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ベトナム・日越大学担当の小寺昭彦・特命研究員インタビュー
―ベトナムのコロナ対応&学生たちの状況は

 世界中の大学で新型コロナウイルス感染症へのさまざまな対応がなされていますが、ベトナムはどうでしょうか。茨城大学が幹事校を務める、ベトナムの日越大学修士課程気候変動・開発プログラムの業務・授業を現地で担当している、小寺昭彦特命研究員にオンラインで話を聞きました。

日本へのインターンシップの中止

――日越大学の気候変動・開発プログラムが開講して2年以上が経ち、今年はプログラムとして初めて修士課程の修了生を送り出すことになりました。春からはコロナ禍の影響もあって大変だったと思いますが、学生たちはどんな様子ですか。

小寺 プログラムの第一期生22人のうち、残念ながらまだ全員は修了できていません。というのも、コロナの影響でフィールドワークを予定どおりに実施できなかったりして、修士論文の研究が遅れてしまったためです。他のプログラムも同じような状況ですね。

――そうでしたか。修了を見送ることになった学生たちはどんな様子でしょう。

小寺 ベトナムでは、期限までに卒業しなければというプレッシャーが日本ほどには強くないかもしれませんが、とはいえ、やはり就職には影響が出てくるので少なからずショックは受けていますね。

――二期生はいかがでしょうか。

小寺 
秋から2年生となった第二期生は、3月からオンライン授業ばかりになり、最近になってようやく教室での講義やフィールドワークも実施してきています。一方で茨城大学の先生による講義についてはすべてオンラインで実施しています。

――去年の秋は日越大学の学生たちが茨城にやってきて実習に取り組んでいましたが、今年はできませんでした。

小寺 
日本でのインターンシップが現状できないことについては、学生たちは非常に残念がっています。日越大学に入学しての目標のひとつが日本へのインターンシップで、先輩たちの話も聞いているから期待は大きかった。今年のインターンシップ活動は全てベトナム国内で完了することになりましたが、早く感染が落ち着いて茨城を訪れる機会があればと、望みはまだ捨てていません。

――日本でのインターンシップをベトナム国内での実施に切り替えるにあたって、何かプログラム上の工夫はありますか。

小寺 
去年ベトナムではできなかったような、日系企業やNGOでのインターンシップができました。ただ、コロナの影響もあって状況がコロコロ変わるので、なかなかスムーズにはいきませんでした。

小寺先生210月には菅総理大臣が日越大学を訪問し、学生たちと懇談した(日越大学のFacebookより)

ベトナムならではの感染症対策

――ベトナム全体のコロナ対策についても教えてください。オンライン授業が始まったという3月はどんな様子だったのですか。

小寺 
これはベトナムの良いところでもあり、悪いところでもあるのですが、トップがオンラインにするといえば、次の日からもうオンラインです。ソフトはどうする、学生の環境はどうする、という問題は走りながら考えてきた感じですね。

――その点は社会主義国家ならではですね。

小寺 ただ、こういう緊急事態の対応力としては強い。私はある意味で評価しています。実際かなり成果をあげていて、世界的に見ても、あくまで政府発表ではありますが、感染者数、死亡者数ともに抑えられています。街の雰囲気を見ても、感染が抑えられているというのは確実です。
 隔離とかソーシャル・ディスタンスとか、通常だと議論を重ねて合意形成をして制度をつくって......という中で時間がかかり、感染の状況に対してタイムラグが出てしまう、ということが世界中で起こっていたわけですが、ベトナムの場合は「やる」と決めたら直ぐにロックダウン。そこは緊急事態においては効果が高かったと思います。

――ハノイも人口密集地ですが、ロックダウン中はどんな様子でしたか。

小寺 
ロックダウン中は私も外に出られなかったのでよくはわかりませんが、やはり閑散としていました。ただ、なぜかバイクに関しては結構外に出ていた感じがしましたね。不要不急な外出は取り締まりの対象だったはずなんですが、バイクに乗っている人は緊急という暗黙の了解があるようで、歩いている人ばかりが取り締まられていたようです(笑)。

小寺先生3バイクがひしめき合う普段のハノイの様子

――小寺先生も今日(取材日)はご自宅とつないでいますが、在宅が続いているのですか。

小寺 
いえ、感染者の濃厚接触者の、さらに濃厚接触者ということで、大学から自宅待機を命じられまして。

――大学が、感染者の濃厚接触者の濃厚接触者まで把握できているということですか。

小寺 
これがよくできていまして、日本でも真似したら良いのにと思うのですが、各個人のコロナに対する位置づけが明確になっているのですよ。感染者を「F0」として、その感染者に接触していた人が「F1」、その人に接触していた人が「F2」、それからF3、F4...と連なって、自分がコロナに対してどのぐらいの距離があるかを把握できるようになっていて、それぞれに「こう行動すべき」ということが決まっています。私は今F2ということですね。

――どうやって自分の位置を知るのでしょうか。周囲の感染の情報がオープンになっているということですか。

小寺 感染すると新聞やテレビで個人情報が晒されます。最近は少しは考慮されるように変化してきましたが、個人情報を明らかにして感染拡大防止優先という感じでしょうか。

――誰がかかっているかわからないから疑心暗鬼になってしまうという意味では、その情報がオープンになっているほうが感染者への差別が少なくなるという面もあるでしょうかね。

