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<後篇>茨大の教育システムのデザイン:改善と向上の仕組みがどう作られたのか
―太田寛行学長・嶌田敏行教授に聞く

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 茨城大学の「教育の質保証」の取り組みが、文部科学省の補助事業における事後評価で「S」評価を獲得し、注目を浴びつつあります。本学の取り組みの特徴やこれまでの試行を振り返る、太田 寛行 学長、嶌田 敏行 全学教育機構教授のインタビュー。前篇に続く今回の後篇では、「質保証」の取り組みを踏まえた入試や高等学校の教育のあり方、COVID-19下の教育の状況、教育のDXの展望などを語ってもらいました。

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質保証の取り組みから見た入試・高等学校教育

―ここまで大学の卒業後、つまり「出口」の保証の話をしてきましたが、「入口」の話もできればと思います。どういう学生を送り出すかというディプロマ・ポリシー(DP)と、その学生を育てるためにどういう学生を迎え入れるかというアドミッション・ポリシー(AP)は当然深く関連していると思いますが、質保証の取り組みから見て、入試のあり方をどう考えますか。

太田「これが難しい問題です。日本の受験産業は、予備校などがもつデータベースをもとに、偏差値で進学先を選ぶという方法論だけで画一的に進んできたところがあります。そうでないシステムに移行できるのか。ただ、一部の企業では、SDGsなどに応じた大学の戦略面を柱にして進学情報を提供するようにもなってきているので、少しずつ変化が生じてきているのかも知れませんね。」

―高等学校でも、大学のように学校ごとの特色ある目標が求められたり、探究活動に取り組んだりといった変革が進んでいます。大学の教育と高等学校の教育とは、どのように連携をしていけば良いでしょうか。

太田「本学では『イバダイ・ビジョン2030』を発表して、そこで望ましい社会と大学のあり方も示しているわけですが、こうしたビジョンを学内だけのツールに留めるのではなくて、高校を含めた地域の中で共有していくことが重要だと思っています。もちろん、高校だけでなく、企業や自治体にもアピールしながら、格差が埋まらない時代、ひとりひとりの多様な幸せが国の目標になる時代の中で、地域全体でどのように教育に取り組むのか、ということを議論していかなければいけません」

DSC_5110r(BupCdown).JPG太田学長

嶌田「僕のほうはもっとシンプルな話になりますが、学生を育てていくというときに、高校と大学って引き継ぎをちゃんとやっていませんよね、と。高校側が『ここまでやってきたからあとよろしく』、大学側は『学生がこういうふうに成長したよ』、という情報交換がほとんどない。ここでも両者のコミュニケーションを促すように、データを活かしていければと思っています」

太田「あとは高等学校だけでなく、本学であれば附属学校園を活かしていきたいですね。大学としてのビジョンを附属学校園とも共有しながら、その中で教育の在り方を考えて、実践していく。幼稚園もとても良い取り組みをしているのに、大学の方ではあまり知られていないのが現状です。」

成果が上がっている理由

―再び「出口」の話に戻ります。ここ数年の変化を見ていて嬉しいのは、全体的な値が、年々着実に伸びているという事実ですよね。この理由をどう考えていますか。

嶌田「この点が実は一番難しい。正直言って、必ずしも継続的に高くなっていくとは想定はしておらず、年によっては前年より下がるということも予想していたのです。しかし実態は下がらず、上がり続けている。
 学生が漫然とアンケートに答えているだけでは、偶然このような結果になるということはないので、茨城大学の教育として何かしらの変化が生じており、それを反映していると考えるのが合理的です。ここに一番影響を与えているとしたら、やっぱり先生たちだと思うのです。つまり、学生たちを成長させたいという先生のプロ意識とDPが結びつき、それが日常化していって、たとえばシラバス上で『コミュニケーション力』が身につくと明記すれば、『じゃあグループ活動を入れてみよう』とか思ったりする。そういうことが重なって全体的に影響しているということだと思います」

太田「恐らく、今までは先生たちも自分の研究という観点で教育や授業を考えていたと思うのです。ところがこういう情報が出てくると、自分の授業と数値の関係が絶対に気になってしまう。それによって、個人ではなくチームで教育をしていくのだという意識が強まると思うのです。そういうところが徐々に変わりつつあるのではないか。部分と全体がつながりつつあるということでしょうか。」

