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半減期の長い放射線セシウムの作物吸収
営農を通じて急速に減少していたことを確認

 茨城大学農学部附属国際フィールド農学センターの小松﨑将一教授の研究グループが、大学農場において福島第一原子力発電所事故以降の7年間にわたる放射性物質の長期モニタリングを行い、半減期が30.1年である放射性セシウム137の作物吸収が、耕うんなどの営農作業を通じて、事故以降急速に減少していることを明らかにしました。
 これまで放射性物質の作物移行については土壌中の放射性物質の汚染量による影響が指摘されていましたが、本研究では、放射性セシウムを同量含んでいる土壌においても耕うんなどの営農作業を行うことで作物への吸収を長期にわたり抑えることがわかりました。この研究成果は、原子力発電所事故後、営農の再開にあたっての放射性物質の作物移行抑制策として、従来のカリウム施肥や粘土鉱物による土壌改良に加えて、耕うん作業などの通常の営農活動による移行抑制が有効であることの科学的根拠となるものです。

 本研究成果は、オランダの環境科学専門誌『Science of the Total Environment』(2019年12月20日付)に掲載されました。

>>【プレスリリース】半減期の長い放射線セシウムの作物吸収、営農を通じて急速に減少していたことを確認(PDFファイル)

背景

 福島第一原子力発電所事故以降、茨城県など農産物の放射性物質量は食品の基準値を大幅に下回っていますが、半減期の長い放射性セシウム137(半減期は30.1年)の土壌中での長期的な動態は明らかになっていませんでした。この問題に関連して、農林水産省は、農地土壌中の放射性セシウムの野菜類と果実類への移行について、2011年5月27日にプレス発表を行っています。ここで利用された科学的資料は、主には海外の数編の論文がもとになっていますが、資料の少なさに加えて、日本と海外の土壌や農作物、環境の違いを踏まえた場合、海外のデータをわが国の状況に適用することの妥当性が問題です。

そこで、今回の原発事故の影響を受けた茨城県等の農地で栽培された農作物を採取し、その中の放射性セシウム量を精度よく測定・解析し、実情がどうなっているかを明らかにする必要があります。
 また、セシウムの移行については酸性度やカリウム濃度が影響をすることはわかっていますが、移行係数の測定に加えて土壌分析を同時に実施することで、移行係数を左右する他の条件の知見も合わせて得られることが期待されます。本研究では、その結果を踏まえ、セシウムを低減化するための土壌の改良を試み、その効果を検証することを目指しました。

研究手法と成果

 茨城大学農学部附属国際フィールド農学センター内の長期ダイズ輪作圃場(プラウ耕、ロータリー耕および不耕起の3つの耕うんの組み合わせとカバークロップの作付けの有無)において、土壌、カバークロップ、ダイズの放射性セシウムを2011 年から2017 年まで測定し、耕うんの方法の違いとカバークロップの種類の違いによる、放射性セシウム濃度や土壌からの放射性セシウムの移行量の影響を調査しました。また、それらの経年変化についても調査しました。
 土壌は30cmのコアサンプラーを用いて4 層に分けて採取し、カバークロップは0.25m2のコドラートを用いてプロットごとに収穫しました。ダイズはプロットごとに1 畝1m 以内に存在する株を刈り取り後茎と葉に分け、その後、ゲルマニウム半導体検出器による放射性物質の分析を行いました。
 まず、土壌中の放射性セシウムの分布は、2011 年においては、3 種類の耕うん体系で放射性セシウム分布は表層に集中していましたが、2012 年からは、ロータリー耕とプラウ耕でのセシウム137 の土中分布は均一化しました。これに対し、不耕起条件であると事故後7年を経ても表層に集中したままとなっていました。

 放射性セシウムのダイズへの移行係数は、土壌中の放射性セシウム分布と関係があることが認められました。これは、耕うんなどの営農活動が放射性セシウムを土中に埋没させることで、ダイズへの移行を抑制したものと考えられます。

 ダイズ子実のセシウム137 含有率は2011 年以降安全基準を大幅に下回っていましたが、2011 年に比べて2017 年にはセシウム137 含有率が65%減少していることが認められました。ダイズ子実のセシウム137Cs 濃度は年ごとに指数関数的に減少し、プラウ耕とロータリー耕では、不耕起に比べてダイズ子実のセシウム137 含有量は著しく低下しました。

今後の展望

 原発事故により東北および関東は広く放射性物質の降下(フォールアウト)を受けましたが、農地では土壌の持つ放射性セシウムの吸着・固定能力が発揮され、農作物への移行量はごく少なく、事故初年目からほとんどの農作物の放射能汚染は問題になりませんでした。とくに農地では施肥や堆肥投入など土づくりを通じて土壌の放射性セシウムの吸着能力が高くなることで作物への移行を阻止していることが認められました。今までの研究成果では、土壌の粘土鉱物の含有量、カリウム量などの土壌の粒度や化学的成分などの差異が放射性セシウムの作物移行に影響があることが報告されていましたが、今回の報告では、耕うんなどの農家が通常行っている農作業が放射性セシウムの作物移行を抑制していたことが明らかになりました。今回の成果は、原子力発電所事故に伴う農作物放射性物質について、耕うんなどの農作業が、農作物の安全性をより確かなものとする科学的根拠を示すものです。

論文情報

  • タイトル:Temporal dynamics of 137Cs distribution in soil and soil-to-crop transfer factor under different tillage systems after the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant accident in Japan
  • 著者:Peiran Li, Yingting Gong, Masakazu Komatsuzaki
  • 雑誌:Science of The Total Environment(2019 年12 月20 日付)
  • DOI:10.1016/j.scitotenv.2019.134060