小寺 それは難しい問題ですね。「感染者を出さない」ということにゴールを求めるのなら、個人情報とは言っていられない側面もあるかも知れませんが、現実にはそれだけではないですからね。
 私が一番印象に残っているのは、感染が拡大してきたときに首相が、今は戦時中という感じで、「国民全員が戦士」「コロナと戦う」と訴えたことです。それは国の有事のときと重なるものがあり、みんな奮い立っていたように見えました。

――そうした言い方はヨーロッパのリーダーたちもしていましたが、ベトナムの場合は多くの人の中に戦争の記憶がまだまだ肌感覚として残っているでしょうから、メッセージの伝わり方も違ってきそうです。

日越大学から茨城大学の大学院への進学も

――もう一度日越大学の話に戻します。今年の入試や就職にも影響が出たのでは?

小寺 
まず入試ですが、第一期生は22人、二期生は17人と順調でしたが、今年の入学者は6人と大きく減少しました。要因はさまざまありますが、ひとつはやはりコロナの影響ですね。ベトナムの学生で修士課程に行くという場合、特に社会科学では、何年か仕事をしたあと、キャリアアップのために仕事をやめて進学するというのが多かったんですね。ところが今年はベトナムも経済状況は厳しく、生計が基本的に家族単位ということもあって、仕事をやめて学校へ行くということがなかなかできなくなってしまったのではないかと分析しています。

――なるほど...しばらくは厳しい状況が続きそうですね。就職はどうですか。

小寺 
ベトナムの場合、学生の就職活動というのは卒業してから本格的に動き出すのですが、日越大学では卒業前にできるだけ就職先を決められるようサポートしています。しかし今年はやはり厳しく、卒業前に決まったのが半分未満というところですね。

――NGOも日越大学の学生に人気の進路ですが、それらも厳しいですか。

小寺 既に決まっているという学生たちは、NGOや研究所など、外部から運営費が拠出されている業種です。一般企業はやはり厳しい。茨城県の企業の現地法人から内定をもらった学生がひとりいますが、それが唯一の日系企業ですね。

――進学という進路もあるでしょうか。

小寺 茨城大学の大学院の博士後期課程に進学する学生がいます。国費留学、大使館推薦枠ですね。気候変動・開発プログラムのコ・ダイレクターである、北和之先生の研究室です。当初は今年4月から茨城大学に行く予定だったのですが、これもコロナの影響で来年9月からに延びてしまいました。

――本学の大学院に!それは嬉しいですね。

小寺 
はい。われわれとしても、本人の研究の成功はもちろんですが、彼が将来の日越大学を担っていくような存在になって、茨城大学と日越大学をつないでほしいという期待が大きいです。ドクター在籍中の3年間も日越大学関係のイベントも手伝ってもらいたいですし、博士をとったあと日越大学の教員として戻ってきてくれたら、それこそ持続可能な発展になるといえるでしょう。

――本学と日越大学の関係の発展という意味では、オンライン交流の普及によって一気に進む面もありそうですね。

小寺 そう思います。今まで大事な話をするときは、茨城大学の先生にベトナムに来てもらって、そこでときにお酒も囲みながらやっていたのですが、オンラインでの会議が普通になり、どうして今までやらなかったんだろう、と(笑)お互いの困っていることに関する情報も伝わりやすくなったと思います。
 それから学生間の交流も広がるかも知れません。11月17日に、GLEC(茨城大学地球・地域環境共創機構)が関わって開催した「JSPSアジア・アフリカ拠点形成国際セミナー」というオンラインシンポジウムに参加しました。そこで学生達が"Fieldwork the LIVE"という特別セッションを企画しました。これは現場で調査する学生達と各国のオンライン上のワークショップ参加者とを双方向でつなげるという試みです。現地の住民も学生の通訳を介しながら各国の研究者との対話に加わりました。現場から臨場感のある問題提起ができただけでなく、オンラインワークショップの新たな可能性を広げたと、参加者から高い評価をいただいたことは、学生たちにとって大きな励みになったと思います。

小寺先生4オンラインLIVEフィールドワークの様子

――これからもいろんなことが展開できそうですね。

小寺 
はい、感染症対策としての急なオンライン対応など、最初は多少苦労しますが、今のうちにやっておけば次からいろんなことがスムーズになるので、やれることは失敗してもやっていったほうがいいんじゃないかというのが私の考えです。いろいろとチャレンジしていきたいですね。

小寺先生5日越大学 気候変動・開発プログラムを卒業する学生たち

小寺昭彦(こてら・あきひこ) 茨城大学特命研究員・JICA長期派遣専門員

1972年生まれ。2017年からJICA長期専門家として日越大学に派遣される。茨城大学が幹事校を務める修士課程 気候変動・開発プログラムを担当。ベトナムとのかかわりは1996年から。学生時代はハノイ郊外でイネの研究に汗を流し、今は人作りに涙を流す。ベトナム料理は好物だがパクチーが苦手。

小寺先生6

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