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「毎日子どもの言動に感動できる」柴原宏一・茨城県教育長が語った教師の仕事

 日本の教師は他の国と比べて長時間労働――そうした報道に触れたり、教育実習などで教師の仕事を間近で見たりする中で、教員志望でありながら大きな不安を抱える学生は少なくない。その不安、いっそのこと県の教育長に率直にぶつけてみては......ということで、724日、茨城県教育委員会の柴原宏一教育長を招いたトークイベントを全学教職センターが開いた。テーマは「学生と語る教師の魅力」。柴原教育長は何を語り、学生はどんな質問をしたのだろうか。

 柴原教育長の教育のキャリアは、高校の生物の教員から始まった。その後教育委員会(行政)と学校とを行き来して、日立北高で校長を勤めたあと、県の教育次長として定年を迎えた。その後は茨城大学でも教鞭をとっていたが、2017年に県教育長に任命されて今に至る。

「今日は『教育長』という肩書きではなく、かつて教員をしていた個人として率直な話をしたいと思っています」と話を切り出した柴原教育長。その言葉のとおり、約1時間に及ぶ講演の内容は、自身の教師としての体験を語るもので、生徒たちの姿を通して成長していく一教師の物語は、学生たちを含め参加者の心に響くものだった。

 柴原教育長の子どもの頃の夢は「パイロット」だったという。その後、人の「記憶」のメカニズムに興味をもち、研究者になろうと東北大学の理学部に入学。大学院進学も目指したが、自身の性格を「人付き合いが苦手」と分析する中で、あえて人と接する仕事に就こうと考え、教員になることにした。

「『自分にはどんな仕事が向いているんだろう』と悩む人は多いと思うけれど、実際は45年ぐらい仕事をやってみないとわからない。私も教師になった以上、一生懸命がんばった。そうやってがんばっていると、たいてい向いてくるものです」(柴原教育長)

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 とはいえ、案の上最初は苦労した。大変だったのは生徒指導。それでも懸命に取り組み、3年目に初めての卒業生を送り出したときは、卒業証書を渡しながら生徒たちの前で涙した。ところがその直後、「シバちゃんも私たちのことを思ってくれていたんだね」という卒業生たちの話し声を偶然耳にすることになり、自身の生徒への接し方、考え方が独りよがりだったことに気づかされる。「これが成長するきっかけになりました。生徒たちには本当に感謝しています」。

 柴原教育長は、「生徒は可能性のかたまり。その可能性を引っ張っていくことが教師の仕事」と、その後の長い教師生活の中でずっと感じ、信念のように抱いているそうだ。講演では、大きな夢を語ったある生徒に対して、「現実を見なさい」と指導し続けたものの、その生徒が何年もかけて自らその夢を切り拓いていく中で、自らの接し方について反省したというエピソードも紹介された。「授業だけではなく、生徒との関わりすべてが大切。必死に生きている子どもたちに、教師は本音でぶつかっているだろうか」という問いかけが胸に刺さる。

 本音でぶつかる――日立北高の校長になったときは、毎日のようにブログで思いを発信した。あるときは校内の銀杏の並木道に落ち葉が落ちていない様子を見て、野球部のマネージャーの人知れぬ落ち葉掃きに触れる。「些細なことでも見てもらえていることが、生徒たちの安心感につながるんですね」。また、家庭の厳しい状況を抱えながら日立北高で必死に勉強に取り組み、そのときに本気で接してくれた高校の先生たちに恩返しをするように、現在大学で教員をしている――そんな男性のエピソードも披露され、目をうるませて聞いている参加者も少なくなかった。

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 そのような体験を踏まえて、柴原教育長が考える教師の魅力とは――それは、「毎日子どもの言動に感動できること」と「生徒によって自分が成長できること」だという。

「大変ではない仕事なんてない。その中で教員の仕事は、子どもたちが与えてくれる小さな感動が毎日のモチベーションになる。ぜひ教員になってほしい」。柴原教育長は、学生たちにそう語りかけた。

◆ ◆ ◆

 後半は学生とのフリートークセッション。限られた時間だったが、学生たちからは疑問や不安が率直に語られた。

Q. 自分はつい頑張りすぎてしまうタイプ。教師になっても頑張りすぎてしまうのではないかと不安。教師の仕事の中で、どのように線引きをしていけばいいでしょうか。

A. とても大事な質問ですね。国際調査では、日本の教員は労働時間が長くても、「仕事を楽しんでいる」と答えている教員の割合が多いんです。仕事がおもしろくてやってしまうんですね。自分もまさにそうでした。
 そういう状況に対し、「本人が熱心なのだからそれで良いのではないか?」という人もいるが、それは違います。家族との時間を犠牲にしているかも知れないし、同僚にもプレッシャーを与えてしまう。また、授業の準備や自己研鑽にかける時間もなくなってしまう。
 頑張ることは大事ですが、自分で仕事の優先づけをして、仕事のボーダーを適切に判断することが必要です。そういう優先づけを個人ではなく学校単位で共有するところも出てきています。教員の勤務時間についてはこれから大きく変わっていくと思いますね。

shibahara4.jpgQ. 学生の間にやっておくべきこと、心がけておくべきことは?

A. ぜひ教員の仕事とは関係ない体験をしたり、さまざまな人と交流したりしてください。私は30代後半の頃、週末は教員仲間とは会わないことにして、いろんな業種の人たちと会ったり、経済の講演会に行ったりしていて、それが役に立ちました。教員の世界しか知らないと、立ち行かなくなってしまう場面があります。自分の生活が崩れてはいけませんが、ぜひ教員の仕事とは関係ないボランティアや旅行などで世界を広げてほしいです。

Q. 約2ヶ月間の教育実習をしたが、この程度の経験でいきなり教壇に立ち、学級経営ができるか不安。この仕組みはどうしようもないのでしょうか。

A. 教師というのは、他の企業などと違って、新人も定年間近の人も、担任であれば同じような責任や役割が求められる仕事です。「こんな不安な状態で教師になってもいいのだろうか」というのは、本当に真面目な悩みですが、私たちは、「最初はできなくて当たり前」と考えて教員採用に臨んでいます。私は「即戦力」という言葉が好きではありません。4年ぐらい研修する中で伸びていけばいいのです。
 教師は自分ひとりで責任を抱えがちなのですが、ぜひ相談し、不安も「本音」として発信する教師になってください。今は1クラス1担任という固定担任制ではなく、複数担任制も広がりつつあります。時代は確実に変わろうとしています。

(取材・構成:茨城大学広報室)