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カビの細胞内で生きる最小ゲノムサイズの内生細菌の
分離・培養に成功

 茨城大学の郭 永 研究員(論文執筆当時)、高島 勇介 研究員(論文執筆当時)、西澤 智康 准教授らの研究グループは、糸状菌(カビ)の菌糸に内生する細菌のうち、これまでで最も小さなゲノムサイズをもつMycoavidus属内生細菌(新種)の分離・培養に成功しました。
 真核生物である糸状菌の細胞内にはBetaproteobacteria綱に属するBRE(Burkholderiaceae-related endobacteria)と呼ばれる原核生物の内生細菌(バクテリア)が生息しており、近年、それらのBREと宿主糸状菌の共生現象における相互作用の仕組みの解明が進んでいます。今回、研究グループで分離・培養に成功した細菌は、これまでに分離培養されているBREの中では最小のゲノムサイズで、解読した遺伝情報解析の結果からBurkholderiaceaeMycoavidus属の未記載種であることが示唆されます。また、宿主糸状菌の代謝に依存する内生細菌の生態が見られました。
 今回の成果は、微生物間の共生現象のメカニズムの理解やそれらを踏まえた微生物間共生工学技術の発展に貢献するものといえます。
 この成果は、9月1日、米国微生物学会が発行する学術誌「Applied and Environmental Microbiology」に掲載されました。

>>詳しくはプレスリリースをご覧ください。

背景

 地球上の生物は共生や寄生などさまざまな相互関係を持っていることが知られています。近年、農業で活用が期待されている糸状菌(カビ)のアーバスキュラー菌根菌の細胞内にミトコンドリアとは異なる細菌様構造体の存在が報告され、ゲノム解読によってそのひとつがBetaproteobacteria綱の細菌として分類学的に位置づけられ、微生物間で細胞内共生の関係があることが提起されました。糸状菌の細胞内に内生するBetaproteobacteria綱に属する細菌(内生細菌)は、BRE(Burkholderiaceae-related endobacteria)と呼ばれています。茨城大学の研究グループでは、これまでにクサレケカビ(Mortierella)に属する糸状菌305菌株を分離し、このうち66菌株にBREを検出しました。また、BREが宿主の生殖などの機能に関わっていることが知られており、その共生関係、特に微生物間相互作用についての解明が進められています。

研究の概要

 本研究では、分離培養したクサレケカビMortierella parvispora E1425株(図(A)、図(C)、図(D))の菌糸体からBRE画分を調整し、BREのシステイン要求性を満たす専用の分離用培地で、これまでの培養温度よりも低温度条件で培養することで、新たなBREのB2-EB株(図(B))の分離・培養に成功しました。このことからは、B2-EB株の生存に温度が関わることが推察されます。
 B2-EB株からDNAを抽出して全ゲノムを解読した結果、これまで分離培養に成功したゲノムサイズが判明しているBREの中で最も小さいサイズ(約1.88Mb)のMycoavidus属細菌の未記載種であることが示唆されます。B2-EB株の遺伝情報解析から、近縁の標準株と同様にシステイン輸送系の機能が欠失しているだけでなく、有機物代謝や転写・RNAプロセシング制御、シグナル伝達などに関わる遺伝子群が欠失していることが見出されました。一方で、DNA修復系遺伝子のほとんどは保存されていたことから、ゲノム崩壊に至らないゲノム縮小化、すなわち宿主糸状菌の代謝に依存した生活様式および内生を維持するために必要な特異的な機能のみが残ったと推察されます。

概要図

今後の展望

 今回の成果は、新たに分離・培養に成功した内生細菌のゲノム解読と遺伝情報解析により、微生物共生体の相互作用の仕組みの解明を進めるための技術の発展に大きく貢献するものです。
 ところで、真核生物がもつミトコンドリアは、アズガルド古細菌にAlphaproteobacteria綱の細菌が細胞内共生する進化の過程で形成され、真菌の生活環に必須なオルガネラ(細胞小器官)となったと考えられています。この研究で分離培養に成功したBetaproteobacteria綱に属する内生細菌と宿主糸状菌との相互作用の仕組みを知ることは、新たなオルガネラの形成にもつながり得る、現在も進行する微生物進化の様相を捉えるものとなるかも知れません。
 また、真核生物―原核生物の共生体を1つのモデル微生物として捉える視座とその視座による研究からは、自然界での微生物の生態の実態がより深く理解され、微生物の生理生態的特徴のひとつである物質循環の理解の深化や、宿主真菌への再内生化による微生物間共生工学技術への展開も期待されます。

研究者情報

  • 郭 永/茨城大学 産学官連携研究員(論文執筆当時)
    [現 国立研究開発法人産業技術総合研究所 環境創生研究部門 環境生理生態研究グループ 特別研究員]

  • 高島 勇介/東京農工大学大学院 連合農学研究科(配置大学:茨城大学)(論文執筆当時)
    [現 筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所 日本学術振興会特別研究員PD]

  • 佐藤 嘉則/独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 保存科学研究センター 室長

  • 成澤 才彦/茨城大学 農学部 教授
  • 太田 寛行/茨城大学理事・副学長(教育統括)[現 茨城大学長]
  • 西澤 智康/茨城大学 農学部 准教授

論文情報

  • タイトル:Mycoavidus sp. Strain B2-EB: Comparative Genomics Reveals Minimal Genomic Features Required by a Cultivable Burkholderiaceae-Related Endofungal Bacterium
  • 著者:Yong Guo, Yusuke Takashima, Yoshinori Sato, Kazuhiko Narisawa, Hiroyuki Ohta, Tomoyasu Nishizawa
  • 雑誌:Applied and Environmental Microbiology
  • 出版:American Society for Microbiology
  • DOI番号:10.1128/AEM.01018-20
  • 公開日:2020年9月1日

※ 本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金と公益財団法人発酵研究所大型研究助成(L-2017-1-005)の支援により行われました。