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電荷中性の粒子がもたらす新しいタイプの金属状態の発見

 京都大学大学院理学研究科の佐藤雄貴博士課程学生(研究当時、現:理化学研究所基礎科学特別研究員)、笠原裕一同准教授、松田祐司同教授、茨城大学大学院理工学研究科(理学野)の 伊賀文俊教授、米国ロスアラモス国立研究所の浅場智也研究員(研究当時、現:京都大学大学院理学研究科 特定准教授)の研究グループは、米国ミシガン大学、米国ロスアラモス国立研究所と共同で、イッテルビウム化合物 YbB12の 電気抵抗を超強磁場中で測定しました。YbB12は 非常に強い磁場中で電気を流さない絶縁体から電気を流す金属へと変化しますが、我々は電気抵抗が磁場とともに振動する量子振動と呼ばれる現象を絶縁体と金属の両方の状態において観測し、解析の結果どちらの状態においても電荷中性の粒子がこの量子振動を引き起こしていることを明らかにしました。これは金属状態において電荷中性の粒子と電子が共存していることを示しており、新しいタイプの金属状態が実現していることを示しています。

 本成果は、2021年4月13日0時(日本時間)に英国の科学雑誌「Nature Physics」にオンライン掲載されました。

>>詳しくはプレスリリース(PDF)をご覧ください

背景

 物質には、電気を流す物質(金属)と流さない物質(絶縁体)の2種類が存在します。温度の低下とともに、金属では電気抵抗が減少し、絶対零度でも電子が流れることができるため有限の値を取る一方で、絶縁体では電気抵抗が増大し、絶対零度において電気抵抗は無限大となってしまい電子は全く流れません。金属の特徴はフェルミ面を持つことであり、フェルミ面とは電子の示すフェルミ統計に従って、運動量ベクトル空間のエネルギーの低い状態から全部の電子を詰めた時、電子で占められた状態と占められない状態の境をなす曲面のことです。フェルミ面は、金属の示す様々な性質、すなわち個性を決めるいわば金属の「顔」と言えます。フェルミ面の存在を示す最も直接的なものは、強磁場中で電気抵抗や磁化が示す量子振動と呼ばれる現象であり、量子振動は金属状態で観測され、その起源は電荷を持つ粒子(通常、電子)によるものであるというのがこれまでの物理学の常識でした。
 最近、本グループは、絶縁体であるYbB12において、本来観測されるはずのない量子振動が観測されること、さらには物質中に金属中の電子のように熱を伝える謎の電荷中性粒子が存在することを報告しました。このことは、YbB12が絶縁体とも金属とも区別することができない不思議な電子状態を持つことを示しています。YbB12においては、非常に強い磁場により絶縁体状態が壊され金属状態が現れることが知られていますが、この磁場により誘起された金属状態の性質を明らかにすることは、量子振動や中性粒子の起源を明らかにする上で重要な鍵となると考えられます。そこで今回は、超強磁場下でYbB12の研究を行いました。

研究手法・成果・今後の展望

 共同研究グループは、近藤絶縁体と呼ばれる物質群のひとつであるYbB12において、精密電気抵抗測定を米ロスアラモス国立研究所の強磁場研究所にて75テスラまでの強磁場中で行いました。その結果、絶縁体と金属の両方の状態において量子振動を観測しました。量子振動の振動周期や振幅の詳細な解析から、金属状態においても電荷を持つ粒子が量子振動を起こしているのではなく、絶縁体と金属の両方の状態において電荷中性の粒子が量子振動を引き起こしていることを明らかにしました。
 さらに金属状態においては電荷中性粒子と電子が共存し、前例のない特異な金属状態が実現していることを示しました。今回の発見は、電荷中性の粒子がフェルミ面を持つという新しい状態を明らかにしたものであり、今後は中性粒子の起源を明らかにすることで、物理学における新しい概念をもたらすことが期待されます。

研究プロジェクトについて

 本研究は日本学術振興会 科学研究費補助金(課題番号:JP15H02106,JP18H01177,JP18H01178,JP18H01180,JP18H05227,
JP19H00649,JP20H02600,JP20H05159)、同 科学研究費補助金 新学術領域研究「量子液晶の物性科学」(課題番号:JP19H05824)、JST CREST(課題番号 JPMJCR19T5)の支援を受けて行われました。

研究者のコメント

 絶縁体状態における量子振動の観測や絶縁体物質中に金属中の電子のように熱を伝える電荷中性粒子が存在することは、明らかに従来の常識を破るもので、発見の際の興奮が今でも鮮明に思い出されます。金属状態で量子振動が観測されることは、一見すると常識の範疇で予想される振る舞いかのように見えます。
 しかしながら常識にとらわれずに詳細な解析を進めていくと、電荷中性の粒子が量子振動を起こしていることが明らかになりました。電子同士が強く相互し合う物質系では、時に電子や原子などの物質の構成要素の諸性質のみでは理解できない興味深い現象が現れます。現在のところ中性粒子の起源は謎に包まれていますが、今後その起源を明らかにすることで新しい研究分野として発展することを期待しています。

論文情報

  • タイトル:Unusual high-field metal in a Kondo insulator
    (近藤絶縁体における特異な高磁場金属状態)
  • 著者:Ziji Xiang, Lu Chen, Kuan-Wen Chen, Colin Tinsman, Yuki Sato, Tomoya Asaba, Helen Lu, Yuichi Kasahara, Marcelo Jaime, Fedor Balakirev, Fumitoshi Iga, Yuji Matsuda, John Singleton, Lu Li
  • 掲載誌:Nature Physics
  • DOI 10.1038/s41567-021-01216-0