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脱窒菌から取り出した亜硝酸還元酵素の構造解析に成功
高精度クライオ電子顕微鏡の画像を解析 環境浄化技術の開発に期待

 茨城大学大学院理工学研究科(理学野)の山口 峻英 助教、高妻 孝光 教授と、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所の千田 俊哉 教授、安達 成彦 特任准教授、守屋 俊夫 特任准教授らの共同研究グループは、クライオ電子顕微鏡法(Cryo-EM法)を用いて、環境浄化に有用な脱窒菌から取り出した銅含有亜硝酸還元酵素(CuNiR)の構造を高精度に決定しました。
 Cryo-EM法で、CuNiRのようなサイズの小さいタンパク質の構造を精度良く求めることは通常困難ですが、研究グループは、物質構造科学研究所の構造生物学研究センターにある電子顕微鏡を用いて撮影した分子画像を適切に解析していくことで、CuNiRの構造を3オングストローム(1オングストロームは100億分の1メートル)を切る解像度で構造を得ました。これまでに報告されたX線結晶構造解析による分子構造は、結晶中に閉じ込められることによる歪みとX線による損傷を含んでいました。しかし、今回Cryo-EM法で得た構造は、溶液中という生体内により近い状態で瞬間凍結され、極低温に保たれたまま撮影されたため、これらの歪みや損傷を含みません。
 本研究による成果は、酵素利用技術や人工酵素の設計・開発等による水環境・土壌の浄化に貢献することが期待されます。また、結晶による歪みや損傷を含まないCuNiRの構造が明らかになったことで、クライオ電子顕微鏡による金属タンパク質の単粒子構造解析の重要性がより一層強調されました。
 この成果は、国際学術雑誌であるJournal of Structural Biologyに掲載されました。

>>詳しくはプレスリリース(PDF)をご覧ください

背景

 脱窒菌は、窒素酸化物を無害な窒素分子へと段階的に変換する働きをもつ微生物で、窒素循環の一端を担っています。脱窒菌によるこの反応は脱窒とよばれ、窒素肥料の過度な利用によって深刻化している水質環境汚染や土壌の酸性化の原因である窒素酸化物の除去に利用できます。脱窒の一連の反応は、脱窒菌が持つ様々な酵素によって行われますが、このうち銅含有亜硝酸還元酵素(CuNiR)は亜硝酸イオンを一酸化窒素に変換する反応を担っている重要な酵素の1つです。CuNiRが働く仕組みを解明するために、1960年ころからこの酵素の生化学研究が盛んに行われ、近年では酵素機能を理解する鍵となる構造研究がX線結晶構造解析によって行われてきました。しかし、X線結晶構造解析で得られるのは、結晶という特殊な環境の中に閉じ込められること(パッキング)で歪んだ構造であるため、CuNiRが本来の機能を発揮する状態での構造決定を行う必要がありました。また、CuNiRはX線によるダメージを受けやすい金属イオンを含む酵素であることも問題でした。

研究手法・成果

 今回研究グループは、結晶化が不必要で、さらに生体内により近い溶液という環境にあるタンパク質を瞬間凍結して、そのまま極低温に保ち撮影できるクライオ電子顕微鏡法を用いて、結晶中のパッキングの影響で生じる歪みや損傷の少ないCuNiRの立体構造を高精度に決定することに成功しました。
 クライオ電子顕微鏡による単粒子解析は、撮影された2次元の分子画像をもとに立体的なタンパク質の分子形状を現すCryo-EMマップを取得していく方法のことです。CuNiRが働く環境に近い水溶液中の構造解析を行うために、研究グループは、KEK物質構造科学研究所 構造生物学研究センターにある200kVクライオ電子顕微鏡を用いてCuNiRの分子写真を撮影しました。この写真を適切に処理したことで得られたCryo-EMマップの解像度は3オングストロームを下回っており、分子量の小さい(110kDa)タンパク質としては高精度なものでした。さらに新しく考案した方法でCryo-EMマップを比較したところX線で解かれた結晶構造とは異なっていたため、今回得られたCryo-EMマップには、結晶中に閉じ込められるときに生じる構造の歪みや、電子線によるダメージが含まれていない、CuNiRの本来の状態に近い構造が反映されていることがわかりました。また、Cryo-EMマップは、CuNiRの酵素反応に関わる活性中心の近くに位置するアスパラギン酸98番とヒスチジン255番周辺の構造が、pHを変えることで僅かに変化することを示していました。

CuNiR-1r.jpg今回得られたCuNiRのCryo-EMマップ(左:pH 6.2、右:pH 8.1)。
色は解像度を表している。

CuNiR-2.jpgpHを変えたときに起こるアスパラギン酸98番とヒスチジン255番周辺の変化を示す差分マップ。pH 6.2からpH 8.1に変えた時に、Cryo-EMマップ上に新しく現れた部分を赤色、消失した部分を青色で描いた。

今後の展望

 本研究によって損傷の少ないCuNiRの正確な立体構造が明らかになったことで、クライオ電子顕微鏡による金属タンパク質の単粒子構造解析の重要性がより一層強調されました。CuNiRは、微生物による水環境・土壌の浄化に関係する重要な酵素であるため、本研究を通して酵素利用技術の開発、人工酵素の設計等につながることが期待されます。

論文情報

  • タイトル:2.85 and 2.99 Å resolution structures of 110 kDa nitrite reductase determined by 200 kV cryogenic electron microscopy
  • 著者:Naruhiko Adachi, Takahide Yamaguchi, Toshio Moriya, Masato Kawasaki, Kotaro Koiwai, Akira Shinoda, Yusuke Yamada, Fumiaki Yumoto, Takamitsu Kohzuma*, and Toshiya Senda*
  • 雑誌:Journal of Structural Biology
  • 公開日:2021年7月16日(日本時間)
  • DOI:10.1016/j.jsb.2021.107768