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【iOP】カンボジアで10日間のSDGsフィールド研究
―教育環境の調査結果を学生たちが報告

 カンボジアの教育や開発について学ぶため、SDGsの観点から現地の政府機関や大学、NGOに英語を使ってインタビュー調査―本学の「iOPの機会を利用して10日間のフィールドワークに取り組んだ人文社会科学部の6人の3年生が、調査分析の報告会を行った。

 今回カンボジアでのフィールドワークに臨んだのは、人文社会科学部現代社会学科の「国際・地域共創メジャー」の科目「社会調査演習Ⅰ(国際系・国際学分野)」の受講者たち。4単位の通年科目で、学生たちは前期からリサーチクエスチョンを設定し、また調査方法も学んだ上で、昨年の1120日~29日、カンボジアでSDGsの観点からフィールド調査を行った。現地では、指導教員の野田真里准教授のつながりも活かして、カンボジア政府教育青年スポーツ省、王立プノンペン大学、国立特別支援教育研究所といった政府機関・大学をはじめ、NGOや現地の公立学校などで調査を展開。日本人以外の相手には英語を使ってインタビューを行う。限られた期間での1回限りのインタビューだから、予め目的をしっかりと定め、インタビューを構造化しておかなければならないし、インタビュー後はそのライブ感を大事にしながらみんなで振り返りを行う。そんな濃密な10日間を過ごした。

 今の3年生は、2017年に人文学部から改組した人文社会科学部の1期生だ。この学年からカリキュラムが大きく変わったので、授業としてここまで体系化された海外フィールド調査を組むことは学部としても初めてのこと。教員にとっても手探りで作り上げてきた授業だ。野田准教授は、「単なる経験としてのスタディツアーではなく、フィールドワーク(現地調査)。通年の調査演習で、周到な事前学習と明確なリサーチクエスチョンが必要だ、報告書も日本語・英語両方で書いてもらう。学生にとっては当然初めての経験です」とこの授業の特徴を語る。

cambodia2.jpg指導教員の野田准教授

 報告の一部を紹介しよう。長谷川美波さん、折舘希望さんは、カンボジア政府が首都プノンペンに新しく設立した「NGSNew Generation School)」の見学や教育政策の高官へのインタビューをもとに、現在の教育政策が社会階層格差を広げていることを指摘。NGSは、カンボジアも経済のグローバル化の影響を強く受ける中で、そこで新たに必要とされるSTEMScience, Technology, Engineering, Mathematics)教育を目標として設立された、いわばエリート公立学校だ。各教室にICT機器も整備されているという。一方、学生たちは普通の公立学校や盲聾学校も見学し、それらの学校とNGSとの教育環境の歴然とした差にショックを受けた。

 そこで学生たちは教育格差の問題について、さまざまな関係者にインタビューを行ったところ、「奨学金を整備しているから経済格差のせいでアクセスできないということはない」という声がある一方、「就学以前の塾や語学学校に通えるか否かがその後の就学に影響する」という指摘も聞かれた。その上で、実際に裕福な家庭の学生が多いNGSの状況なども自分の目で見た長谷川さんは、先行研究も踏まえて、「ポル・ポト政権の影響で教育開発が遅れてきた中、『人的資本』として経済成長を続けるための人材育成が教育の役割と捉えられており、社会階層の移動や格差是正といった問題の解決より、経済的に投資効果が高いものが優先されている」と言及する。また、折舘さんも、都市部では教員が供給過剰な状況になっているのに対し、へき地への赴任にあたっては十分な手当てが支給されないなど、教育資源が明らかに偏っている現状に触れ、「幼少期から教育の投資を受けた都市部の上流階層の子どもしか通えないエリート教育は、社会階層移動の機会としての教育の役割は果たさず、格差を拡大させてしまっている」と結論づけた。

cambodia3.jpg王立プノンペン大学・チェット・チアリ―総長に英語でインタビュー

 このようにグローバル社会で企業が求める人材が変わり、教育の目標も世界中で見直される中で急速に教育インフラを整えようとしているカンボジアにとっては、現実的な政策課題は尽きない。その意味で、今回のフィールド調査で学生たちが訪れた多様な教育現場やそこで学んだ政策の実態は、これからのカンボジアの教育政策を考える上で重要な示唆をいくつも与えてくれる。

 鈴木拓夢さんは、カンボジアの各地の寺院を中心としたコミュニティで根付いてきた仏教教育に可能性を見出す。これらの教育は無償で行われており、国連のSDGsが掲げる「誰ひとり取り残さない」というミッションにつながる。一方で政府からの支援がほとんどないため、持続可能性はコミュニティにかかっている。こうした従来のコミュニティに根付いた教育のインフラをどう活用していくか、あるいは共存していくか、という点は今後の教育政策を考える上で鍵となるかも知れない。

cambodia4.jpg報告会には2年生も含め多くの学生が参加した

 さらに小塚美穂さんが調査した特別支援教育、郡山葵さんが調査した教員養成の計画の最新の動向も見逃せない。障害者のケアにあたっては、特別支援教育の充実といった制度的な社会改善とともに、物理的障壁・心理的障壁をなくす努力が必要(小塚さんはカンボジアの現地の人たちの差別意識の有無も探った)だし、教員養成についても戦略や計画の緻密さが求められる。二人とも今後はそうした観点から継続的に研究をしたいという意欲を示していた。

教育に対する市民の意識も重要であろう。大学をドロップアウトする人が多いことについて関心をもった鈴木葵さんは、その背景として、学生や社会が求めるものと、現状の高等教育の内容との間のギャップがあることを指摘。さらに、自分が求める一定の語学能力などが身についた時点で、卒業を待たずに退学する学生が多いことにも言及した。政府が教育への投資を最優先と表明する中、市民意識やこれまでの文化慣習との葛藤をどう乗り越えていくかは、カンボジアの将来を左右するかも知れない。

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 学生たちの発表を受け、人文社会科学部の蓮井誠一郎教授、三輪徳子准教授、横溝環准教授がコメント。それぞれが、今回のフィールド調査のレベルの高さやアウトプットの質にポジティブな評価を示した。その上で三輪准教授は、「エリートと格差という構図は分かりやすいが、最初からその枠組みをもってきてしまうと、かえって見えづらくなることもある。たとえばカンボジアにおける格差とは何か、ということをデータによって客観的に詰めたり、社会的要請が高い内容を市民が求めているとすればSTEM教育を積極的に進めるNGSはむしろ合理的な政策判断ではないか、といった視点をもったりすることも大事。今後ぜひ追究してほしい」などと語った。また、横溝准教授は「よく分析されているが、フィールドワークの調査報告としては、その一番の根拠となる、みなさんが五感で感じてきたことをもっと聞きたい」と指摘した。6人の学生たちは、これらの指摘や報告会に参加した学生たちのフィードバックを受けて、報告書の最終化を進めていくことになる。

 茨城大学にとっては、今年度初めての本格展開となった「iOP」については、まだまだ手探りの状況である。その中で「一期生」が充実した学修を展開していることは、今後の大きな道標となるに違いない。一回りも二回りも成長した学生たちのこれからの活躍にもぜひ期待したい。

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(取材・構成:茨城大学広報室)