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SDGsで未来をつなぐ「茨城大学の挑戦」
―コロナ禍で変容する世界を見据えた大学の在り方と改革

 2020年4月に就任した太田寛行新学長は、国連が掲げる「SDGs」(持続可能な開発目標)を大学改革の旗印とすることを宣言。その実践を加速させるため、新たにSDGs推進担当の学長特別補佐を設置し、そのポストを人文社会科学部の蓮井誠一郎教授が務めることになりました。太田学長と蓮井教授が、コロナ禍も踏まえたその背景や狙いについて語ります。

太田学長、蓮井教授対談1太田学長(左)と蓮井教授(右)

各分野の学問が連携して社会課題に立ち向かう

―太田学長は就任にあたって、「SDGs」の全学的な推進を掲げました。その背景を教えてください。

太田学長「これは茨城大学の必然だと思っています。本学は2006 年に地球変動適応科学研究機関(ICAS)を設立して、研究では気候変動適応のサイエンスを、教育ではサステイナビリティ学という新しい分野をスタートさせました。この研究と教育の内容は、今、世界が取り組んでいるSDGsを構成するものです。さらに、この ICASの特色は学部を越えて教員が参画することでした。各分野の学問が連携して、社会課題に立ち向かうという、SDGsの趣旨に重なる取り組みを本学は14年前に整備していたといえます。もう一つ、1956年に設立のルーツをもつ「広域水圏環境科学教育研究センター」とICASを今年度から統合し、「地球・地域環境共創機構(Global and Local Environment Co-creation Institute: GLEC)」を設立しました。その設立の趣旨には、「フィールド科学から予測・政策科学を含む総合的な研究を推進するとともに、環境問題の解決をめざして持続的な環境の共創に関する教育研究や社会連携の機能の強化を図る」と掲げられています。地域に根ざしたユニークな環境共創に関わる教育研究拠点として、問題解決と社会連携をめざすという展開は、SDGsの達成に向けて一歩踏み出したものといえます。」

―その推進担当の学長特別補佐を務めるのが蓮井教授です。現在の世界や日本におけるSDGsの役割とは?

蓮井教授「SDGsは2つの反省に基づいて作られた開発目標だと考えられています。一つは、目標なく好き放題に進めて、貧富の格差や環境問題を増大してしまったという大きな反省から学んだもの。もう一つはSDGsの前の開発目標であったMDGs(Millennium Development Goals)の経験からの反省です。今回のSDGsは開発を進めるべき分野とその達成度を分かりやすく示したものです。キーワードは「誰一人取り残さない」。SDGsの策定過程においても、NGOなどの市民社会の組織が参加して決めていったのも特筆すべき点です。そしてMDGsがいわゆる途上国向けの目標であったことに対し、SDGsは先進国にも向けられた目標であるのが、かなり大きな違いとなっています。各国政府だけでなく、民間も全員参加して、「誰一人取り残さない」。すなわち格差を拡大しない。そういったスローガンでそれぞれの開発目標の達成に取り組んでいます。構造化された共通言語によって、政府も企業も大学も市民社会も同じ目標とターゲットがもてる。それがSDGsの大きな役割だと思っています。」

―今の大学運営において、「SDGs」はどんな意義をもつといえますか?

太田学長「2009年に制定した茨城大学の「大学憲章」では、本学の教育の役割をこのように謳っています。「①人類の文化と社会や自然についての理解を深め、高い倫理観をもち、持続可能な社会と環境保全の担い手となる市民を育成すること」、「②豊かな人間性と幅広い教養をもち、多様な文化と価値観を尊重する国際感覚を身に付けた人間を育成すること」、「③専門知識と技能を修得し、自らの理想に基づいた将来設計ができる力と課題を探求し問題を解決する力を兼ね備えた人材を育成すること」。SDGsの達成に向けては、この「市民」、「人間」、「人材」の育成に総合的に取り組むことが必要です。それは、専門分野の学力をもった「人材」育成に重きをおいてきた従来の大学教育を改革することにもつながります。市民の育成は「平和への希求」、人間は「個人の価値の向上」、人材は「経済的繁栄」もしくは「富の追求」といえるかもしれません。SDGsは「平和への希求」の意識だけでは達成できず、「富
の追求」と一緒になってこそ達成されるものです。これは何も新しい考えではありません。本学では、「世界の俯瞰的理解」から「地域活性化志向」まで、5つの要素からなるディプロマ・ポリシーがあります。結局のところ、それらを学生に達成させることに尽きるといえます。」

