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【卒業生インタビュー】株式会社タベルモ・林 宏恵さん
(2014年連合農学大学院博士課程修了)

「自分との闘い」から「相手がいる」研究へ

 林宏恵さんが生まれた翌年の1987年、利根川進氏が日本人として初めてノーベル生理学・医学賞を受賞した。その後、世界での生物学に関する研究は大きな進展を遂げた。日本でも山中伸弥氏、大村智氏、大隅良典氏、本庶佑氏と、同賞の受賞が続いたことは、記憶に新しい。
 2003年には、ヒトのゲノムの全塩基配列を解析する「ヒトゲノム計画」が完成。生命を遺伝子の働きとして研究可能にした画期的な出来事だ。当時、高校生だった林さんは、「将来いろいろな分野で役立つはず」と確信して、茨大農学部へ。博士課程の時には、「非コードDNA領域単独によるプラスミド分配システムの解析」という研究で、日本ゲノム微生物学会年会優秀発表賞を受賞した。受賞後、「研究成果が少しでも社会的に認知され、価値が上がることを願う」と応えたOGは、現在、研究者として食品開発にたずさわる。その材料は、藻だ。

 藻は、主にボルネオ島にあるブルネイ・ダルサラーム国で培養して輸入していますが、実はここ(東京のオフィス)の隣の部屋でも、ガラス管の中で培養しているんですよ。収穫して、そのままパッケージするっていう感じなので、商品自体は生きています。加熱はなるべく最小限にして、それを原料にジュースやアイスクリームなどを商品化しています。パイナップルとグアバを混ぜたドリンク。なかなかのものですよ(笑)。
 優れた栄養バランスをもつ"藻"。弊社で扱っているのは、生のスピルリナ。スピルリナというのは藻の一種で、らせん状の形をしています。欧州や東南アジアではメジャーな食材で、タンパク質が非常に多くて、優れた栄養バランスを持っているので、最近では日本でも「スーパーフードの王様」と呼ばれたりしています。弊社ではなかでもタンパク質に着目していて、将来の世界的な人口増加で不足するだろうタンパク質を藻で代用できる食品を開発していこうと取り組んでいます。
 私も「藻で食品?」というのには、ちょっとびっくりしました(笑)。食べてみて、ほとんど味がしないので、「なるほど」と思いましたね。今までにない食材だなって。水のような感じですよね。水って、味がないので、毎日飲めますよね。味がないものはストレスがないんです。これはひとつの売りになるなって思いましたね。
 大学時代は久留主泰朗先生(現・茨城大学理事)の研究室で、微生物の研究をしていました。博士課程を修了後、微生物などのバイオテクノロジーの研究に特化した事業に力を入れていると聞いて、面白そうだなと思い、ちとせ研究所に就職、事業開発部でリサーチャーとして仕事の基礎を学びました。そんな中、社内のスピルリナ培養プロジェクトが、食品事業として会社を立ち上げるという話を聞き、手を挙げたんです。社名もそのまま「タベルモ」です(笑)。
 学生時代は、研究は「自分との闘い」でしたが、仕事での研究は「相手がいる」ということですよね。「自分がやりたいから、やっている」という研究から、「誰かから求められているものに応えなきゃいけない」という研究に変わったというか。お客様が欲しいものは何かということを考えてから、すべてが始まる。そこは学生時代と大きく違うところです。
 研究というのは、文献などで下調べをして予測を立ててから、試験して結果を得て、試行錯誤しながら考察を繰り返すというのが一般的な流れですが、それは仕事も同じです。作業や目的は異なっても、過程はすべて同じ。一つ一つの過程をちゃんとやって、振り返って、ここがダメだったから次はこうしようと、そんなステップを積み上げていくと、成功が待っている。大学でその過程をきちんと身につけたことは、非常に役に立っていますね。