キャンパスライフをどうするか

その中で、心配なのが昨年度からのCOVID-19下での特殊な状況です。授業調査における理解度などは上がっていますが、大学全体に対する満足度という点ではかなり厳しい面があると思います。

太田「学生たちのコミュニケーション、仲間とのつながりという点での危惧を多くの方がもっています。これは本当になんとかしなければなりません」

enkakuzyugyou.jpg遠隔授業の様子

嶌田「僕はIT基盤センターで新入生のパソコンの相談の対応もしているのですが、最初のうちは、自分で一通りやってみたけど不安だから相談に来ました、という学生が多い。そういう質問が、顔合わせの機会をもったあとは一気になくなるのです。つまり、ちょっとわからないことは、友達に聞けば解決するということです。授業も同じはず。そうやって友達に聞く、という組織での学修、ラーニング・コミュニティの存在が、わからないことを補完して次に発展させる上で大きな効果をもたらしているのですね。
 その点で、特に今の2年生は去年の前期にほとんど横のコミュニケーションがとれない状況だったので、とても心配しています。授業単体では理解度などが上がっているとしても、複数の授業で学んだことを結び付けたり発展させたりということが、友達との会話が少ない中で十分にできていないのではないか。それを対面活動で埋め合わせるような工夫をしていただけると良いのでは、ということをFD(教員向け研修)では話をしています。」

―個人ではなく組織、集団としてどういう学修がされたのか、ということが大学にとって重要ということですね。そういう場を用意していくことも大事ですし、今後、その価値をこそ、どう測り、可視化していくかということも重要になりそうです。

太田「昔でいえば、ノートの貸し借りとか。大学における教育のコミュニティの大切さを、この状況で痛感しましたよね。そういうのは、以前は先生はタッチしなかったんだけれど、本当はそういうことに価値があり大事なことだと思いました」

嶌田「大学での学修は、友達と遊ぶ、話をするというキャンパスライフと一体のものだと改めて認識させられました。キャンパスライフをどうするか、というのが当面の合言葉です」

―あわせて教育のDX(デジタル・トランフォーメーション)というのもキーワードですね。データで現場をドリブンしていく、ということが、ますます鍵となりそうです。

嶌田「大切なのは、改善をするのは大学(管理者)ではないということです。現場の先生自身が改善したいと思わないと変わらない。他大学では、『せっかく情報を用意したのに先生が見てくれない』という悩みをよく耳にしますが、必要な情報を、必要な人に、タイムリーに渡せるかが大事。現場で改善に向けた議論が起こるように、いかに的確な素材を、なるべく早く渡せるか。そのリードタイムをいかに短くするか、情報のロジスティックを最適化していくことが教育のDXのポイントとなると思います。」

DSC_5094r(Bup).JPG嶌田教授

取材後記

 茨城大学の教育の質保証の取り組みの核は、太田学長が「質保証」という言葉に抱いている違和感にこそ貫かれていると思った。教育は、「質保証」という言葉にまとわりつくモノの納品を目指すものではなく、結局は人と人の間の営みであり、膨大なデータも、その営みをどう活性化させるかということが重要だという思想がベースにある。もちろん、「おもしろい」データであればなんでも良いということでもない。むしろ、研究者である大学の教員がそれを使って議論するとなれば、「科学的」であることは前提条件になる。学生のラーニング・コミュニティの形成が大学教育の重要な要素であるのと同じように、教育改善に向けた教職員のラーニング・コミュニティも重要だということだ。

 茨城大学では、DPと質保証が当然のように結びついているが、それが決して日本の大学におけるスタンダードなわけでもない、というのも興味深い話だった。本学にとっては当たり前であることも、実はそこに茨大スタイルの強みの源泉があるということを、ぜひ多くの人に知ってもらいたい。

 また、今後は学生自身が、当事者性をもって個人あるいは集団の学修成果を実感できるシステムを作っていきたい、という意気込みも語られた。自らの成長の過程の可視化と、キャンパスライフを快適に過ごすためのサポートの両方を兼ね備えたアプリなどもできると良いかも知れない。(取材・構成:茨城大学広報室 山崎一希)

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参考