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人々の行動を導く科学的な政策でジェンダー問題を解決
―人文社会科学部経済政策論ゼミと水戸市のチャレンジ

 勘や経験ではなく、科学的な手法で有効な政策をつくろう――近年、「エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング(EBPM)」に注目が集まっています。これは、ビッグデータや実験で得られた結果などの信頼できる根拠(エビデンス)をもとに政策をつくるという考え方で、学術的なデータ分析はもちろん、心理学などの行動科学の知見も活かしながら、科学的に政策の有効性や効率性を高めていくアプローチです。海外の行政機関ではEBPMのための専門部署が設置される例も増えており、日本でもさまざまな試みが始まっています。

 そうした中、水戸市男女平等参画課では「水戸市男女平等参画推進基本計画(第3)」の策定にあたって、EBPMをより一層重視してジェンダー問題を解決していくことを宣言。日本国内の自治体としてはかなり早いといえるこの取り組みについて、茨城大学人文社会科学部の経済政策論ゼミ(担当:後藤玲子教授)と連携することになりました。

 ゼミの学生たちにとっても、EBPMを使って政策を考えることは初めての経験です。そこでゼミでは、この春より関連の文献を読んで議論をしながら、EBPMの考え方や具体的な手法、これまでジェンダー分野で示されている実証実験のデータなどを学び、理解を深めていきました。

 そして729日、水戸市の職員の方々を招いたグループワークを開き、3年生の学生たちがEBPMの考え方を使った政策のプレゼンテーションを行うことになりました。どんな提案をしたのでしょうか。

 

まず現状の課題を明らかにするために、昨年度実施された「水戸市男女平等参画に関する市民調査」から得られたデータの分析結果を紹介。男性と比べて女性の就業率が約10ポイントも低いことや、管理職になっている女性の割合が男性より低いことを、水戸市の女性就労をめぐる市の問題として示しました。そしてその原因を示すデータとして、ライフイベントによる離職経験の男女差、育児休業制度を利用している男性の少なさ、特に子育て世代で大きい夫婦の家事・育児分担度合いの差を紹介。さらに女性の継続就業を前面肯定しない意見が5割程度存在したという結果から、根底に伝統的男女別役割分担意識があると考察しました。そこでゼミのメンバーたちは、今回の政策提案の目的を、「『男性は外で働き女性は家庭を守る』という固定観念からの脱却」として、個人向けと会社などの事業所向けの2方向の政策を考えたということです。

 今回の政策提案にあたって学生たちは、人々の無意識のバイアスを可視化したり物理的に取り除いたりするデザインにより、その人たちの望ましい行動を促すという「行動デザイン」の考え方や事例を学びました。

 たとえばあるオーケストラにおいては、演奏家のオーディションを行う際、審査員と候補者との間を1枚のカーテンで挟み、候補者の性別や容姿がわからないようにしたところ、それまで約5%だった女性の割合が、一気に35%にまで引き上がったそうです。

 

そして実際に考えた個人向け施策案のひとつが、「バイアスの自覚により、男性の家庭参画を促す」というもの。実は水戸市の調査からは、女性の就労継続に肯定的な男性と否定的な男性との間で、家事・育児・介護分担度に大きな差が見られないという結果が得られました。つまり、単純に"意識が高い"だけでは必ずしも行動にはつながらないのです。

 そこで学生たちが考えたのが、この意識と行動とのギャップを可視化する、夫婦対象のワークショップです。家事や働き方に関するアンケートをそれぞれに行った上で、家事の分担度を図などで視覚的に示し、パートナー同士で話し合うというもの。その上で啓発の講演会を行えば、研修の効果がより高まると考えました。

 また、事業所向けの施策としては、働く人が週に1回「家事育児DAY」を決め、その日は普段より早く退勤でき、地域でもさまざまな特典が受けられるというアイディアが提案されました。そのような取り組みには事業所側の積極性が不可欠となりますが、提案では、「『得をする』という意識より『損をしたくない』という意識のほうが行動を引き出す」という行動科学の実証データを利用して、当該年度限定で制度導入の費用を市が負担するという普及策も示しました。

 

プレゼンテーションのあとは、学生たちと水戸市職員、一般市民などが一緒のテーブルで政策案を検討するグループワーク。6つのグループに分かれ、プレゼンテーションに臨んだ3年生が各グループのファシリテーションを務めます。検討の切り口や時間配分も、学生が自ら考え、進行していきます。どのテーブルでも、模造紙と付箋を駆使しながら活発なディスカッションが展開されていました。

 特に水戸市の職員が重視するのは、学生が提案した政策の現実性。どうしたら協力者を得られるか、有効性を知るための実験をどのように可能にするか、といった視点が示され、検討が進んでいきます。

 30分間の予定時間があっという間に過ぎ、各グループが模造紙をもって議論の内容を報告します。

 

こちらのグループは、事業所向けの「家事育児DAY」について検討。「この施策で重要なのは、早く帰れる『家事育児DAY』に、実際にどれぐらいの人が家事・育児をするかということ」と指摘しました。

 その上で、たとえば帰宅後の行動を写真で報告するなどの可視化策を採り入れたり、その結果を人事評価上のメリットにつなげたりするなど、自らの行動をフィードバックする機会をつくることで、「家事育児DAY」が有効に使われるのではないかと提案しました。まさに「行動デザイン」の観点に立ったアイディアといえます。

 

また、夫婦対象のワークショップという提案について件等したこちらのグループでは、家事について女性から指示されるのを男性は嫌がる傾向があり、そのことでパートナー間の家事負担について話しづらくなってしまうことから、可視化には工夫が必要との認識を示しました。その上で、「男性側が家事の細かい点や全体像を理解していない場合があるので、そうした細かい家事をリスト化するだけでも、男性自身が気づくことがあるはず」というアイディアを紹介しました。

 

有意義な議論が展開され、参加者の満足度の高さもうかがえた今回のグループワーク。熱心に取り組んできた経済政策論ゼミには、水戸市男女平等政策課から表彰状がサプライズで手渡されました。これには学生たちも大喜び!

 男女平等政策課の石塚美也課長は、「EBPMは私たちにとっても大きなチャレンジで、大学のみなさんとの協力はこれからも必要となると思います。今日のグループワークはとても勉強になるものでしたし、みなさんの提案や議論の成果を実際の政策にぜひ活かしていきたいです」と語りました。これからの展開が大いに期待されます。

(取材・構成:茨城大学広報室)