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高大接続シンポジウム「主体性とは何か、大学入試でどのように測るか」
-本質的な議論が高校・大学の教育にもたらすもの

「主体性とは何か」というのは、近代以降の哲学者の頭を悩ませ続けてきた類のきわめて難しいテーマだ。その「主体性」を大学入試で測るというのは大きなチャレンジかもしれないが、それゆえに「教育とは何か」「高校、大学でどんな学びをすべきか」という本質的な議論を喚起する――8月5日に行われた、「主体性とは何か、大学入試でどのように測るか」をテーマに掲げた茨城大学の第3回高大接続シンポジウムは、まさにそうしたことを深く考えさせる内容だった。

 2021年度入試(2020年度に実施)からは、大学入試センター試験にかわる「大学入学共通テスト」の実施、民間の英語資格・検定試験を活用した英語4技能評価の導入とともに、「学力の3要素」といわれる①知識・技能、②思考力・判断力・表現力、③主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度 を多面的・総合的に評価することが求められている。茨城大学でも入試方法については随時公表している(「2021年度からの入試について」)が、詳細については引き続き高校関係者などとも意見交換しながら検討を重ねていくこととしている。

 今回のシンポジウムでまず登壇したのは、東北大学高度教養教育・学生支援機構の倉元直樹教授だ。教育心理学をベースとする倉元氏の専門はまさに"テスト学"で、30年近く大学入試の研究を続けてきた専門家であり、東北大学の入試設計にもずっと関わっている。

 その倉元氏がはっきりと述べたのは、主体性には領域固有性がある、ということ。簡単にいうと、たとえば学習と部活の内発的な動機づけは異なるものなのであり、したがって何に対する主体性を測るのかを明確にする必要があるということだ。さらに、主体的な学習活動のプロセスは当然内面的なものであるから、それを測るとすれば、学習が進む中での自己内省の段階を可視化するという意味での、本人の自己評価が重要とのこと。

 一点目の領域固有性についていえば、学業成績と学習領域の動機づけは相関があるため、大学として測りたい「主体性」は、実は学力検査等の成績に相当程度現れるのではないか、というのが倉元氏の考えだ。そこから東北大学では、通常の学力検査を行った上で、点数の差がつかない場合の合否を判断するための補助資料として、受験生自身が高校時代の努力などを申告する5項目のチェックリストとその根拠資料として学校がつくった調査書を活用することにしたという。ここには、「日々まっとうに過ごしている高校生には新たな負担をかけることなく、自らの生活を振り返りながら気持ちよくチェックできるような学生生活を送ってきてほしい」という同大のメッセージが込められている。

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 次に登壇したのは、茨城県教育庁学校教育部高校教育課指導主事の平尾智靖氏だ。理科教育を専門とする平尾氏は、現在、茨城県が進める「未来の科学者育成プロジェクト事業」などを手がけている。2022年度から年次進行で実施される高等学校の新しい学習指導要領では、これまでの「総合的な学習の時間」に替えて、「総合的な探究の時間」が導入される。これは、自己のあり方、生き方と不可分なものとして社会課題を発見し、よりよく解決をしていくというもので、高等学校の活動の中で高度化、自律化が求められることになるという。平尾氏は、その先例にもなり得るような、県内のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)などでの具体的な取り組みを紹介した。

 後半はパネルディスカッション。倉元氏、平尾氏に加えて、元高校教員でもある茨城大学全学教職センターの菊地利幸教授と茨城県立守谷高等学校の北澤佑子教諭が登壇し、ファシリテーターを折山剛茨城大学副学長・アドミッションセンター長が務めた。

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 大学入試での主体性の評価と、高等学校における「探究」の導入は、高大接続改革として一体的に進められているが、倉元氏は、「高等学校での探究活動は、入試で測ろうとする『主体性』とは、直接結びつかないのではないか」という見解を示しつつ、「一方で探究活動の経験が高校生たちの学習意欲を高め、その結果が学力検査にもあらわれる、と語る高校教員もいる」として、探究活動の意義には賛意を示した。その上で、「高校までの生活がいくら楽しくても、それが大学の研究活動のベースにつながらなければ、主体性評価の意味もなくなってしまう。この部分はぜひ高校で育ててほしい」と述べた。

 他方で、学習への主体性や動機づけについては、すべてが学校の教育課程で意図的に育まれるわけではなく、周囲の大人や家庭環境などが大きく関わるといえる。北澤氏は、自らの10代を振り返り、その生きる姿勢の原点が、難病を抱えた家族の存在にあったと明かした。その上で、現在高校教諭を務める立場となり、「自分自身が人とのつながりの中で真摯に生きているか、物事の本質を見極めようとしているか、などを背中で伝えることができるよう意識して生徒と向き合っている」と述べた。その姿勢は徹底しており、この秋には第61次南極地域観測隊の一員として、南極からライブ授業を行う予定だそうだ。

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 このようにして、自ら探究心をもった教師が生徒たちの主体的な学習意欲を引き出す面は大きいだろう。しかし、それを「入試で測る」ことの難しさが改めて浮かび上がる。

 そのツールのひとつとして注目されるのが、生徒たちが日々の学習の達成状況を記録していく「ポートフォリオ」だ。菊地教授も、「SSHや専門高校などは日常的にやっていることをポートフォリオに記載するだけでも十分に主体性をアピールできるのではないか」として、活動のプロセスを捉えるポートフォリオの可能性に期待する。これに対し、倉元氏からは、ポートフォリオ評価を導入しているアメリカの入試制度について過去に調査した実感として、「毎日の生活が評価で縛られ、子どもたちと教員の負担が大きい」という慎重な意見が示されたが、折山副学長は、「日本の子どもたちは自己肯定感が低いといわれるが、ポートフォリオは日々の小さな達成感を実感することで自己肯定感を高める教育的なツールでもある」、また「高校時代の努力の積み重ねも積極的に評価することで、大学に入ってからの研究意欲につなげていきたい」として、本学の入試におけるポートフォリオの導入可能性に積極的な姿勢を示した。

 いずれにせよ、茨城大学も東北大学も、「高校生には高校生らしい生活を全うしてほしい。そのためにも、入試改革によって高校生に新たな負担を増やさないようにしたい」というスタンスは変わらない。折山副学長は、「入試は、大学から高校生に対するそうしたメッセージを表すもの」と語る。また、倉元氏は、「その意味でも、複数の志願先を検討せざるを得ない高校生や、あるいは社会人なども含めた年長の受験生のことを考えると、大学によって評価指標や様式が無数に存在することは望ましくない」と述べ、大学間での継続的な情報交換と評価基準の統一の重要性を指摘した。

 パネルディスカッションを閉じるにあたり、ファシリテーターの折山副学長は、「『主体性評価』というものは、文科省主導で進められている面はあるが、こうした議論を継続していくことで、高校教育も大学教育もよいものにしていきたい」と決意を述べた。

 冒頭で述べたように、「主体性とは何か」また「主体性を大学入試でどう測るか」というのは難しい課題である。しかし、だからこそ大学間や大学・高校との間の、教育や入試をめぐる本質的で活発な議論が進みつつある。よりよい教育の未来に向けて、大学の主体性も大きく問われているといえるだろう。

(取材・構成:茨城大学広報室)