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日韓関係の未来へ向けて(後編)―問題の背景と改善への展望

 1023日に開催された「わたしと日韓関係―未来へ向けての意見交換会」。学生たちのスピーチと教員による専門的な見地からの検討、意見交換会を通じて、日韓関係のこれからを考えるイベントとなった。レポート前編では5人の学生たちのスピーチの内容を紹介したが、後編では3人の教員が示した論点と意見交換会の模様を報告する。

国民理性を機能させポピュリズムの克服を

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 教員による論点整理。最初は国際政治学と平和学が専門の蓮井誠一郎教授が登壇した。

 日韓政府の対立は昨年(2015年)のいわゆる徴用工判決が大きな引き金になったとはいえ、2010年頃から旭日旗をめぐるすれ違いがあり、昨今の韓国の不買運動や政府の強硬姿勢、あるいは日本政府による韓国政府に対する諦めや無視のスタンスも、「いずれもネット上の言説がそれぞれの国で影響を持ち始めたことを一因とする感情の問題」と蓮井教授。さらに、日本の安倍政権の対応には、韓国に対する差別的な態度が見られるという。たとえば今年(2019年)815日、韓国の文大統領が日本に対して対話を呼びかける演説を行ったが、安倍政権は反応を示さなかった。「最高権力主体としての国家、国家元首の尊厳に対する最大限の尊重、敬意というものが不十分だった」と蓮井教授は指摘する。

 一方、韓国については、もともと植民地支配をした日本に振り回されることへの強い拒否感があることに加えて、文大統領は最近の施政方針演説でも「強い安全保障」を表明し、軍事予算を大幅に上げるなど、周辺の諸大国を意識したナショナリスティックな傾向を強めている。

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 国際安全保障の一般的な議論でいうと、アメリカを中心(ハブ)とした安全保障のネットワークを考えた場合、その周辺に位置づけられる隣国(スポーク)同士は、構造的に信頼しにくく、対立しやすい関係にあるという。特にアメリカのトランプ政権においては東アジアの安全保障への関心が低い傾向にあるため、アメリカを挟んで間接的に同盟を結んでいる日本と韓国は、有事においてアメリカに「巻き込まれるかも知れない」あるいは「見捨てられるかも知れない」という不安から、牽制しあってしまうということだ。

 とはいえ、「日韓関係は中長期的には改善すると考えられるが、それをいつにするかは国民の理性の問題」と蓮井教授。「本来であれば国民感情をコントロールするのが理性的な国家の役割だが、政府が国民世論や感情を重視するポピュリズムの傾向にあっては、国民理性が機能する必要がある」と指摘し、ポピュリズムの克服に期待を寄せた。

認識の食い違いの原因は戦後処理の失敗に尽きる

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 続いては、日本近現代史が専門の佐々木啓准教授が「歴史問題」の内容と背景を説明。

 両国における「歴史問題」とは、日本の植民地支配や「慰安婦」・労働者の強制連行・労働といった事実をめぐる認識の対立と、戦後の日本による被害者への補償が適切かどうかの妥当性をめぐる対立に整理できる。この二つの対立が、「すでに決着がついたことに対して韓国が文句を言っている」という日本側の意識と、「日本は侵略や植民地支配を反省せず、適切な賠償もしていない」という韓国側の意識につながっている。

 では、このような対立はなぜ生じたのか。佐々木准教授は、「日本近現代史の立場でいえば、日本と韓国の間での戦後処理の"失敗"ということに尽きる」と断言する。
 1965年の日韓基本条約・請求権協定では、韓国併合以前の条約・協定は「もはや無効」とされているが、この「もはや」という表現からは、植民地時代の日本の行為が、当時は合法だったのか、当時の法体系から見ても違法(不当)だったのか、という点が判然としない。加えて、日本が韓国に支払った無償の3億ドルについても、日本は「経済協力金」としているが、韓国は日本から勝ち取った賠償的性格のものと解釈している。すなわち、1965年の協定締結の時点で、日本の植民地支配の責任とそれに伴う賠償問題について、決着はついておらず、事実上「合意」が成立したとは言いがたい状況なのだ。この妥協が後々まで禍根を残しているのである。

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 もっとも、協定に対する反対世論は当時から日本にも韓国にもあった。しかしベトナム戦争の戦費がかさむ中、日韓の早期の合意によりアジアにおける反共陣営の強化を進めたいアメリカ、経済難の解決で自ら軍事クーデターを正当化したい韓国の朴正煕政権、アメリカの傘のもとで朝鮮半島への経済進出をはかりたい日本の佐藤栄作政権というそれぞれの国家の思惑の中で協定は成立したのだ。その結果、反対世論とともに、被害者個人への補償と尊厳の回復という大きな問題は置き去りにされてしまった。

 しかし、その後の韓国における民主化の進展や、世界各地での戦争被害者の補償運動の展開があり、当時結ばれた条約・協定の不十分さが批判されるようになっていった。一方で日本では歴史修正主義が影響力を強め、韓国との歴史認識の懸隔がさらに広がっていくことになった。このような状況ではあるが、解決のためには、「もう一度原因に立ち返り、日本の植民地支配や加害の事実についてあらためて検証し、認識を共有していくところからやっていくしかない。少なくとも市民レベルの交流を続け、がんばっていくことが大事」と佐々木准教授は訴えた。

