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養護教諭としての経験を後進の育成に生かす
― 現場のための自己研修ツールを開発、教育学研究科・高橋朋子さんの想い

 「養護教諭という仕事が大好きで、早期退職した後も養護教諭と関わっていたいと思いました。」そう語ってくれたのは本学大学院教育学研究科養護教育専修2年の高橋朋子さん。茨城県の養護教諭として29年間勤めた後、2018年に本学大学院へ進学しました。その修士論文の研究の一環で開発したものが「養護教諭の救急対応能力向上のための自己研修ツール」、A4サイズ34ページの冊子です。これは、学校現場で児童生徒が病気やケガをした際、養護教諭が傷病の緊急度を正確・迅速に評価し、適切な初期判断をとれるよう、判断の思考過程をアルゴリズムにまとめたものです。医療のエビデンスと養護教諭の現場の感覚の両方を踏まえた、今までにない自己研修ツールだそうです。研究のきっかけや養護教諭という仕事に対する高橋さんの想いをインタビューしました。


高橋さんがつくった「養護教諭のための救急対応自己研修ツール」

―まず、ご自身の経歴について教えていただけますか?

高橋さん「私は茨大の卒業生です。在学中に小倉学教授から養護教諭の専門性について学び、養護教諭の仕事の面白さや魅力を強く感じ、実際にこの道に進みました。大学卒業後は、茨城県の養護教諭として29年間勤めました。現職の時は、養護教諭の相談活動について研究をする目的で、茨城県の養護教諭としては初めて茨大に内地留学をしました。他には、保健室登校や保健室経営についての専門委員会に入り、手引書の作成などの研究活動をしたり・・・とにかく色々なことを経験させてもらいました。養護教諭を退職した後は、日本学校救急看護学会の理事を務め、そこで現役養護教諭の研修会の企画などにも携わっています。」

―養護教諭として長年尽力されてきたのですね。現職退職後に本学大学院へ進学された経緯は?

高橋さん「私は養護教諭という仕事が本当に好きで、早期退職後もずっと何かしら養護教諭に携わっていたい、力になりたいと常々考えていました。今回、大学院の修士論文として開発した自己研修ツールについても、こんなものが作りたい!という構想は長年持ち続けていました。大学院に入学し、まとまった時間を確保し、専門の先生の教えを受けながらきちんと集中して研究に取り組んでみたいという強い想いから、大学院への進学を決意しました。」

養護教諭について自身の想いを語る高橋さん


―そして今回、修士論文として開発されたものがこの自己研修ツールですね。これは一体どのようなツールなのでしょうか?

高橋さん「養護教諭が働く学校の現場では、児童生徒の様々な傷病が起こり得ます。初期の対応をスムーズかつ正確におこなうためには、重症事例を想定した上で事前にシミュレーションができる自己研修の機会が必要だと考えました。そのために今回開発したのが『養護教諭のための救急対応自己研修ツール』です。実際に、現職の養護教諭723名にアンケートをとり、298名(回収率41.2%)の回答を得て、意見や要望をツールに反映しています。」

―現場で働く養護教諭の生の声が反映されているんですね。このようなツールを開発しようと思われたきっかけは?

高橋さん「私が理事を務めている日本学校救急看護学会では、年に一度、救命センターの医師と連携して養護教諭のための研修会を開催しています。毎年大変好評で、全国から参加応募があり、1週間ほどですぐ満席になります。やむなく参加をお断りしなければならないほどです。このような研修を受講したいと希望している養護教諭はたくさんいて、大きなニーズがあるはずなのに、実際に受講できる場があまりないことを大変残念に感じておりまして・・・。それならば、シミュレーション学習ができ、実践力を高めることができるような自己研修ツールを開発し、普及させたいと思うようになりました。」

―このツールの特徴はどういった点でしょうか?

高橋さん「まず大きな特徴としては、医師の監修のもと、医学的なエビデンスに基づくアルゴリズムをツールに取り入れた点です。これによって、養護教諭は、より正確に状況を認識し、初期判断をおこなうことができます。このようなツールは、救急医療などでは似たようなものは存在するのですが、医療と学校現場の視点で作られたものは意外と無いんです。この『学校現場』の視点というのが非常に重要なポイントです。


本インタビューを進める中、高橋さんの指導教員であり小児科医でもある古池雄治教授より養護教諭が直面している近年の問題について話が及びました。古池教授は、「大規模な学校や特別支援学校を除き、基本的に養護教諭は1校に1人が原則のため、養護教諭へかかるプレッシャーや不安感が大きい」、「養護教諭と小児科、同じ分野のはずなのに情報交換やタイアップして活動する機会などが無い」ことなどを問題の一例として挙げました。

古池教授「養護教諭を取り巻く課題は、今まで注目されてくることがあまり無かったため、整備が遅れているんです。近年アレルギーによるアナフィラキシーショック等、今までまれだった重症事例の発生が増えており、養護教諭が直接保護者から訴えられてしまうケースも見受けられます。多くの養護教諭は、『机上での勉強や研修での知識習得の機会はあるが、実際の現場での実践が十分に積めていない』というのが現状なんです。そんな状況の中で、今回の高橋さんの研究は、大変有意義なものであり、具体的なツールができたことは大きな第一歩であると思います。」


養護教諭が近年直面している問題について語る古池教授


―高橋さんも、近年養護教諭に求められるものは大きくなっていると感じますか?

高橋さん「はい、やはり感じます。養護教諭は基本的に1校に1人しかおらず、判断に責任を持たなければなりません。他の教員も、救急処置の対応について知っておく必要はもちろんあります。しかし、中心となり判断をしなければならないのは、やはり養護教諭です。いくら経験を積んだベテランでも、不安な気持ちは少なからずあります。すべての事例の対応を熟知しているわけではないので。でも『不安』ということは必ずしもマイナスなことではないと私は思います。不安であるということは、人の命を預かる上で慎重になれる要素でもありますから。」

―今回開発されたツールですが、どのように活用されることを望みますか?

高橋さん「このツールで対応方法がすべて網羅できるわけではありませんが、まず思考を整理し、緊急時の判断の一助となればと思います。養護教諭を目指す学生たちや現役の養護教諭に配布することを考えているので、役立ててもらえたら嬉しいです。自分の経験や判断した記録などを加えて、自分自身の判断や対応を省察できるオリジナルの自己研修ツールとして活用してもらいたいです。」

―今回のインタビューを通して、養護教諭という職業に対する高橋さんの情熱や取り組みの様子が大変よく伝わってきました。本日はありがとうございました。


高橋さんが今回開発したツールは、調査協力者や本学の学生・卒業生に配布する予定とのことです。その他希望者がいれば別途配布することも検討されています。興味がある方は、本学教育学部 古池雄治教授までご連絡ください。(E-mail: yuji.koike.md[at]vc.ibaraki.ac.jp※[at]は@に変換してください)