太田学長、蓮井教授対談2

SDGsが可視化するものを地域との共通言語に

―広い領域に及ぶSDGsですが、その中でも茨城大学は気候変動の分野が大きな強みです。2020年4月、新たに「地球・地域環境共創機構(GLEC)」が誕生し、蓮井教授はその初代機構長も務めます。

蓮井教授「太田学長がさきほど指摘していたように、この機構は気候変動を中心に広い範囲の環境問題に注目してきた「ICAS」、そして霞ヶ浦に根ざした長年にわたる研究と教育に注力してきた「広域水圏環境科学教育研究センター」、この2つを統合し、視野を広げて強化した組織です。地球および地域の環境の共創をめざす茨城大学のあらゆる部局から研究者が集う横断型の体制となっています。ローカルからグローバルまでの幅広い環境問題や環境危機への対応としてSDGs教育を推進するため、先進的で総合的な教育研究拠点、そしてアジア太平洋地域の国際協力の拠点という2つの主要な機能を強化することをめざしています。」

―気候変動に留まらない多様なSDGsの目標を、どのように茨城大学の運営に活かしていくのでしょうか?

太田学長「SDGsの17の目標の中には、外の社会に対してだけでなく、大学の中で取り組むべきものがあります。例えば、「5.ジェンダー平等を実現しよう」、「8.働きがいも経済成長も」、「12.つくる責任つかう責任」、「16.平和と公正をすべての人に」などです。私は特に「ジェンダー平等を実現しよう」に注力し、ダイバーシティを活かす大学にしたいと思っています。大学は学部間や教職員間、世代間、留学生など、国際性も含めて多様な人々がつながった複雑な組織体です。また、本学は学生支援の取り組みの中で、担任制をワークさせ、多様な背景をもつ学生へのケアを強化してきた歴史があります。そのように、まずできることから始めることが大事だと思っています。」

蓮井教授「SDGsというのは広い範囲をカバーした、ある種の社会構想だと思います。そういう中で、かえって全体像を捉えにくい部分もあり、お互いのつながりも見えなくなりがち。ですので、茨城大学におけるSDGsにつながる活動を可視化するのが非常に重要です。SDGsマップ、ある種の見取り図を示して、考える基盤をつくるということがまず大事だと思っています。もう一つは、SDGsを大学教育の中に取り込んでいくこと。SDGsとは何かを学ぶだけではなく、何のための大学での学修なのか?ということの意味づけとして、SDGsが重要になってくる。大学は学生を市民として育てるための学びを体系化させ、教育プログラムとして再編成していく必要があります。すなわち、SDGsを大学と社会がつながるための共通言語にする。そのように位置づけ、本学の強みである企業や市民社会など地域と大学の共創、コ・クリエーションとして、SDGsの達成を推進していきたいです。」

太田学長、蓮井教授対談3

ポスト・コロナを見据え自分からどう変わって、世界を変えていくか

―新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、大学も全面的に遠隔授業を実施するなど、前例のない対応を迫られました。社会の変革が加速する中、それらに伴うSDGsや大学の役割をどのように捉えていますか?

