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青色EL材料の性能向上につながる新しい有機ホウ素化合物を開発

 茨城大学の吾郷友宏准教授、九州大学の安田琢麿教授、京都大学の時任宣博教授らの研究グループは、酸素原子を導入した有機ホウ素化合物を活用することで、優れた発光効率と色純度を併せ持つ有機EL用の青色蛍光体の開発に成功しました。今回の成果は、ラダー構造と呼ばれる梯子状に縮環した分子骨格にホウ素・酸素原子を埋め込むことが、優れた青色発光特性の発現に重要であることを明らかにしたものです。
 今後は有機EL材料としての実用化を目指したさらなる研究とともに、青色以外の様々な波長域への展開を図り、EL照明を始めとする様々な応用を狙います。 
 この成果は、2019年11月22日付で米国化学会の雑誌ACS Materials Lettersに速報版(オンライン)として掲載されました

>>詳しくはプレスリリースをご覧ください。
【プレスリリース】青色EL材料の性能向上につながる新しい有機ホウ素化合物を開発(PDFファイル)

背景

 有機ELは、軽く、フレキシブルで、輝度、コントラストやエネルギー効率にも優れることから、次世代のフラットパネルディスプレイや照明装置の開発に向け、世界的に活発な研究が行われています。
 有機ELの効率は、発光体となる化合物に注入された電荷を、どれだけ光子に変換できるかによって大きく左右されます。この電荷キャリアから光子への変換効率のことを内部量子効率(IQE)と言いますが、一般的な有機蛍光化合物のIQEは最大でも25%であり、発光効率に限界があることが理論的に知られています。一方、イリジウムや白金などの希少重金属を使ったリン光発光化合物では、理論上100%のIQE達成が可能であるものの、希少重金属調達のコストや環境毒性が実用における障害となります。加えてリン光発光体では、ディスプレイや照明を作る上で必須となる三原色発光のうち、青色発光に関して高効率・長寿命の材料を得ることが困難です。こうした背景から、今後の有機ELの発展に向けては、地球に豊富に存在する環境に優しい元素のみを用いて100%のIQEを達成する青色発光材料が望まれていました。
 そうした中、2012年には、炭素、水素、窒素といったありふれた元素のみを使って、蛍光発光体でありながらIQE100%に達する有機ELが報告されました。このブレークスルー技術は、熱活性化遅延蛍光(TADF)と呼ばれる現象が鍵となっており、この報告以来、TADFを活用した有機ELが活発に研究されています。特に青色のTADF材料に関しては、①色純度向上のための発光の尖鋭化、②高輝度時の発光効率低下(ロールオフ)の抑制、③EL素子の長寿命化、の3つが実用化における課題となっており、これらを解決するための新しい分子デザインが求められています。

研究手法・成果

 研究グループのメンバーはこれまで、「ラダー構造」と呼ばれる梯子状の硬く頑丈な分子骨格に、ホウ素と窒素あるいは硫黄を混ぜて導入することで、青色から赤色に至る幅広い波長において優れた蛍光特性を持つ発光体を開発していました。また、有機ホウ素化合物を電子アクセプター、芳香族アミン類を電子ドナー部位とした「ドナー・アクセプター構造」を用いた、発光効率・色純度の高い青色TADF発光体の開発を報告しています。
 今回、本研究グループでは、ラダー構造を持つ有機ホウ素化合物と芳香族アミンとを連結したドナー・アクセプター型分子である、MCz-BOBOMCz-BSBSという2種類の分子(図1)を合成し、これらのTADF発光体としての特性を調べました。

(図1)開発したラダー型構造を持つ2種類のドナー・アクセプター型分子

 グループのこれまでの知見から、当初は硫黄を含むMCz-BSBSが優れた性能を持つと予想していましたが、実際には、低輝度領域では非常に高い発光効率を示したものの、輝度を上げていくと発光効率の低下が顕著になるという結果でした。一方、MCz-BSBSの硫黄を酸素に換えたMCz-BOBOでは、低輝度領域での最高効率ではMCz-BSBSにやや劣るものの、発光効率は高輝度領域までほとんど低下せず、優れたロールオフ特性を持つことが分かりました。発光色も純粋な青色を示し、その波長幅もドナー・アクセプター型のTADF材料としては狭く、青色EL材料として良好な特性を示しました(図2)。

(図2)(a)ラダー型TADF発光体を使った有機EL素子の発光スペクトル
(b)輝度-EQE曲線とEL素子からの発光の様子

 これは、項間交差に対して逆項間交差や発光が極端に遅いMCz-BSBSに対して、重原子を持たないMCz-BOBOにおいては項間交差・逆項間交差・蛍光放射というTADFに重要な過程の速度が高いレベルでバランスが取れており、電流励起により生成した励起子を効率的にTADF過程に利用することができているためと考えられます。
 今回の研究では、ラダー型構造に複数のホウ素・酸素原子を埋め込んだアクセプター構造を活用したことによって、青色EL材料としての良好な特性が実現したことを、種々の実験・理論化学的検討から明らかにしており、今後のTADF型青色発光体の開発における重要な分子設計指針を与えるものといえます。

今後の展望

 今後は、発光効率や素子寿命のさらなる向上を目指し発光体の分子設計をチューニングするとともに、発光体の合成ルートの短縮や収率向上を測ることで、有機EL材料としての実用化を目指します。さらに、青色以外の様々な波長域への展開を行い、EL照明を始めとする様々な応用を狙います。

論文情報

  • タイトル:Pentacyclic Ladder-Heteraborin Emitters Exhibiting High-Efficiency Blue Thermally Activated Delayed Fluorescence with an Ultrashort Emission Lifetime
  • 著者:Tomohiro Agou, Kyohei Matsuo, Rei Kawano, In Seob Park, Takaaki Hosoya, Hiroki Fukumoto, Toshio Kubota, Yoshiyuki Mizuhata, Norihiro Tokitoh, and Takuma Yasuda
  • 雑誌:ACS Materials Letters
  • 公開日:2019/11/22
  • DOI10.1021/acsmaterialslett.9b00433