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再建されたばかりの旧水戸城大手門を附属小の子どもたちが見学
―同行しながら考えたこと

 茨城大学教育学部附属小学校と幼稚園の住所は水戸市「三の丸」。この地名が表すように、子どもたちはかつて水戸城の一角だった場所で毎日を過ごしている。
 その旧水戸城の入口として聳え建っていた大手門が、このほど1世紀以上ぶりに復元された。さらに今年秋には、この大手門に連なって水戸城の敷地を囲む二の丸角櫓(すみやぐら)と土塀の復元も完了する予定で、地名に留まらず景観自体が水戸藩時代の風情を物語ることになる。
 220日、附属小で新しい大手門や工事中の二の丸角櫓などを見学する授業が行われた。普段は非公開だから附属小のための特別メニューだ。大学の広報室スタッフもカメラをもって参加させてもらった。

 今回見学に臨んだのは、3年生の3クラスと、34年生の複式クラスの合計111人の子どもたち。「複式クラス」は複数の学年が一緒に学ぶ学級で、附属小はこの複式クラスの教育実践に長年の実績をもつ。男子8人、女子8人に担任の横堀先生がつくこのクラスに同行することにした。

 旧水戸城の復元工事は現在も進行中で、附属小の校門周辺もネット、カラーコーンなどが目につく。子どもたちの列に、警備員や観光に来ている一般の方が「行ってらっしゃい」と声をかけてくれる。
 校門を出て左に曲がると、高さ13メートル、幅17メートルという大きな大手門がすぐ目に飛び込んでくる。その前で、復元プロジェクトにずっと関わっているという水戸市教育委員会歴史文化財課の方が出迎えてくれていた。「こんにちは」「こんにちは」という子どもたちの元気な声が青空の下に響く。

fuzokuotemon_1.jpg旧水戸城の地図を手に復元計画を紹介する水戸市歴史文化財課の薄井さん

 今回の見学の一番の目玉ともいえるのが、大手門の内部に入って、二階部分に上がるという体験だ。「これが鍵(鉤)だよ」と、まさに鉤型の道具を手渡される。子どもの手にはずしりと感じる。「重いね」「軽いと簡単に盗まれちゃうからかな」と言いながら、自分たちの身長と同じところに付いている入口に、台を使ってひとりずつよじ登る。

 門の内部に入ると、すぐに二階に上がる階段がある。傾斜が急に見えるが、案内してくださった歴史文化財課の方によると、昔はもっと急だったらしい。「ほら、あそこに階段の板をはめるような穴が開けてあるのが見えるかな」と言って壁のほうを指さすと、「えーこんなに!?」「すごい!」と驚きの声があがる。

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 階段を一段一段ゆっくり昇り、二階部分へ。思いのほか広い空間に、ヒノキの香りがいっぱいに漂う。

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「窓を開けてごらん」と声がかかると、子どもたちは目を輝かせながら窓のところに走り寄り、やや緊張の面持ちで木の窓をスライドさせた。木枠の隙間から光が差し込むと同時に、目の前に大手橋と弘道館の景観が広がる。大手門が復元されるまでの100年間、誰も見ることがなかった眺望だ。弘道館の梅の花がポツポツと見える。この景色にはみんなも興奮した様子で、眼下の観光客に「こんにちは!」と手を振る子も。今度はこっちの窓、次はあっち...と、動き回る子どもたちの足音がよく響く。

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「みんな、今度は天井を見てみて。太くて丸い木が屋根を支えていますが、長い切れ目があるよね。それはなんでかな」
「割れちゃった?」
「違う木同士をくっつけた跡?」
「そう!これは1本の木でできているんじゃなくて、何本かの木を組み合わせてつくっているんだよ。この工法は、もともとこの大手門に使われていた昔ながらの方法なんだ」

