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葉緑体核様体をコンパクトに折りたたむ「DNAクリップ」の発見
―ミトコンドリアとも共通する普遍的なしくみの解明―

 生物の遺伝情報を担うDNAは、細胞にきちんと収まるように、生体内で小さく折りたたまれなければなりません。たとえば細胞核DNAは多様なヒストンによって折りたたまれて染色体を構築し、ミトコンドリアDNAはTFAM/Abf2pと呼ばれるタンパク質によって折りたたまれて「核様体」を形成します。一方、植物などで光合成を担う重要な細胞内小器官である葉緑体にも独自のDNAが存在しますが、これら葉緑体DNAが折りたたまれて「葉緑体核様体」を形成する仕組みは分かっていませんでした。今回、茨城大学理工学研究科の小林優介助教を含む京都大学等の研究グループは、緑藻クラミドモナスの葉緑体核様体の解析から、葉緑体DNAを折りたたむタンパク質「DNAクリップ」を発見しました。

 このタンパク質は、2つのDNA結合部位(High mobility group (HMG) box)を持っており、その構造はミトコンドリアのTFAM/Abf2pとそっくりでした。HMG box domain protein (HBD)1と名付けたこのタンパク質について、ゲノム編集によって遺伝子を破壊すると、葉緑体核様体は解けて小さくなりました。さらにHBD1タンパク質のDNAへの結合様式を、高速原子間力顕微鏡とDNAオリガミをもちいて観察してみると、HBD1がDNAを折り曲げたり(bending)、2本のDNA鎖を架橋(bridging)したりする様子が捉えられました。これらの結果から、HBD1は二つのDNA結合領域を用いて、DNAを折り曲げたり架橋したりする「DNAクリップ」として、葉緑体DNAを折りたたみ、葉緑体核様体の構築に貢献していることが示されました。

 本研究の成果は2021年5月11日に米国の国際学術誌「Proceedings of National Academy of Sciences, USA」にオンライン掲載されました。

>>詳しくはプレスリリース(PDF)をご覧ください

背景

 光合成は生命活動の基盤です。それを担っているのは、植物や藻類がもつ直径わずか5マイクロメートルほどの小さな細胞内小器官である葉緑体(色素体)です。葉緑体には、シアノバクテリア様の祖先から引き継がれた独自の葉緑体DNAがあり、これらには光合成装置の構築や葉緑体の形成に欠かせない遺伝子群がコードされています。葉緑体DNAは裸で葉緑体内に浮遊しているわけではなく、多様なタンパク質によって折りたたまれて「核様体」とよばれる構造を形成しています。葉緑体核様体は、いわば葉緑体にとっての染色体であり、細胞核の場合と同様に、葉緑体DNAの複製・分配の基盤です。しかし核様体を構成するタンパク質の種類および機能については良くわかっていませんでした。

研究手法・成果

 今回、研究グループでは、緑藻クラミドモナスから精製した葉緑体核様体に含まれるタンパク質群について網羅的な質量分析を行いました。同定された多数のタンパク質群の中に、二つのDNA結合部位(High mobility group HMG box domain)をもつタンパク質が見つかりました(HBD1)。この構造は、ミトコンドリア核様体の主要構成タンパク質であるTFAM/Abf2pにそっくりでした。HBD1タンパク質は葉緑体核様体に局在し、DNA結合能をもっていました。ゲノム編集によりHBD1遺伝子を破壊してみると、葉緑体核様体がほどけて細かく散ったことから、このHBD1タンパク質が葉緑体核様体の折りたたみに貢献していることが示されました。そしてこの葉緑体核様体の拡散は、2つのDNA結合部位をもつHBD1遺伝子を導入することで修復された一方で、1つのDNA結合部位をもつ改変HBD1遺伝子では修復されなかったことから、HBD1が2つのDNA結合部位をもつことの重要性が示唆されました。HBD1遺伝子を、ABF2遺伝子が壊れた酵母に導入したところ、ミトコンドリア核様体の異常を修復することができたことから、HBD1TFAM/Abf2pと類似の機能をもつことが示されました。さらにHBD1タンパク質のDNAとの結合様式を、高速原子間力顕微鏡とDNAオリガミをもちいた手法で詳細に観察してみると、HBD1タンパク質がDNAの折り曲げと架橋の両方を行うことが示されました。以上より、葉緑体には二つのHMG-box domainをもつHBD1が存在し、それが「DNAクリップ」として葉緑体DNAを折りたたみ、架橋することで、核様体の構築に貢献していることが明らかになりました。

波及効果、今後の予定

 今回の解析により、葉緑体核様体構造の一端が明らかになりました。葉緑体核様体の構造は葉緑体DNAの複製・修復、遺伝子発現、遺伝など様々なプロセスに関与していると推定され、今後HBD1タンパク質の機能をより多面的に解析し、それらを改変することで葉緑体機能の新たな制御システムの構築につながる可能性があります。またHBD1の構造はタンデムに並んだ2つのHMG-boxドメインをもつという点においてミトコンドリア核様体の主要タンパク質TFAM/Abf2pと類似しており、これらの遺伝子群がHMG-boxドメインの重複を介した収斂進化によって生み出されてきた可能性を示しました。HBD1タンパク質の役割を調べることは、葉緑体機能だけでなくミトコンドリア機能を理解することにも繋がります。将来的にはヒトのミトコンドリア機能不全による病気への理解も深まると考えています。

研究者のコメント:西村芳樹 京都大学大学院理学研究科 助教

 本論文は第一著者の7年越しの地道な努力の集大成です。海外の論文審査員の方に「このように明確かつ説得力をもって結果が示され、このように明確に書かれた論文を審査する喜びを、私はこれまでほとんど経験したことがありません」という賛辞をいただいた際には、これまでの苦労が報われたような喜びを感じました。

論文タイトルと著者

  • タイトル:HBD1 protein with a tandem repeat of two HMG box domains is a DNA clip to organize chloroplast nucleoids in Chlamydomonas reinhardtii.(HMG boxドメインを直列に2つ持つHBD1タンパク質はクラミドモナスの葉緑体核様体を形作るDNAクリップである)
  • 著者:Mari Takusagawa, Yusuke Kobayashi, Yoichiro Fukao, Kumi Hidaka, Masayuki Endo, Hiroshi Sugiyama, Takashi Hamaji, Yoshinobu Kato, Isamu Miyakawa, Osami Misumi, Toshiharu Shikanai, Yoshiki Nishimura
  • 掲載誌:Proceedings of National Academy of Sciences, USA.
  • DOI:10.1073/pnas.2021053118

※本研究は日本学術振興会科学研究費助成事業(課題:17H05840, 18H02460, 18K19337, 18K14733, 19H04861, 21H02504)、公益財団法人 三菱財団自然科学研究特別助成(課題:201910032), 公益財団法人 大隅基礎科学創成財団(課題:203200500032)、日本科学協会 笹川科学研究助成(課題:29-440)、奈良女子大学大和・紀伊半島学研究所一般共同研究(課題:9)の支援を受けました。