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レーザー中の散逸量子系を記述する一般公式を発見
―周期駆動系の非平衡統計力学の進展

 茨城大学大学院の佐藤正寛准教授と東京大学物性研究所の池田達彦助教の研究グループは、レーザーなど周期性をもった外場を照射された散逸量子系の非平衡定常状態を記述する一般公式を発見しました。
 本研究成果は国際科学雑誌Science Advancesの2020年7月3日付けオンライン版に公開されました。

>>詳しくはプレスリリースをご覧ください。

非平衡定常状態の概念図
非平衡定常状態の概念図

研究の背景

 近年、高強度レーザー技術が著しく進展し、物性科学に新たな潮流が生まれています。その一つが、物質にレーザーを照射することでその状態を変化させ、物質の望ましい性質や機能(電気伝導性・磁性など)を人工的に作り出すという研究の方向性です。特に、レーザー電磁場の時間的な周期振動を利用した物質制御は、フロケ・エンジニアリングと呼ばれ、近年活発に研究が行われています。しかし、レーザーの様な周期外場でどのような物質制御が可能かを判別する一般理論は、これまで散逸のない理想的な孤立系に限られていました。身の回りのほぼ全ての物質は周りの環境とエネルギーのやり取りをしており、散逸の効果は避けられず、これらの通常の物質を含んだ広範な物理系に適用できる周期駆動系の一般理論は未発達でした。一方、周期駆動された個別の散逸系においては理論解析が行われてきたものの、高度な計算を必要とし、幅広い対象に適用可能な公式は得られていませんでした。

研究内容

 今回、研究グループは、リンドブラッド方程式と呼ばれる広い散逸量子系のダイナミクスを記述する方程式を出発点として、一般的な周期外場中の散逸系の包括的な解析を行いました。散逸のない系で用いられる高周波展開という理論手法をリンドブラッド方程式へ拡張して適用することで、非平衡定常状態を記述する一般的な公式を発見しました。この公式は、レーザー周波数が高い状況において非常に良い精度で非平衡定常状態を記述します。これまでの散逸を含まない理論ではしばしばフロケ・エンジニアされる物理量の値が過大評価されていましたが、今回の公式を応用することで、散逸の効果を取り込んだ物理量の現実的評価が可能となります。また、この公式を用いた状態の計算は非常に簡単で、コンピュータ・シミュレーションに比べて高い実用性があります。
 研究グループはダイヤモンドのNV中心のモデルにおいて、この公式が非平衡定常状態の時間平均・ゆらぎ、及び対称性を正しく再現することを検証しました。その中で、特に散逸のない系では時間反転対称性により禁止される物理量が散逸の効果によって発現する様子も正しく再現することを明らかにしましたこのことは、散逸系に固有のフロケ・エンジニアリングの可能性を示します。

フロケ・エンジニアリングの概念図
フロケ・エンジニアリングの概念図

ダイヤモンドNV中心における公式の検証ダイヤモンドNV中心における公式の検証

社会的意義・今後の予定

 レーザーなどの周期駆動によるエネルギー注入と、散逸によるエネルギー流出が釣り合った非平衡定常状態の解析は一般には難しい問題ですが、高周波領域においては本研究成果によってその一般的な解が得られました。このことは、散逸の避けられない実際の物質の性質をレーザーなどで制御するフロケ・エンジニアリングの指針を確立するための第一歩と言えます。これを足掛かりとして、非平衡物理学に関わる基礎・応用研究を進展させることが期待できます。研究グループは、今回の公式をより微視的なレベルへ深化させる基礎科学研究や、本公式による新しいフロケ・エンジニアリングの提案などの応用研究を進めていく予定です。

論文情報

  • 雑誌名:「Science Advances」(7月3日オンライン版)
  • 論文タイトル:General description for nonequilibrium steady states in periodically driven dissipative quantum systems
  • 著者:Tatsuhiko N. Ikeda and Masahiro Sato
  • DOI:10.1126/sciadv.abb4019