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ビームライン活用と協働で茨大ならではのイノベーションを
―iFRC・高妻センター長語る量子線科学のススメ

 茨城大学が「世界的な強み」として誇る研究分野のひとつが、「量子線科学」だ。電子顕微鏡でも見えないような、物質をつくる分子の複雑な構造も、ものによっては量子ビームを使って可視化できる。物質や素材の構造を正しく知ることは、副作用が起こりにくい薬をつくったり、効率の良い工業材料をつくったり、あるいは食品を開発する上でもきわめて重要で、イノベーションにもつながる。茨城県の強力なサポートのもと、東海村のJ-PARC(大強度陽子加速器施設)のビームラインを研究・教育に利用できる茨城大学にとって、そのアドバンテージを活かさない手はない。茨城大学における量子線科学研究・教育の特徴について、フロンティア応用原子科学研究センター(iFRC高妻孝光センター長に話を聞いた。

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iFRCのセンター長を務める高妻教授

―量子線科学というのはどういう分野ですか?
高妻「原子や、原子核を作っている電子や中性子、それから光などは粒子と波の性質をもつという量子性をもっています。それを加速器や原子炉といった施設を使ってビーム状にしたのが量子線(量子ビーム)です。X線などはみなさんもイメージしやすいと思いますが、このミクロレベルの量子ビームをいろんな物質に当てて、その反射や通過、吸収の具合を捉えることで、その物質を形づくっている複雑な分子の構造を見ることができます。そのように量子線を使って物質を調べる分野を、総合して「量子線科学」と呼んでいます」

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中性子構造解析で得られた図像の例(iFRC・山田太郎准教授の研究成果より)

―基礎研究的な分野ですね。
高妻「物質の構造決定というと確かに基礎研究のイメージですが、国内外の多くの企業が、新たな素材や食品の開発のために量子線に熱い注目を寄せています。物質の構造を知ることは安全な薬や効率のよい新素材の開発には欠かせませんから。また、私自身がかかわっているプロジェクトでは、干し芋の品質向上や結城紬の技術の活用、タンパク質機能の向上などに量子線を使うというアイデアがあります。J-PARCは産業利用も促進していますので、その点ではきわめて実用的な技術といえます」

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iFRCを含む東海サテライトキャンパス(いばらき量子ビーム研究センター内)

―茨城大学が量子線科学を強みとするのはなぜ?
高妻
「量子線を出すためのビームラインJ-PARCには24本あり、そのうちの21本が中性子のビームラインで3本がミュオンのビームラインです。中性子ビームラインのうiMATERIAとiBIXという2本のビームラインを茨城県が所有していて、茨城大学はその運転維持・管理と利用者支援を委託されています。日常的にはiFRCに所属している産学連携教員がビームラインのメンテナンスや利用補助をしているのですが、地元の大学である茨城大学の研究や教育にも積極的に利用することが茨城県からも期待されています。ビームラインの稼働には莫大なお金がかかることを考えると、研究・教育のための世界レベルのビームラインを2本も利用できるというのは、茨城大学の大きな強みです。さらに原子炉が再稼働すれば、原子炉ベースのビームライン1本も活用することができることになっています。ビームライン3本を研究・教育に日常的に利用できる大学なんて、世界中でもほとんどないですよ」

iFRC所属の研究者以外でもJ-PARCのビームラインを使える?
高妻「もちろんです。もともとは2002年に茨城県が宣言した「サイエンスフロンティア21構想」で、J-PARCを活用した中性子産業利用の促進が掲げられ、その後の「いばらき科学技術振興指針」を受けて、事業の担い手として手を挙げたのが茨城大学です。それでiFRCが設置され、理学部、工学部、そして大学院理工学研究科に応用原子科学の専攻やプログラムができ、今の理工学研究科量子線科学専攻につながっています。そういう経緯もあって、県から本学へ研究費を支援してもらったり、ビームラインを使える「ビームタイム」を割り当ててもらったりしています。これらの支援の仕組みは、茨城大学全体に開かれているものです」

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ビームラインが放射状に並ぶJ-PARC内 国内外の研究者が見学に訪れる

―ぜひ多くの教員に利用してもらいたいですね。
高妻「そうですね。そのための学内説明会も定期的に開催しています。食品分析などは農学部の先生たちと連携することで、たくさんの成果が出せると思います。そのためにも「中性子線といっても決して難しくないんだよ」ということを多くの教員に実感してもらって、若手を中心としたオープンイノベーションの雰囲気を作っていきたいです。興味のある教員はぜひiFRCに一度相談してください。すぐ説明に行きます」

―大学院理工学研究科の量子線科学専攻も、開設から丸4年が経ちました。
高妻「大企業でも量子線の知識をもつ人材が歓迎されていることを、最近強く感じるようになりました。専攻の一期生や二期生が、今ではそうした企業のリクルーターになっていて、いいネットワークが形成されつつあります。
 一方で研究者志望の学生が増えてきたことも大きな特徴です。現在、加速器施設をもった世界中の機関と連携協定を結んでいるのですが、その中でもオーストラリアのANSTO(オーストラリア原子力科学技術機構)という機関はとても熱心で、昨年度も量子線科学専攻の博士前期課程の4人の学生―このうち3人が女性です―が、1か月間ANSTOに滞在して実験などに取り組みました。その成果は絶大で、学生たちは研究職への興味が強まりました。量子線科学の分野では女性研究者が増えていますので、本学からも多くの女性研究者を輩出していきたいです」

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世界中の量子線科学研究・教育機関と連携している

―中性子線だけでなく、ミュオンを扱う研究室もありますね。
高妻飯沼裕美准教授の研究室ですね。ミュオンは今すごく注目されていて、これから産業利用の大きな核になると思います。ミュオンを使ってピラミッドの内部を調査するというプロジェクトがありましたが、そのように考古学の資料にも使えるんです。その意味では人文社会科学部との連携も考えられますね。本学の教員の専門は回折や散乱ですけど、iFRCを経由して、J-PARCKEKに所属する他の分野の研究者ともつながることができます」

―今後の展望は?
高妻「量子線科学の分野は成果がわかりづらいかも知れませんが、実際には昨年度も多くの学術論文やプレスリリースを出していますし、量子線分野には誰にも負けないという人材を着実に輩出しています。一方で、これだけのビームラインが利用できるという茨城大学のアドバンテージは、まだまだ存分に活かしきれているとはいえません。学内のオープンな情報交換、海外機関とのコラボレーションの強化、学生を含めた若い人のアイデアの積極的な採用などを通じて、イノベーションを生み出していきたいです。みなさん、ぜひ一緒にがんばりましょう!」

プロフィール

ifrc6.jpg高妻孝光●こうづま・たかみつ

1994年に茨城大学に着任。現在、茨城大学大学院理工学研究科(理学野)教授で、フロンティア応用原子科学研究センターのセンター長を務める。専門は生物無機化学などで、最近は金属タンパク質の構造と反応に関する研究などに取り組んでいる。2018年にベンチャー企業・株式会社クォンタムフラワーズ&フーズの立ち上げに関わり、現在、最高技術責任者(CTO)として取締役も務める。

(取材・構成:茨城大学広報室)