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銅アミン酸化酵素の中性子結晶構造解析に成功
―宙に浮いているようにみえる水素イオンなど初めて解明

 大阪医科大学、大阪大学、量子科学技術研究開発機構、茨城大学、筑波大学らの研究グループは、大強度陽子加速器施設(J-PARC)、物質・生命科学実験施設(MLF)の茨城県生命物質構造解析装置(iBIX)を用いた実験により、銅アミン酸化酵素の高分解能中性子結晶構造解析に成功しました。本酵素は、これまでに中性子結晶構造解析が行われた中で最も大きなタンパク質(分子量:70,600)であり、小型タンパク質を主なターゲットとしてきた中性子結晶構造解析の適用範囲を大きく広げました。得られた構造からは、三方向からの酸素原子との相互作用により宙に浮いているかのようにみえる水素イオン(非局在化したプロトン)や、特異な補酵素構造など、水素原子核の位置が精密に決定されることにより初めて解明された重要な知見が得られました。
 本研究成果は、2020年5月5日、米国科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」に掲載されました。

pic1図1 (A)大型タンパク質、銅アミン酸化酵素の巨大な結晶。
(B)同酵素の水素原子を含んだ立体構造とそこから見つかった"宙に浮いた"プロトン(拡大図中央)

>>【プレスリリース】 宙に浮く水素イオン?! ―大型タンパク質の中性子結晶構造解析で見えた特異な世界―

研究の背景

 タンパク質などの立体構造を決定し、その機能とメカニズムを解明する構造生物学において、中性子結晶構造解析は、水素原子を含む構成全原子の位置を正確に決定することができる強力な研究手法です。しかし、極めて大きなタンパク質結晶が必要であり、一般に分子量の大きなタンパク質ほど結晶の大型化が難しいため、中性子結晶構造解析は、主に小型タンパク質を対象として行われてきました。我々の研究グループは様々な条件を検討した結果、これまでに例のない大きな分子量を持つ銅アミン酸化酵素(分子量 70,600)において、高品質の大型結晶(約 7 mm3)の作製に成功しました。J-PARC MLF のiBIX を用いて、得られた結晶の中性子回折実験を行った結果、大型タンパク質としては極めて高分解能(分解能:1.72 Å)の中性子結晶構造解析に成功しました。
 特筆すべき成果として、活性中心において"宙に浮いた"プロトンを観測したほか、補酵素トパキノンの六員環が湾曲し、補酵素はエノラート型とケト型の平衡状態として存在していることがわかりました(図2)。さらに、銅イオンに配位したヒスチジン残基のプロトンが解離し、銅イオンとの結合が安定する(図3)ことなど、酵素反応の働きに中心的役割を果たす水素原子やプロトンの正確な位置が明らかとなりました。同時に、実験的に決定された水素原子核の位置に基づく量子化学計算によって、解離基のプロトン化状態やエネルギーレベルを理論検証することが可能となりました。これらの知見は、水素原子核の位置が精密に決定される中性子結晶構造解析によって初めて解明されたことであり、銅アミン酸化酵素の反応機構を理解するため極めて重要な成果となりました。

pic2
図 2 補酵素トパキノンの構造と平衡状態。
軽水素を灰色、重水素を水色の網目で示す。

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図 3 銅イオンと結合したヒスチジン残基の構造。
手前のヒスチジン残基には重水素が結合しておらず(赤丸で囲んだ部分)、特異なイミダゾレートアニオンが形成されていた。
軽水素を灰色、重水素を水色の網目で示す。

本研究成果の意義

 今回の研究成果は、中性子結晶構造解析の適用範囲を大きく広げるものであり、高分子量の有用タンパク質や薬剤開発の標的タンパク質において、水素原子を含んだ立体構造決定につながるものと期待されます。また、本研究は、水素原子核の位置を実験的に決定することによって、これまで予想されなかった構造の存在や作用機構を明らかにできることを実証しており、中性子結晶構造解析の大きな可能性を示すものと考えられます。例えば、本研究で明らかになった"宙に浮いた"プロトンの存在は、極めて軽い質量を持つプロトンの量子的な性質を観察したものであり、近年提案されている、酵素の量子論的振る舞いを理解するうえで重要なデータとなるものと考えられます。

研究者のコメント 

 高品質の大型結晶を作ることは非常に困難でしたが、苦労のかいがあって想像以上に多くの知見が得られました。タンパク質を構成する原子のほぼ半数は水素原子であり、今後、中性子結晶構造解析が発展し、水素原子の検出が容易になれば、今まで予想すらしていなかったタンパク質分子のもつ機能が、次々と明らかにされていくのではないかと期待しています。

論文情報

  • タイトル:Neutron crystallography of copper amine oxidase reveals keto/enolate interconversion of the quinone cofactor and unusual proton sharing
  • 著者名:Takeshi Murakawa, Kazuo Kurihara, Mitsuo Shoji, Chie Shibazaki, Tomoko Sunami, Taro Tamada, Naomine Yano, Taro Yamada, Katsuhiro Kusaka, Mamoru Suzuki, Yasuteru Shigeta, Ryota Kuroki, Hideyuki Hayashi, Takato Yano, Katsuyuki Tanizawa, Motoyasu Adachi, Toshihide Okajima
  • 掲載誌:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(オンライン)
  • 掲載日:2020年5月5日

※茨城大学関係者:野直峰(フロンティア応用原子科学研究センター助教)山田太郎(フロンティア応用原子科学研究センター准教授)日下勝弘(フロンティア応用原子科学研究センター教授

※なお、本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業、および物質・デバイス領域共同研究拠点事業の支援を得て行われました。