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基盤科目「みんなの〈イバダイ学〉」学生たちが提言する理想のイバダイ像

 茨城大学の創立70周年記念事業の一環でスタートした、「みんなの〈イバダイ学〉プロジェクト」。知とは何か、茨城大学とは何かを根本から考えて将来へ向けたビジョンを「仮説」として生み出すプロジェクトで、昨年(2018年)にシンポジウムを実施し、今年5月に「イバダイ学からの仮説2019―茨城大学の将来ビジョンとその実現へ向けて-」を発表した。

 そして今年度の第3クォーターには、学部生対象の基盤科目「みんなの〈イバダイ学〉」も開講。約40人の受講者たちは、学長やさまざまな分野の教員のレクチャーを通じて大学をめぐる課題を学び、その後グループワークで自分たちなりの理想のイバダイのあり方を議論してきた。全8グループによる最終発表の模様をレポートする。

基盤科目「みんなのイバダイ学」

 まずは「みんなの〈イバダイ学〉プロジェクト」の一環で誕生した学部生向けの基盤科目「みんなの〈イバダイ学〉」がどんな授業かを紹介しておこう。
 初回登壇したのは、三村信男学長。「大学で何を"学ぶ"か?」をテーマに掲げ、学長として進めてきた茨城大学の教育改革の概要や背景を説明した後、自身が学生だった頃(半世紀近く前!)からの研究歴をつぶさに紹介。流体力学の実験をひたむきに続ける大学院生から地球環境工学の研究者へと至る遍歴は、目の前の課題に取り組みながら本当の意味で「わかった!」と思える理解に到達し、研究領域を広げていったという過程だ。「問題を構造的に捉える=分かること、解決に取り組むことに有効な能力を大学生活で育んでほしい」とメッセージを送った。


三村学長による初回講義の様子(2019年9月)

 2回目以降は、この授業の主担当である教育学部の佐藤環教授による教育史の視点から見た茨城大学の現在地についての講義、さらに「みんなの〈イバダイ学〉プロジェクト」を一緒に進めてきた教員による「残る知とは」「地域の産業と雇用」「地域・環境とグローバル」といった視点での講義・議論に参加し、全8回の講義の後半はグループワークを進めた。さまざまな学部の学生が混在したグループによるディスカッション。果たしてどんな「理想のイバダイ」が示されたのか。

誰にでもやさしい大学

 今回多くのグループが、エスニックやジェンダー、障がいなどの面での多様な人たちへの配慮に言及。留学生も加わったあるグループでは、茨城大学の問題点として、国内外での認知度があまり高くないこと、インターネットで情報がひっかかってこないこと、留学生と日本人学生との交流が少ないことを挙げた。
 また、茨城大学のバリアフリーについて調べたグループなどは、エレベーターやスロープ、点字ブロックの設置といったハード面の整備があまり進んでいないことを指摘。加えてソフト面の対応として、教職員や学生が多様な障がいについて学ぶ機会がもっと必要だという。茨城大学にはバリアフリー推進室があり、学生同士のサポートを進めるピアサポーターの仕組みもあるが、「そうした取り組みをもっと発信すべき。誰にでもやさしいイバダイであってほしい」と提言された。


 こうした対策は外国人の学生への配慮についても同じだ。「学内の掲示板を日本語・英語・中国後の3ヶ国語併記にする」「イスラム教徒の学生が誤って豚肉を食べないよう食堂のメニューに成分表示をすべき」「ヒジャブをかぶった学生を平日に積極的にアルバイトとして雇用する」というアイディアが学生たちから次々と提案される。

「留学生がもっと増えると良い」「大学の中で交流をもっと増やして」という意見が多く出る中、「アファーマティブ・アクション」を検討したグループもあった。アファーマティブ・アクションとは、構造的な差別を解決するために、被差別的な立場にある人たちを積極的に優遇する施策のことだ。
 しかし大学全体の定員を増やすことは難しい。そのため留学生を積極的に増やそうとすると、自ずと日本人学生が茨城大学に入りづらくなる可能性がある。最終講義に参加した佐川泰弘副学長が「日本人学生を減らしてでも留学生を増やすべきか」と学生たちに質問すると、学生たちは悩む様子を見せつつも、「日本人学生の枠は守るべき」という意見のほうに多く手が挙がった。こうした点はイバダイのこれからを考える上で、難しくも重要な課題になるといえそうだ。

