原始惑星系円盤での惑星とダストのリングの関係を世界で初めて調べたものです。

研究手法・成果

 今回、国立天文台天文シミュレーションプロジェクトの天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」を用いて、円盤内の惑星、ガスの分布、およびダストの分布の振る舞いを、数値流体シミュレーションを用いて詳細に調べました。
 その結果、原始惑星系円盤では次のようなことが起こることが分かりました。

① はじめ、惑星は形成された場所にダストのリングを作る。
② その後、「惑星移動」が生じることで、惑星の軌道半径が100万年程度の時間をかけてだんだん小さくなっていく。
③ 中心星付近に移動してきた惑星は、その場でもう一つのダストのリングを作る。

 ②の過程で惑星が最初にできた場所からいなくなった後、①の過程で形成されたダストのリング構造がどのようになるかが、円盤の乱流の強さによって異なります。乱流が強い場合は、①のリングは惑星がいなくなった後すぐに乱流によってかき乱されて消えてしまいます。しかし、乱流が弱い場合には、②の過程で惑星がいなくなった後も、ダストのリング構造は乱流にかき消されることなく長期間存在することができるということが分かりました。この場合、①の段階でできたリングは惑星に置き去りにされることになります。さらに、③の段階では、始めにできたリングと後からできたリングが共存するということが起こりました。

 様々に条件を変えてシミュレーションを行ったところ、この時間進化に応じて、観測可能なダストの分布は、(I)初期の外側のリングができる段階→(II)惑星が移動しながらつくるリングと、取り残された外側のリンクが共存している段階→(III)外側のリングが乱流によってなくなり、内側に移動した惑星のリングのみが残る段階、と3つの段階を追って変化していくことが確かめられました。

 つまり、惑星が中心の星に移動している間に、最初のリングを「置き去り」にし、さらに移動した惑星がその先で新たなリングを作ることから、円盤内で移動した惑星の「始点」と「終点」に2つのリングが作られるということです。

 興味深いことに、アルマ望遠鏡でリングが見つかっている円盤の多くは、この3段階のいずれかに対応すると考えられる構造を持っています。

 これらの結果を踏まえ、本研究グループでは、惑星は原始惑星系円盤の外側から内側へのダイナミックな移動を経て形成されるという、惑星形成の新しい描像を提唱しています。

protoplanetarydisk1.jpg アルマ望遠鏡で観測された円盤ギャップ構造とシミュレーションで得られた惑星によって作られたギャップ構造。シミュレーション結果で円盤中央の灰色領域はシミュレーションの計算領域外に対応する。(クレジット:金川和弘、ALMA (ESO/NAOJ/NRAO))

protoplanetarydisk2.jpg シミュレーションで得られた惑星移動とともに変化するダストリング構造と対応すると考えられるアルマ望遠鏡で観測された原始惑星系円盤。シミュレーションの灰色領域はシミュレーションの計算領域外を表している。(クレジット:金川和弘、ALMA (ESO/NAOJ/NRAO))

今後の展望

 本研究によって、円盤リング構造は形成中の惑星の位置のみではなく、その進化の歴史をも表している可能性が明らかになりました。今後、さらに多くのリング構造が発見されることで、より一般的な惑星移動や進化の描像が明らかになると期待されます。

 また、TMTやngVLAといった次世代大型望遠鏡によって、アルマ望遠鏡やすばる望遠鏡よりもより中心の星に近い円盤構造が詳しく調べられる予定です。そのような観測で、内側に落下した惑星を検出することができれば、本研究の提唱する新説の強力な裏付けになると考えられます。

謝辞

 本研究は日本学術振興会科研費補助金(科研費)若手研究(19K14779: 代表 金川和弘)の支援を受けて行われました。また、観測画像はアルマサイエンスアーカイブのデータ(2012.1.00761.S, 2016.1.00344.S)およびDSHARP(Disk Substructures at High Angular Resolution Project)で公開されているデータを用いました。

論文情報

  • タイトル:Dust rings as a footprint of planet formation in a protoplanetary disk
  • 著者:Kazuhiro D. Kanagawa, Takayuki Muto, Hidekazu Tanaka
  • 雑誌:The Astrophysical Journal
  • 公開日:2021年11月12日(EST)
  • DOI:10.3847/1538-4357/ac282b

著者の情報

  • 茨城大学 研究員 金川 和弘
    工学院大学 教育推進機構 准教授 武藤 恭之
    東北大学 大学院理学研究科 天文学専攻 教授 田中 秀和