深刻な人権問題としての解決の先にしか未来はない

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 最後に登壇したのは、国際人権法を専門としている付月准教授だ。付准教授は、日本政府が「解決済み」と主張する徴用工、慰安婦の問題を人権の視点から検証した。

「徴用工や女子勤労挺身隊などの強制動員問題、および慰安婦問題の本質は、紛れもなく人権問題です」と付准教授。裁判では被害者による個人請求権は認められるかが大きな争点になる一方で、最終的には被害者にとって「解決済み」なのかが問われているという。このことを考えるために、徴用工問題をめぐる訴訟について、2018年の韓国大法院判決までの経緯が整理された。そもそも元徴用工らは、韓国での訴訟以前に日本の裁判所で長年争ってきた。いずれも原告敗訴となったものの、付准教授は、①日本の裁判においても、強制連行・強制労働の事実や企業による不法行為が認められていること、②「和解」によって解決が図られた事例は複数あること、③日本政府は2000年代に入ってはじめて「日韓請求権協定によって解決済み」だと主張するようになったものの、現在も個人請求権は残っているとの立場だと考えられること、という3点を注視したいとコメント。これらはいずれもメディアから充分に伝わってこなかった点といえる。

 その後、韓国で行われた裁判において、当初は原告敗訴が続いたが、2012年の大法院判決で差し戻しとなり、再び高裁で審議をして原告が勝訴。大法院における再上告審で2018年に原告勝訴が確定した。大法院判決では、植民支配と直結した不法行為に対する損害賠償請求権は日韓請求権協定の対象外だとして、被告の日本企業に対して損害賠償を命じた。

 この問題について、付准教授は、日本と韓国の国家間の対立構図で捉えるのではなく、「被害者の視点に立って、個人対国家の問題として捉える。つまり、人権侵害の救済をするために両国でそれぞれ、あるいは両国間でできることを模索することが重要なのではないか」と語る。

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 そこで強制労働に対する補償を検討する上での参考として、ドイツの事例が紹介された。ドイツでは、ナチス政権下での元強制労働者たちによるドイツ企業を相手取った訴訟が社会運動へ発展し、1999年、社会民主党・緑の党の連立政権下において「ドイツ経済の基金イニシアティブ『記憶・責任・未来』」の設立が合意され、翌年連邦議会で可決された。その時点で企業側もナチスの政策に参加したという歴史的責任を認め、半分を出資。5000もの企業が出資に参加しているという。背景には、戦争被害者への救済の姿勢が企業の社会的評価にかかわるというドイツの状況があるといえよう。

 付准教授は、「徴用工問題についても慰安婦問題についても、いずれも深刻な人権問題であり、早急に、なおかつ必ず解決されなければならない。その解決の先にしか未来はない」と語気を強めた。

「友達」をつくること―認識を変える第一歩に

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 3人の教員による論点整理のあとは、来場者との意見交換会の時間が設けられた。最初に手を挙げて発言してくれたのは、制服姿の高校生だ。「自分も含めて日韓関係について知識をもたない若者が多いと思うが、そういう若者が考えるきっかけをつくったり、それを広めたりするにはどんなことをすればいいでしょうか」と質問してくれた。答えたのは、韓国人留学生のオ・スンソクさん。「韓国人はこう、日本人はこう、と、メディアが発信する情報だけを信じ続けるのは気の毒だと思う。私自身、その思いで留学をし、日本人と触れ合って、さらにもっと話をしたいなと思ってイベントなどにも参加し、認識が変わった」と自らの経験を述べ、日本人と韓国人が直接交流する場を増やすことを提案した。
 また、20代の男性は、「背景についてはある程度理解できたが、それに対して日本政府はどう対応するべきか、具体的な対応策について知りたい」と発言。蓮井教授は、「大きく分けて2つあると考える。ひとつは、韓国をいわゆるホワイト国から外した問題については、日本政府の意図が韓国に拡大解釈されている面があるので、あくまで輸出管理の条件だということを伝え、韓国の管理ができれば再びホワイト国に戻すことをやっていく必要があるだろう。もうひとつは、徴用工問題、GSOMIA、ホワイト国といった個別の問題を切り離すこと。今は感情的な対立の中でいろんな問題がひとつの塊になってしまっていて、解きほぐすことが難しくなっている」と回答した。

 最後に、アジア経済論が専門で、今回のイベントの進行を務めた長田華子准教授がコメント。「大変実りの多いイベントになった。今回、高校生を含めて若い人たちがたくさん来てくれて嬉しい」と来場者に謝意を示した上で、「私自身、高校生のときに中国へ行くプログラムに参加し、そこで中国の女子高校生といろんな話をしました。その後、私の心の中では『中国に友人がいる』という思いがずっとあり、それが私自身のアジア認識の基盤になっていました」と自らのエピソードを紹介。「市民の交流、つまり『友達がいる』ということが重要だということ。それは個々の友達でなくても、たとえばK-POPでもコスメでもいい。そうした隣国との心のつながりが何かしらあれば、なぜこんなに関係が悪いんだろうという疑問が浮かびます。そういうことを、海外へ行かずとも、こういう場で経験してもらえるといいな、という思いです」と語った。

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 日韓政府が対立しているときこそ、市民同士が交流し、相互の理解を深めること。さまざまなバックグラウンドをもった若い学生たちの熱いスピーチは、より年長の世代にも対話を促す力がある。地域の大学として、これからもそうした場を積極的につくっていきたい。

(取材・構成:茨城大学広報室)

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