alumni_学生時代.JPG学生時代の林さん

知らない、食わず嫌いは、「もったいないな」――。

 大学院2年生の2011年3月11日、博士課程進学に必要な書類準備のため、郷里の福島へ帰省する途上、常磐線の列車の中で東日本大震災に見舞われた。いわき駅の手前で電車が停まり、車外へ避難し、近隣の小学校で一夜を明かした。そこで知り合った数名といわき方面へヒッチハイクで移動。同市内のビジネスホテルで今後の方策を練っていたとき、福島第一原発の原子炉建屋爆発の一報が飛び込んできた。ホテルが確保したタクシーで希望者数名と郡山へ移動、前夜の小学校から避難を共にした者の中に旅行代理店に勤める者がいて、宿泊可能な施設を紹介してくれた。13日、宿泊施設がバスで宇都宮駅まで送迎してくれた。電車で埼玉県の親戚のもとに無事到着し、常磐線が復旧するまで半月ほど滞在。土浦市内の下宿に戻ったときはすでに桜の季節になっていた。阿見の研究室をひと月かけて整え、研究を再開・・・。あれから10年。都内で研究生活を送りながら、福島の復興を見守り続ける。

 郷里の南相馬市は、モリアオガエルの生息地とか天然記念物のたくさんある自然豊かなところです。車で走っていると、イノシシが並走するような環境で、文字通り猪突猛進に育ちました(笑)。茨大は、福島に近かったこともあって選びました。学生3人に対して教員が一人という農学部の指導体制でしたから、しっかり指導してもらえるのはいいなって。食品衛生管理者任用の資格も取得できて、ちゃんと卒後のことも考えてくれているのも、選んだ理由でした。
 今の商品開発では、賞味期限の設定や安全性評価などの品質設定も私の役割です。そのときに大学で研究していた微生物の知識が役立っています。資格があったおかげで食品衛生責任者もスムーズに取得できました。なるほど、と思いましたね。農学部の卒業生に食品メーカーの品質管理に就職される方が多いのは納得です。
 生物の分野には高校時代から興味がありました。映画などで研究者の姿などを見ると「かっこいいな」と憧れたりして...。でも、実際に研究にたずさわってみると、地味だなと思いました(笑)。その落差というか、「こんなはずじゃなかった」という人と「意外に耐えられるかも」という人が、マスター(修士課程)に進む分かれ道ですね。
 マスターからドクター(博士課程)に進むことになったのは、最後まで悔いのないように自分の研究をやり切りたいという思いが強かったからですね。今から思うと、久留主先生に(博士課程に進むか否かの)いいタイミングで、海洋調査船「みらい」に乗せられたなって、作為を感じなくもないのですが(笑)。でも、ちゃんと研究をまとめられて、学位を取れたのも、先生の力があってこそです。
 大学は知的好奇心が旺盛な若者がたくさん集まるところです。自由な環境とよく言われますが、実際にはその探求にはたくさんのお金がかかります。先生方が苦労して研究費を捻出してくださるから、私たちは自由に学べたことを忘れてはいけないと思っています。
 これから携わりたい研究は、やはり、食。毎日必要とする「食べるもの」に関わっていきたいと思っています。何か新しい物事に対して、人は危機感や躊躇があると思うんです。でも、一歩踏み出すと面白いものに繋がり、広がりが生まれる...そういう感覚が好きですね。知らないままにしておくとか、食わず嫌いとか、「もったいないな」と思います。その広がりが研究の成果として、少しでも社会的に活かされる、そういう仕事をしていきたいです。


優れた栄養バランスを持つ藻、スピルリナ

プロフィール

林 宏恵さん
株式会社タベルモ マーケティング部 研究開発担当部長
農学部2009年卒業 大学院農学研究科修士課程2011年修了
連合農学大学院博士課程2014年修了

1986
年生まれ、福島県出身。2005年に茨城大学農学部資源生物科学科に入学、海洋微生物の研究に取り組み、修士、博士課程を経て博士(農学)を取得。卒業後は、株式会社ちとせ研究所(旧ネオ・モルガン研究所)に入社し、リサーチャーとして幾つかのプロジェクトに参加。その後、グループ会社の1つである株式会社タベルモに出向後、転籍。現在、研究開発部長として、生スピルリナの魅力を伝えつつ、藻食文化を広めるため、商品開発メインに取り組む。趣味は大学時代から始めた梅酒作りで、自分好みの味を求めて試行錯誤中。

(取材・構成:茨城大学広報誌『iUP』編集チーム)

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