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新規含フッ素高分子材料を開発
環境規制物質の代替素材として期待

 茨城大学大学院理工学研究科博士後期課程の白井智大さん、博士前期課程の菅野康徳さん、同理工学研究科(工学野)の吾郷友宏准教授福元博基教授らの研究グループは、環境負荷の低減と高機能化を同時に達成する新たな含フッ素材料の開発に成功しました。

背景

 フッ素原子を含む高分子化合物(含フッ素ポリマー)は、撥水撥油性、高化学的安定性、低誘電率、低屈折率など、非フッ素化ポリマーにはない優れた機能を示します。とくに、炭化水素の水素原子が全てフッ素原子で置換されたパーフルオロアルキル基(Rf基)を有するポリマーは、低表面自由エネルギーや低付着性といった性質を活かし、工業的に利用されています。
 従来、優れた機能を示す含フッ素ポリマーとしては、炭素数が7以上の長鎖Rf基を側鎖に有するポリ(メタ)アクリレート化合物が用いられてきました。しかし、長鎖Rf基を有する化合物は生物濃縮性を示すパーフルオロオクタン酸(PFOA)等に分解する可能性があり、環境影響の観点から近年では実質的に製造が禁止されています。このため、炭素数が6以下の短鎖Rf基を有する化合物への代替が進んでいますが、長鎖Rf化合物と比較して性能が低下することが課題となっており、環境負荷の低減と高機能化を同時に達成する新たな含フッ素材料が求められていました(図1)。

含フッ素高分子材料の課題図1 含フッ素高分子材料の課題

研究手法・成果

 これまで、研究グループでは東ソー・ファインケム株式会社と共同で、工業的に入手可能な含フッ素ビルディングブロックを原料とする新しい含フッ素化合物の合成と機能性材料への展開を検討してきました。今回、本研究グループでは、PFOA源とならないパーフルオロユニットが不飽和炭化水素(ビニレン)ユニットで架橋された新規な(メタ)アクリレート化合物を合成し、それらのポリマーの物性評価および構造解析を実施しました(図2)。

開発したビニレン構造を有する含フッ素(メタ)アクリレート図2 開発したビニレン構造を有する含フッ素(メタ)アクリレート

 ポリマーを基板上にコートした膜の撥水撥油性を評価すると、新規ポリマーは炭素数が6以下のRf基から構成されるにもかかわらず、従来の炭素数8のRf基からなるポリ(メタ)アクリレートと同等以上の撥水撥油性を示すことが明らかになりました。とくに新規ポリメタクリレートは、熱分析および構造解析から、バルク状態で非晶性構造を有するにもかかわらず優れた撥水撥油性を発現し、単純なRf基からなるポリマーとは異なる傾向を示すことを見いだしました(図3)。さらに、本ポリマーは側鎖のパーフルオロアルキルユニットが不飽和炭化水素で連結されていることに起因して、実用上適切な熱安定性を有していることが確認できました。

ビニレン架橋型含フッ素ポリ(メタ)アクリレートの構造および物性評価図3ビニレン架橋型含フッ素ポリ(メタ)アクリレートの構造および物性評価
(a) 粉末X線回折(XRD)による構造解析 (b) 接触角測定による撥水撥油性評価

 このように、本研究で開発したポリマーはPFOAの発生源となる長鎖Rf基を含まず、優れた特性を示すことから、環境対応と高機能を両立でき、従来の含フッ素(メタ)アクリレート化合物を代替する材料としての展開が期待できます。また、ビニレンユニットの導入が含フッ素材料の構造及び物性に与える独特な効果の一端を明らかにしたことは、含フッ素機能性材料の開発における分子設計に新たな選択肢を与えるものと考えられます。

今後の展望

 今回開発した化合物は、撥水撥油剤、コーティング剤、界面活性剤など、さまざまな高分子材料への適用が期待できます。今後、フルオロアルキル鎖長のチューニングによる物性のコントロールや、構造-物性相関の詳細解析など、応用と基礎の両面からさらなる展開を図ります。

※ 残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約第9回締約国会議(COP9)において、 パーフルオロオクタン酸(PFOA)とその塩及び PFOA 関連物質を同条約の附属書A(廃絶)に追加することが決定された(UNEP/POPs/COP.9/SC-9/12)。

論文情報

  • 論文タイトル:
    Synthesis, Structure, and Surface Properties of Poly(meth)acrylates Bearing a Vinylene-Bridged Fluoroalkyl Side Chain
  • 著者:
    Tomohiro Shirai, Hiroki Fukumoto, Yasunori Kanno, Toshio Kubota and Tomohiro Agou
  • 掲載雑誌名:Polymer (Elsevier)
  • 公開日:2021年1月28日
  • DOI:10.1016/j.polymer.2021.123478