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菌類内生細菌が宿主菌類の有性生殖を阻害する例を世界で初めて確認
菌類と内生細菌の共生関係の解明に一石

 東京農工大学大学院 連合農学研究科(配置大学:茨城大学)の高島勇介(当時[現 筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所 日本学術振興会特別研究員PD])、茨城大学の成澤才彦教授太田寛行教授(当時[現 茨城大学長])、西澤智康准教授、筑波大学の出川洋介准教授らの研究グループは、菌類の細胞内に生息する「菌類内生細菌」が宿主菌類の有性生殖を阻害する例を初めて発見しました。
 菌類のさまざまな形質は菌類単独の性質によってのみ生じるのではなく、実際には内生細菌が介在することで成立しているという可能性が、近年示されています。研究グループでは、菌類内生細菌を除去した株を安定的に作出し、この除去株と内生細菌保有株の有性生殖をそれぞれ観察した結果、菌類内生細菌の存在によって宿主菌類の有性生殖が阻害されることが明らかになりました。この結果は、菌類内生細菌が宿主菌類にとって有益な存在であるという従来の認識に一石を投じるものです。
 この成果は、4月15日、日本微生物生態学会・日本土壌微生物学会・Taiwan Society of Microbial Ecology・植物微生物研究会・極限環境微生物学会が発行するオープンジャーナル「Microbes and Environments」に掲載されます。

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背景

 カビ・キノコ・酵母として知られる、菌類の細胞内に生息する原核生物の細菌(バクテリア)は、「菌類内生細菌」と呼ばれます。近年、菌類内生細菌が、宿主に代わって毒素を生産することで宿主菌類に植物病原性を付与する例や、菌類内生細菌が宿主菌類の胞子形成を促進する例が確認されており、菌類が単独で作り出すと考えられていた形質が、実際には菌類内生細菌の介在によって成立している可能性が示されていました。茨城大学農学部では、太田寛行教授(当時)や佐藤嘉則博士研究員(当時[現 東京文化財研究所])が、土壌に生息する菌類(カビ)の1種であるMortierella属菌(M. elongata)に、Burkholderiaceae科に属する複数の細菌(Burkholderiaceae-related endobacteria::BRE)が内生していることを世界に先駆けて発見しました。その後、BREのゲノム解析や分離培養に成功し、その一部はMycoavidus cysteinexigensとして新種提唱されました。現在では、M. elongata以外の多くの菌類の種からも、系統的に多様なBREの存在が報告されています。しかし、そうしたBREが宿主菌類に及ぼす影響については解明が進んでいませんでした。

研究の概要

 本研究では、筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所をタイプ産地として記載されたM. sugadairanaという自殖性の種と、BREの1系統(MorBRE group C)に着目しました。これまで自殖性の種の菌類から菌類内生細菌が発見された例はなく、またM. sugadairanaは単独で有性胞子形成(有性生殖)を行うため、菌類内生細菌の有無による有性生殖への影響を調査するのに適していました。研究グループは、発芽した無性胞子に抗生物質を処理することでBRE除去株を安定的に作出し、BRE除去株と保有株の有性生殖をそれぞれ観察しました。その結果、BRE除去株では有性生殖が生じたのに対し、BRE保有株では有性生殖が生じないことを発見しました(図1)。この結果は、菌類内生細菌の存在によって、宿主菌類の有性生殖が阻害されることを示唆しています。
 これまで節足動物では共生細菌が宿主の有性生殖に干渉する例が多数報告されていましたが、菌類においても細菌が宿主菌類の有性生殖に影響を及ぼすことが、本研究によって初めて示されました。


図1 菌類内生細菌保有株(左)と除去株(右)のコロニー。
菌類内生細菌除去株では培地内に菌糸塊が生じ、その中で有性胞子(接合胞子)が形成される(右下黒枠内)。

今後の展望

 本研究では、宿主菌類の有性生殖が菌類内生細菌により阻害されることが初めて確認されました。この発見は、菌類内生細菌が宿主菌類にとって有益な存在であるという従来の認識に対して一石を投じるものです。他の共生系を用いた先行研究では、宿主菌類と菌類内生細菌の関係は対立関係から共生関係に推移していったと予想されており、今回用いた共生系は、2者の関係が始まってから比較的早い段階にある共生関係である可能性があります。今後、本研究で作出されたBRE除去株と保有株を対象に、遺伝子発現の変化を包括的に調査する比較トランスクリプトーム解析を行うことにより、宿主菌類のどのような遺伝子がBREによって影響を受けているのかについて具体的な知見が得られると期待されます。一方、Mortierella属菌を宿主とするBREには系統的に大きく異なる3つのグループが存在するため、今回対象としていない他のグループのBREが有性生殖に及ぼす影響についても、今後明らかにしていく必要があります。
これらの研究を通して、菌類内生細菌による宿主菌類の有性生殖干渉現象の理解を深めるとともに、細胞内環境に適応した細菌が、節足動物と菌類という異なる2つの真核生物群に対して、なぜ・どのように宿主の有性生殖を制御するという共通の生存戦略を進化させていったのか、比較研究が可能になると期待されます。
※ 本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金および特別研究員奨励費、公益財団法人発酵研究所大型研究助成支援を受けて行われました。

論文情報

  • タイトル:Aposymbiosis of a Burkholderiaceae-related endobacterium impacts on sexual reproduction of its fungal host.
  • 著者:Yusuke Takashima, Yousuke Degawa, Tomoyasu Nishizawa, Hiroyuki Ohta, Kazuhiko Narisawa
  • 雑誌:Microbes and Environments
  • DOI番号:10.1264/jsme2.ME19167
  • 公開日:2020年4月15日