蓮井教授「まず、途上国の新型コロナウイルス感染症に関する現状が非常に見えにくく、正確には把握できませんが、既にあった気候変動や貧富の格差、政治経済の脆弱性、そういった問題に追い打ちをかけたことは間違いないでしょう。一方、新しい日常にシフトしつつある中で、事業の継続が難しくなった業界や分野があると思いますが、意外になんとかなった部分もあったと思います。将来の技術開発を待たなくても、今の技術で十分世界は変えられる、SDGsがめざす世界の変革は可能なのだ、と感じる部分はあったと評価をしています。その中で、現状にただ適応しようとするだけでなく、積極的に変えていこうと考えていく茨城大学の学生が増えてほしいなと思っています。もちろん道のりは楽ではありません。ある研究によるとコロナ禍を通じてCO2の排出量は17%減ったというデータがありますが、それは実は2006年の水準に戻っただけ。いかに削減に向けたハードルが高いかを実感する数字です。しかし、あえてそこに挑戦する面白さ、やりがいは、特に科学者であれば強く感じることができたのではないでしょうか?茨城大学で研究する若い世代もそうあってほしいと強く願います。SDGsのターゲットは2030年。あと10年です。私たちはポスト・コロナ、ポストSDGsという時代を見据え、自分からどう変わって、世界を変えていくか、これを考えていかなければならない。GLECの活動、あるいは教育では、そういったことを一つの柱にできればと思います。」

太田学長「新型コロナウイルス感染症の影響により、2020年の前期はオンラインでしかつながることができない状況でしたが、学部によってはSNSで学生の相談に乗ったりだとか、独自の取り組みを実践していました。ここでも「誰一人取り残さない」というSDGsの精神が大事になっています。そして日本においては、法の支配と自己統治という中で、気候変動を中心とした持続可能性を確保しながらどう行動変容を図るか、ということが重要になります。その喫緊の課題に応えていくことが、SDGs達成に直接つながっていくという視点で、大学の役割をさらにアップデートさせることになるでしょう。」

太田学長、蓮井教授対談4

正のスパイラルを生み出すダイバーシティを活かした大学の実現へ

―改めて、これからの大学運営へ向けた意気込みを。

太田学長「学長就任の所信表明では、「学生が"活気"にあふれ、教職員が"やる気"に満ち、 地域が"元気"になる、ダイバーシティを活かした大学の実現をめざして」を掲げました。一つ目の「学生」に関しては、三村信男前学長が掲げた「学生が成長する学生中心の大学」をさらに確固としたものにするために、教員による"Teaching"だけでなく、学生が課題達成のため自ら学ぶ"Learning"に重点をおいた教育システムへの転換をめざします。それによって、教育の時間対効果を向上させ、学生が自らの学修の質を高めていくことに責任を負う「学生参画による教育の質保証」が確立されるはずです。二つ目は、「SDGs」を全学的に掲げて、さまざまな分野融合研究や共同研究をさらに推進できる環境を整備することです。これによって、「社会課題の解決に取り組む大学」として広く社会から認知され、「研究成果を社会へ還元し、社会からの賛同と財政支援を得て、さらに研究を進める」という正のスパイラルとなる"社会と大学の関係"の実現をめざします。三つ目は、これまで取り組んできた地域志向教育や地域連携の事業を継承発展させるとともに、学生の主体的な学びを促す学外学修プログラムとして進めてきた"iOP(internship Off-campus Program)"をさらに拡充させて、地域の人たちが大学教育に参画、協力する機会を増やします。また、知の拠点の発信活動として、教員が地域の企業や自治体の人たちを受け入れるリカレント教育も拡充させます。地域企業との共同研究や地域連携の事業は、これまでに組織化してきたパートナー企業交流会の参加企業や自治体との関係を強化して、さらに展開させていきたいと思っています。最後のダイバーシティは、先に述べたとおりですが、その推進にあたっては、活発な学内コミュケーションが重要です。附属学校園等を含めたキャンパス間の交流や、職場を超えて行う意見交換会等の学内コミュニケーションをさらに充実させたいと思っています。」

太田学長、蓮井教授対談5

※本対談は、「茨城大学 2020年度大学案内」の特集コンテンツのために実施したものです。

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