1. ホーム
  2. NEWS
  3. 教育・正保春彦教授に聞く!かかわる・理解する・表現するグループワーク

教育・正保春彦教授に聞く!かかわる・理解する・表現するグループワーク

 大学院教育学研究科の正保春彦教授(臨床心理学)による新著書『心を育てるグループワーク 楽しく学べる72のワーク』が、このほど金子書房から出版された。学校で実践できる72のグループワークを具体的に紹介するとともに、その理論的な背景や教授自身による実践の記録もしっかり収録されており、体系的かつ実践的にグループワークを学べる1冊だ。教育学部で書名と同じ「心を育てるグループワーク」という教職科目も担当している正保教授に話を聞いた。

―多様なグループワークの方法についてイラストやコピーして使えるワークシートなどもついており、実践にすぐに役に立ちそうですね。一方、グループワークの意義や理論、実践の上でのリスクや心構えについてもかなり強調されている点が印象に残りました。

正保「単にこういうワークがありますという紹介ではなく、人とかかわるということ、子供たちを育てるというのはどういうことかという基本的なことを書いたつもりです。
 また、理論だけの本、ワークだけの本、あるいは理論+ワークの本というのはありましたが、実際にそれらのワークを実践した記録も載せた本というのはこれまであまりなかったと思いますね」

―中学や高校、特別支援学校で実際に正保先生がかかわった実践の記録ですよね。失敗談も書いてあり、リアリティがあります。

正保「ワーク集だと良いことばかり書いてあることが多いのですが、やってみるとそううまくいかないこともあるわけですね。今回の実践の事例集では、私自身がこうやってみたけれど反応がいまいちだったとか、予想と違うことが生じてしまったとか、そういうことも書いていますので、現場の先生にしてみれば、"大学の先生がやってもそんなもんなんだ""失敗してもいいからまずはやってみよう"という形で、挑戦のハードルが下がるのではないかという思いもあります」

―たとえばどんなワークがあるでしょうか。

正保「先日学部1年生の基盤科目では、『数字合わせ』というワークをやりました。これはまず1~50の数字を書いたカードから1人1枚ずつ配ります。自分のカードの数字はほかの人に見せてはいけない。その上で私が、1はとても小さなアリ、50は大きなゾウと示して、それぞれの学生には自分の数字の大きさに応じた動物を思い浮かべてもらいます。あとは周りの人たちに1対1で声をかけてそれぞれの動物の名前を紹介しあって、自分と数字が近いパートナーを見つけていく、というものです。感受性を高めてかかわりあいながら、自分と他者のイメージの世界の違いを理解するワークですね」

学部1年生の基盤科目でのグループワーク「数字合わせ」の様子
学部1年生の基盤科目でのグループワーク「数字合わせ」の様子

―楽しそうですね。そうした多様なグループワークについて、「かかわる」「理解する」「表現する」という3つの観点で整理されています。今の子どもたちや教師たちの現状をどのように見ていますか?

正保「子どもたちの人間関係の力がだんだん下がってきていて、さらに発達障害のような人間関係に関する基本的な能力に困難を抱える子どもたちも増えてきています。さらに、そこにかかわる先生たちについても、世代間伝達がうまくいかないなどノウハウが減ってきていて、手をこまねているところがあるように思います。加えて今は学校が忙しくなっており、かつてはロングホームルームなど子どもたちがかかわりあう活動が自然にできていたのが、そうでなくなってきている。準備をする時間がないとか、何をしたらよいかわからないとか、そういうときにぜひこの本を活用してもらえればと思いますね」

―グループワークのような実践をどう捉え、取り組んでいくかは、教員や学校の意識によって違いは大きそうですね。

正保「そうですね。ネタを覚えて授業の負担を軽減したいという先生もいれば、それを用いてどう子どもを変えていくか、育てていくかというレベルの人もいます。あるいは、それを体系として学んで自分の力にしていきたいという先生もいるかと思います」

―体系という点では、相当かなり多くのグループワークの事例や考え方を射程にして整理しなおしていますね。苦労もあったのでは?

正保「当初の計画よりだいぶ時間がかかってしまいました(笑)。特にこだわったのが、従来学校の世界でグループワークの主流となっていた構成的グループ・エンカウンター(SGE)について、時代にそぐわなくなっている点を指摘した上で、ほかのメソッドとともに最新の理論を改めて体系的に提示したことです。これまで構成的グループ・エンカウンターの先に代わるものが明確に示されていませんでしたから」

shoubo3.jpg

―新しい学習指導要領に移る中で、学校現場には、すべての授業を「アクティブ・ラーニング」にしなければ...というプレッシャーも少なからずあるのではないでしょうか。その点、今回の本では、先生自身の経験をベースに、1年間で10時間程度グループワークに取り組むだけでも相当の効果があらわれる、と指摘していますね。

正保「ええ。中学校と高校の年間総授業時数は約1000時間なのですが、10時間ということはその100分の1ということですよね。しかしそれだけでも、投げ込むことでそこから化学反応が生じるように全体が変わっていくことがあるわけです。
 そうした変化は、グループワークの時間の中で完結したものとしてというより、子どもたちの生活をトータルで見て、その中でどう活かされていくか、というふうに評価していくことが大事ですね。本には書きませんでしたが、私が高校の非常勤講師として毎週グループワークを担当していたころ、1年間の授業が終わったあとにひとりひとりにインタビューをしたら、授業の成果として"生活の変化"を挙げる子どもが多かったんです。それが端的にあらわれたのは、バイト先での変化です。たとえば店長からほめられるようになった、パートのおばちゃんに「成長したね」と言われた、コンビニでお客さんと会話ができるようになった、とか、そうした場面です」

―なるほど。そういう経験があると、学校での学びと外での経験が結びつくポジティブな実感をもてそうですね。大学でも実践できる可能性がありそうです。

正保「充分に導入し得ると思いますよ。茨城大学の教育の特色づくりになるかも知れませんね。ただ、残念ながら茨城大学には、そうした活動に適した教室が少ないように思います。だだっ広いカーペットの部屋とか、折りたためる机の教室とか、そういう空間がもっとあるといいですね」

shoubo4.jpg

書籍情報

  • タイトル:『心を育てるグループワーク 楽しく学べる72のワーク』
  • 著者:正保春彦
  • 出版社:金子書房
  • 価格:2,600円+税

(取材・構成:