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タンパク質中の弱い相互作用の効果の定量的評価に成功

 茨城大学大学院理工学研究科の高妻 孝光 教授、アティラ・タボロシ 研究員、山口 峻英 助教らの研究グループは、さまざまな生命現象の解明や医薬品の薬剤分子設計に重要となる、タンパク質中の非共有結合性の弱い相互作用の効果について、量子化学計算を用いて定量的に評価することに成功しました。
 具体的には、タンパク質中の弱い相互作用を効率的に理解するために設計された、配位子間相互作用をもつモデル錯体の量子化学計算を行い、モデル中のπ-π相互作用、金属-π相互作用、CH-π相互作用の様式と構造を明らかにし、さらに、これらの相互作用によって錯体の安定化効果が再現されることを定量的に示しました。
 本研究のような基礎研究により弱い相互作用の化学的理解が進むことで、医薬品等の効果的・効率的設計に貢献することが期待されます。また、アミノ酸間のCH-π相互作用の定量的評価を行ったことで、中性子回折実験等による水素原子を含むタンパク質構造解析の重要性が一層強調されました。
 この成果は、日本化学会の国際学術雑誌であるBulletin of the Chemical Society of Japanに11月1日に掲載されました。

背景

 タンパク質分子は、10000個以上の原子の強固な共有結合を骨格としますが、同時に非共有結合性の弱い化学的相互作用も集積しており、それらは様々な生命現象の調節を行う重要な因子です。また医薬品は、弱い化学的相互作用を通して薬剤分子がタンパク質に認識されることで、効果を発揮しています。そのため、タンパク質における弱い化学的相互作用の理解が、生命現象の解明や、安全で有効な医薬品の効率的設計・開発の鍵となります。しかし、10000個以上の原子からなる巨大なタンパク質分子の中から、特定の弱い化学的相互作用に注目してその効果を明らかにすることは困難です。そこで、タンパク質中の弱い化学的相互作用を組み込んだモデル錯体による先導的研究がこれまで行われてきました。今回、研究グループは、アミノ酸側鎖間相互作用を組み込んだモデル錯体の量子化学計算を行ったことで、弱い化学的相互作用を可視化してその詳細を明らかにすることに成功しました。

研究手法・成果

 タンパク質分子にみられるアミノ酸側鎖間の弱い化学的相互作用について解明するために、図1のような計算モデル[Cu(hista)(Phe)ClO4]を作製し、量子化学計算を行いました。図2のモデル錯体構造の中に見える緑色の曲面が、量子化学計算によって可視化された、弱い相互作用の生じている位置です。[Cu(hista)(Phe)ClO4]では、フェニルアラニン(Phe)、ヒスタミン(hista)、銅イオン(Cu2+)の間にπ−π相互作用、金属−π相互作用、CH−π相互作用が生じていることが判明しました。計算モデル中のフェニルアラニン側鎖を、タンパク質の中に含まれる芳香族側鎖基のチロシン(Tyr)、トリプトファン(Trp)、脂肪族側鎖基のバリン(Val)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、アラニン(Ala)や、硫黄原子を含むメチオニン(Met)に置き換えて計算したところ、分子内に生じる弱い化学的相互作用の様式や構造の微妙な違いによって、錯体の安定化効果が定量的に再現されることがわかりました。このことは、弱い化学的相互作用による精密な物性制御を用いることで、錯体やタンパク質に限らない様々な化学物質の機能・性能が調節可能であることを示しています。

今後の展望

 本研究によって、アミノ酸側鎖間の弱い化学的相互作用の因子を特徴づけ、定量的に評価することに成功しました。CH−π相互作用のような、水素原子とπ電子を持つアミノ酸側鎖の相互作用をモデル錯体の配位子間に見出したことで、中性子結晶構造解析によるタンパク質中の水素原子の観測の重要性がより一層強調されました。今後、このような研究を基盤としてタンパク質における弱い化学的相互作用の理解が進み、精密な医薬品設計等につながることが期待されます。

論文情報

  • タイトル:The Role for the Weak Interaction on the Stabilization of Copper-containing Complex: DFT Investigation of Noncovalent Interactions in ternary-Cu(II)(DA)(AA) Complexes (DA = diamine and AA = amino acids) as a Model of Metalloprotein
  • 著者:Attila Taborosi, Takahide Yamaguchi, Akira Odani, Osamu Yamauchi, Takamitsu Kohzuma*
  • 雑誌:Bulletin of the Chemical Society of Japan
  • 公開日:2019年11月1日
  • DOI:10.1246/bcsj.20190197