地域を活性化するために

 地域経済と大学の関係に注目したグループもいくつかある。ひとつのグループでは、「大学の資源を活用して県内GDPを上げるにはどうしたら良いか」という問いを立てた。企業で働く人たちが学びやすい環境づくりを考え、さらに水戸キャンパスに近い茨城県立盲学校との連携による障がい者雇用促進や、農業体験と子ども食堂を組み合わせたプログラムなど、多彩なアイディアが提案された。

 また、5つの学部をもつ茨城大学の強みを最大限活かすべき、と主張したグループも。工業・農業いずれもすぐれた資源をもつ茨城大学において、工学部と農学部の連携など、複数学部間で協力した取り組みをもっと進めるべきとして、農学部の学生向けのドローン講習、農村部のリアルな課題を工学部の学生たちに知ってもらうフィールドワークなどのアイディアが出た。それに留まらず、人文社会科学部と教育学部の協力によるコミュニケーションの学習プログラム、教育学部で美術を学ぶ学生と工学部の学生による新しいメディアつくりなど、わくわくするようなコラボ案が出てくる。

 加えて、地域企業で働く人の多様性が高まることが、生産性の向上につながるという視点に言及したグループもあった。そのためには、地域企業における留学生の採用というアプローチも考えられる。そのために、留学生に地域の企業を知ってもらうインターンシップの機会を増やしたり、学内でも交流の機会を増やして留学生も日本学生も一緒にグローバルな視点を養っていくような取り組みが必要であるという意見が複数のグループから挙げられた。

分野をこえた交流で新しい知を

 この「みんなの〈イバダイ学〉」では学部の枠をこえた学生たちによってグループワークが進められた。そのこと自体を新鮮に感じた学生も少なくなかったようで、「いろんな学部の人たちとのディスカッションができる機会をもっと作ってほしい」という声が少なからず聞かれた。その具体的なアプローチとして、あるグループでは、学内のコミュニケーションアプリをつくり、AIによって同じ志向性をもった学生同士のマッチングを促すというアイディアも提案されている。

 また、多様な専門分野の人たちの交流は、新しい知を生み出すきっかけにもなる。文理融合の知のあり方について検討したグループでは、そのような観点の新しい学部をつくった場合のメリット、デメリットを検証。その上で、「4年間で学べることはたかが知れている。むしろそれぞれが専門的な分野を深めながら、協働で問題を解決する場をつくるほうが現実的」と述べ、キャンパス間の移動支援やバーチャルキャンパスシステムの強化といったサポートの必要性に言及した。
 こうした提案に対し、佐川副学長からは、「大学院までを想定して、最初の4年間は思いきり文理融合にして、専門性の高いことは大学院で、ということもあり得る。『時間軸』も考慮すればいろんな学びの仕組みがつくれるよう、国の制度も変わってきている」というコメントも示された。

理想のイバダイとは

 各グループの発表には、他のグループの学生からも積極的な質問やコメントがあり、それぞれのビジョンを共有することができた。今回各グループから提言された「理想のイバダイ」の姿を最後に紹介しておこう。

  • 同じ目的や学習意識をもつ仲間とめぐりあえる大学
  • ひとつの固定概念にとらわれず、さまざまな人々のことを気遣える大学
  • 本当に必要なものにお金と時間を避けて、全員が納得してにこやかに通える大学
  • 国内でも国外でも注目され、レベルの高い人材を輩出する大学
  • 誰にでもやさしい大学
  • 地域の人たちや企業とよい関係がつくれている大学
  • 文理がともに話し合う場所、機会に満ちている大学
  • 学生のアイディアを気軽に提案でき、誰でも参加できる大学

 今回の授業では、単に大学に対する要望を掲げるだけでなく、その理想のイバダイに対して自分たちは何ができるか、ということも考えてもらった。「今の学生はお金も時間もない」という意見もあったが、たとえば外国人の学生や障がいのある学生へのサポートについては、「自分たちで団体を作って新しい環境をつくる」という意気込みを語ってくれた学生たちもいた。
 大学は社会の器だ。法律による制限も多々あるが、基本的には大学のあり方をみんなで考え、それを実現することが求められるのだ。学生たちから示された意見の中には、大学として耳が痛いこともたくさんあり、解決すべき課題にはすぐにでも取り組んでいきたいが、中長期的な視野においても、学生、教職員、地域の人たちが当事者としてかかわって理想的なイバダイへと育てていく場をこれかも増やしていきたいと考えている。

(取材・構成:茨城大学広報室)