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茨大×遠隔授業(上)
―順調な遠隔授業実現のキーファクター

 新型コロナウイルス感染症対応として430日に全面的な遠隔授業を開始してから約1ヵ月半。まもなく第1クォーターが終わろうとしています。初めての試みの中サーバーダウンなども心配されましたが、学生のみなさんや教職員の懸命かつ柔軟な対応もあって、今のところ大きなトラブルなく進んでいます。また、そうしたスムーズな遠隔授業実施の背景には、全員がPCを所有するBYODや入学前に大学教育の仕組みをオンラインで学ぶセルフラーニングの仕組みの導入と時期が重なったことなど、本学ならではの要素もあったようです。これまでの経過と現状、さらに今後の大学教育への影響などについて、全学教育機構の嶌田敏行准教授に聞きました。

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―遠隔授業が始まって1ヵ月半、現状をどう見ていますか?

嶌田「大きなトラブルもなく、想定していた以上にスムーズに実施できています。もちろん音声や通信の細かい不具合は散見されましたが、それも教員や学生の利用環境に起因するものがほとんどで、大学のシステムもダウンすることなくこれまで来ています。学生のみなさん、教職員のみなさんが懸命に適応してくれたおかげです」

―初の試みでありながら、スムーズに実施できた要因は何でしょうか?

嶌田「さきほど話したように、まずは本学の学生、教職員の理解と協力があってのことです。特に工学部の先生方から全学に提供いただいたわかりやすいマニュアルの効果は大きかったです。遠隔授業の対応にあたっては、先生たちも不安が大きかったと思いますが、授業開始を1ヵ月遅らせたことでFDFaculty Development:教員の専門性に関わる研修)にしっかり時間をとることができ、授業開始にあたっても不安な先生には各学部で情報機器の取り扱いに長けた教員がサポートするなどの態勢をとり、なんとかスタートできました。その後も遠隔授業に関する機能のアップデートや新しい活用例についてのFDIT基盤センターで2週間ごとに実施しており、ノウハウが蓄積されてきています」

remote_shimada2.jpg4月に実施した遠隔授業のためのFDの様子

―学生の準備状況は?

嶌田「実は本学では、新型コロナに関係なく、この4月からBYODBring Your Own Device)、つまり学生自身がノートPCなどを授業に持ち込むことを前提とした教育体制?に移行しており、新入生はもちろん、今の2年生以上へ向けてもパソコンを入手するよう、掲示板などを通じて働きかけ、大学生協などにも推奨PCの紹介や必要なセットアップ講習などの面で協力していただきました。学生の状況調査は何度か実施して、経済的に購入が困難という学生はもちろん、新型コロナによる生産・流通への影響で入手できなかった学生に対しても大学からパソコンを貸し出すなどの対応をしました。それでも実際に貸出しを希望した学生の数は思った以上に少なかったですね。みなさん、本当に努力して入手してくれたのだと思います」

―遠隔授業に向けた準備もかなりスピーディーに始まっていた印象です。

嶌田「多くの大学では、遠隔授業を進めるための学内の組織をどうするか、さらにどうやって授業を配信するか、という立ち上げのところで時間を要したのかも知れませんが、本学はその議論をすっ飛ばせたのが大きかったです。もともとBYODを進めるためのチーム(タスクフォース)が既にあって、そこに各学部・部局から担当教員が参加する態勢ができていたんですね。このタスクフォースをベースとして、そのまま遠隔授業のためのタスクフォースにスムーズに移行できました。また、授業の配信方法についても、本学は既にMicrosoft社と法人契約してOffice 365を導入しており、学生・教職員のアカウントもMicrosoft社のクラウドサービスと紐付いていましたから、その中で提供されているテレビ会議機能であるMicrosoft Teamsを授業に活用すること以外、選択肢がなかったわけです。ですから、Teamsを使ってどのように遠隔授業を展開するか、という具体化の検討にすぐ入ることができました」

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―それは重要なアドバンテージとなりましたね。サーバー容量やセキュリティの不安もあったのでは?

嶌田「まず大学のサーバーの問題以前に、全国の学校が遠隔授業を始めることにより、日本のインターネット容量が限界に達するのではないか、という懸念が総務省や国立情報学研究所(NII)などから早い段階で指摘されていました。それで、いくつかの大学の専門の教員の間では、ネットへの負荷を下げるために、どのような対応が可能かということを情報交換してきたんです。また本学内でもNIIによる説明を取り込んだFDを実施するなどして、そのリスクを多くの教職員に共有しました。その上で、できるだけ負荷のかからないルールを検討してきました」

―具体的にはどういうことですか?