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 実は今回の見学にあたって、先生から「どうして古いものを残しているのか。どうして復元するのか。その理由を見つけてみて」というミッションを言い渡されていた子どもたち。「こんなふうに、この大手門には、今の建築の技術じゃなくて、昔の技術が使われている。今日はこれだけでも覚えていってほしいな」という言葉に、ちょっとヒントを得たようだった。

 階段を下り、再び外へ出た。「これ、何て読むかな?」

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「...たほてはし??」
「これ、『おおてばし』って読むんだよ。『おおて』って何だろう?」
「将棋の"王手"?」
「なるほど!?実はそういう意味もあるのかも知れないね(笑)『大手』というのは正面玄関のこと。だからここだけでなく、全国のいろんなところに『大手門』って門はあるんだよ。ここは水戸城の正面玄関だったんだ」

 大手門の再現には本当に多くの「古くてすごい技術」が使われている。地面にただ置いてあるように造ってあるから、大きな地震が来ても本体が壊れにくいということ。金属の釘と違って木のくさびであれば、構造に歪みが出てきてもその食い込み具合で簡単に調整がきくこと。木の「赤身」と呼ばれる部分だけで太い柱を造るのがとても大変だということ。「木材の調達だけで1年間かかったんだ」という説明に、子どもたちが「えーっ!」「そんなに!?」と驚く。できる限り茨城県産の木材を使い、それがかなわなかった箇所も、国産の木材にこだわった。だからお金も時間もかかった。その木の温もりを味わうように、両手ですりすりとなで回す子どもたち。先生から「登下校中は触っちゃダメだよ。今日は特別だからね」と言われると、より名残惜しそうな感じで熱心になで回す様子が愛らしかった。

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 大手門を背にして、再び小学校へと戻る。今度は角櫓と塀の復元現場の見学だ。これらは附属小学校の敷地からつながるようにして造られている。実はこの場所はもともと、附属小の子どもたちが植物や昆虫といった自然に触れ合うことができる丘で、茂みにぽっかり空いた入口には、今でも「ことり(小鳥)の森」と書かれた看板が掲げられている。複式クラスの子どもたちも、入学したての頃はたくさん遊んだ思い出の場所のようだ。

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 工事の足場に気を付けながら、コンクリート造りの塀に沿って、細い道を一列になって進む。途中途中で、「ここの坂道を段ボールで滑ったんだよね」などと教えてくれる。また、可憐な花をつけた小ぶりの梅の木は、2011年の東日本大震災のあとに植えたものだとも教えてもらった。左に目をやると校舎やグラウンドが見下ろせる。お山の大将になったような気分だ。

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 今回、同行取材をしていて、かつてみんなで学び、遊んだ丘が、新しい景観へと変わることを、子どもたちも、あるいは教師たちも、期待と寂しさが混ざったような複雑な心境で受け止めていることも伝わってきた。

「子どもたちに案内するのが一番楽しいですね」と感慨深く語る水戸市の職員が、復元を通じて未来へ受け継ごうと努力している技術や景観も、一方で子どもたちの中に残る「小鳥の森」の思い出も、時間軸の縮尺は全然違うものの、どちらも価値ある「歴史」として尊いものだ。あるいはもっとスケールを大きくして、人類が誕生する前の時代に思いを馳せることだってできる。

 そんな多様な歴史の縮尺の中から、その時代ごとの価値観や地域の人たちの思いに沿って、何を選択し、何を可視化し、どう未来へとつないでいくか。それをじっくり考えたり、みんなで議論したりすることはとても大切なことだ。その意味で、今回子どもたちに示された「どうして古いものを残しているのか。どうして復元するのか」という問いは、なかなか深い。歴史の息吹のなかに建つ附属小は、そういう問いに肌で触れ、自分たちのことと学び、感じる場として、絶好の環境だといえるかも知れない。

 秘密基地を探検するように歴史の複層をめぐる子どもたち。その後ろ姿を追いかけながら、そんなことを考えた。

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(取材・構成:茨城大学広報室 山崎一希)

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