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細胞外マトリクスを介した新しいメカノトランスダクション機構を発見
―血管疾患への新たな治療法開発への期待

 筑波大学 生存ダイナミクス研究センター(TARA)の柳沢裕美教授、山城義人助教(本学卒業生)、熊本大学 大学院生命科学研究部微生物薬学分野の大槻純男教授、茨城大学 大学院理工学研究科マイクロ-ナノバイオメカニクス研究室の長山和亮教授らの研究グループは、メカニカルストレス応答の中心を担う、転写調節因子 YAP (Yes-associated protein)の核内移行(活性化)を、細胞外マトリクス Thbs1 が制御し、血管のメカノトランスダクション機構において、重要な働きを担うことを明らかにしました。
 本研究成果は、2020 年 4 月 22 日付 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 誌で先行公開されました。

>>【プレスリリース】 細胞外マトリクスを介した新しいメカノトランスダクション機構を発見

研究の背景

 血管壁は絶えずメカニカルストレス(血圧や血流による血行力学的応力)にさらされており、その制御機構の破綻が血管疾患の根本原因ではないかと注目されています。細胞が外力を感知し、応答する仕組み(メカニカルストレス応答)とそのシグナル伝達(メカノトランスダクション)は、細胞接着斑を介して、細胞と細胞間を繋ぐ細胞内に伝搬されますが、その制御メカニズムの詳細は明らかになっていません。とりわけ、メカノトランスダクションを制御する「細胞内」の分子の役割については多くの報告がありますが、「細胞外」の分子の役割についてはほとんど不明であるのが現状です。本研究グループはこれまでに、大動脈瘤において、メカニカルストレス応答異常と細胞骨格のリモデリングが瘤の形成に重要な役割を担っていること、大動脈瘤病変で細胞外マトリクスである Thbs1 タンパク質が過剰に発現していること、また Thbs1 の抑制が大動脈瘤発症の抑止に効果的であることを示してきましたが、血管のメカノトランスダクション機構における細胞外マトリクスの役割と、血管疾患発症の分子メカニズムの詳細は明らかにされていませんでした。

研究内容と成果

 本研究ではまず、ラット血管平滑筋細胞を用いて周期的伸展刺激(20% strain, 1.0Hz, 20 時間)において分泌されるタンパク質を網羅的に解析し、Thrombospondin-1 (Thbs1)を含む、85 種類のタンパク質を同定しました。Thbs1 が大動脈瘤病変で過剰に発現している先行研究の結果から、Thbs1 の役割に注目し、Thbs1 が伸展刺激後に細胞辺縁部の細胞接着斑に局在することを観察しました。

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 次いで、伸展刺激により分泌された Thbs1 が、細胞-細胞外マトリクスの接着を制御する integrin αvβ1 に結合することを、免疫染色、免疫沈降、近接ライゲーションアッセイを用いて明らかにしました。ゲノム編集により Thbs1 を欠損した細胞では、伸展刺激応答における接着斑の活性化が誘導されず、細胞骨格を形成するアクチンフィラメントの配向が崩れ、細胞張力が減少していることを、免疫染色、原子間力顕微鏡を用いた測定から明らかにしました。細胞の数や器官のサイズは Hippo-YAP 経路というシグナル伝達経路によって制御されています。遺伝子発現解析(RNA-seq)の結果、細胞増殖に関わる転写調節因子 YAP の標的遺伝子の発現が、Thbs1 欠損細胞では伸展刺激後も抑制されること、伸展刺激による YAP の核内移行(活性化)には Thbs1 が必要であることを見出しました。

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 また、YAP の核内移行は、Thbs1 のintegrin αvβ1 への結合と、低分子量 G タンパク質 Rap2 の不活性化を伴って、Hippo 経路依存的に制御されていることがわかりました。さらに、マウスを用いた解析において、Thbs1 欠損マウスは、横行大動脈縮窄術(TAC)による圧負荷により、血管の破裂・解離を引き起こす一方、頸動脈狭窄術による新生内膜の形成時に、新生内膜細胞の増殖を抑制することを明らかにしました。
 これらの結果から、細胞のメカ二カルストレス応答の中心を担う、転写調節因子 YAP の活性化を、細胞外マトリクス Thbs1 が制御することがわかりました。さらに、Thbs1 が制御する YAP 活性化のシグナル伝達経路は、血管壁の圧負荷応答や、狭窄に伴う新生内膜形成時の血管リモデリングに重要な働きを示すことを明らかにしました。

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今後の展開

 今後、Thbs1 のみならず、他の細胞外マトリクスについても、そのメカノトランスダクションへの関与と血管疾患への関与が明らかになると期待できます。また、細胞外マトリクスを標的とした新たな治療法開発の展開が期待されます。

掲載論文

  • 【題 名】 Matrix mechanotransduction mediated by thrombospondin-1/integrin/YAP in the vascular remodeling (トロンボスポンジン 1 を介した血管のメカノトランスダクション機構の解明)
  • 【著 者】 Yoshito Yamashiro, Bui Quoc Thang, Karina Ramirez, Seung Jae Shin, Tomohiro Kohata, Shigeaki Ohata, Tram Anh Vu Nguyen, Sumio Ohtsuki, Kazuaki Nagayama, and Hiromi Yanagisawa
  • 【掲載誌】 Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America

※本研究は、日本学術振興会の科学研究費補助金(科研費):基盤研究 B(課題番号 17H04289:柳沢裕美)、および若手研究(課題番号15K20898:山城義人)、などの支援によって実施されました。