嶌田「たとえば100分の授業時間(通常は90分だが今年度は授業開始を遅らせたことにより変更)まるまる全部、全教員が中継型の授業をしてしまうと大きな負荷がかかるわけです。ですから、たとえば音声付のPowerPointファイルを予め用意しておいて、双方向のやりとりが必要なパートだけ中継にする、もしくはライブ配信するとしても音声のみで映像部分はスライドのみ、といった基本的なやり方のパターンを示しました。それでも授業の初日は、サーバーが落ちないかかなり不安でしたよ。しかし、結局受講者の合計が4000人を超えるような時間帯でもダウンすることなくつながり、ほっとしました。ちなみに今では、Teamsの中継時間を長くしてもそこまで不安定にならないこともわかりました」

remote_shimada4.jpgTeamsを使った遠隔授業の様子

―セキュリティはいかがでしょう。

嶌田「講義の資料など、公開前提の資料はTeamsで共有可とし、一方で学生の成績に関わるデータなど秘匿性が求められるものは、本学の学内サーバーのシステムでやりとりをする、というルールにしました。教員の多くは在宅勤務となっていますから、多要素認証(個人のスマホなどとセットにした認証)を取り入れるなどしてセキュリティを高める措置を進めています」

―新入生にとっては初めての履修登録。一度も登校できないという厳しい状況の中、スムーズに対応できたのでしょうか。

嶌田「これも大きなトラブルはなく、履修漏れの事例はむしろ例年よりも少なかったかも知れません」

―えっ!?それは意外ですね。

嶌田「これもタイミングとしては偶然だったのですが、新入生については、今年度から『入学前セルフラーニング』といって、大学の学修や履修の仕組みを入学前にオンラインで学んでおくための仕組みを構築していたんです。漫然と聴いてしまいがちな対面型のガイダンスより、自分できちんと資料を読み込む方がちゃんと理解できるというのは、ある意味当然かも知れません。それから、ひとりの教員が複数の学生を通年でサポートする担任・副担任制の役割も大きかったといえます。今年は特に新入生に対しては丁寧なケアをするよう各先生にお願いしていて、実際にそのように対応してもらったのだと思います」

―遠隔授業の学修効果はどのように見ていますか?

嶌田「第1クォーターが終わる6月中旬に一旦、学生、教員双方を対象にきちんと調査をする予定ですし、試験の実施方法についての議論も進めている段階ですが、概ね授業で身につけるべき力はきちんとつけられていると感じています。むしろ、サーバーへの集中アクセスを避ける意図もあって講義資料を24時間前には学生に共有するよう教員にはお願いしているのですが、それによって学生たちはこれまで以上に事前学習に真剣に取り組んでいるようにも見えますね。また、特に1年生に顕著ですが、Teamsのチャット機能では、講義室よりもたくさんの学生のリアクションが寄せられており、活性化している授業もあります。大講義で手を挙げて発言するのに比べたら、だいぶ参加のハードルが低いということでしょう」

―そうした遠隔授業の利点は、新型コロナ感染症収束後も取り入れられるといいですよね。

嶌田「はい。今回、工学部では授業の録画なども試行しているのですが、動画や音声付パワーポイントである程度カバーできてしまうものについては、毎年うまく活用できるといいですよね。本学の教員は教育にかかわる業務に多くの時間をあてており、特に工学部、農学部の教員は、水戸キャンパスへの移動にかかる時間も大きい。今、研究の時間をいかに生み出すかというのは、全国の大学に共通する課題ですが、オンラインコンテンツ化できるものはコンテンツ化してしまうことで、講義によっては準備も含めて時間の短縮につながり、教員のキャンパス間の移動コストも減らすことが期待できます。そうして研究や少人数での指導にかける時間を増やすことが、結局は本学の強みとする教育の質保証にもつながると思います」

remote_shimada5.jpg―なるほど。遠隔授業を代替手段として見るのではなくて、大学の教育の質を高めていく可能性を秘めたものと捉えて、突如訪れたこの状況の中で必要なエビデンスを取得していくことが大切ですね。

嶌田「まさにそのとおりです。そういうふうに舵を切れるかどうかが、今後の大学運営に大きく関わってくるのではないでしょうか。授業のオンライン化、コンテンツ化が進むということは、たとえば基本的に茨城に住んでいながら、都内の大学の授業を受講できるようになるということです。もちろん、都内にいながら茨城大学の授業を受けることもできる。これは地方から都市への移動を抑制し、地方創生につながるポテンシャルをもっている一方で、大学にとってはコンテンツをベースとした熾烈な競争にさらされる可能性もあるということです」

―そういう将来を想定したとき、それぞれの大学が考えるべき戦略とは?

嶌田「やはり、この大学といえばこれ、という特徴的なパッケージをもつことでしょう。また、授業はあくまでコンテンツのひとつでしかないわけで、それを体系立て、ひとりひとりの学生の成長と結びつけて教育の質保証をしていくためには、そのためのちゃんとした仕組みやカリキュラムが必要です。教育の質保証に先駆的に取り組んできた本学にとっては、その点で大きな蓄積もありますが、そうした知見は自分たちだけで囲い込むべきものではなく、公共財として地域内の他大学とも共有していくことが大事だと考えています」

プロフィール

嶌田 敏行(しまだ・としゆき)●茨城大学全学教育機構准教授

2003年、金沢大学大学院博士後期課程単位取得満期退学。専門は地球環境変動、教育学、大学経営。茨城大学においては、大学運営支援のための情報収集、分析、活用の高度化を図るための機能(IR)を活用した継続的な教育改善の仕組み(内部質保証システム)構築の実践的研究を進めている。

 本シリーズでは茨城大学での遠隔授業の取り組みを上・下篇2回にわたって振り返ります。下篇では、学生から示されている不安などについて、学生支援センター長の青栁直子教授にインタビューします。

>>茨大×遠隔授業(下)―教室に居合わせられない不安を受け止めたい

(取材・構成:茨城大学広報室)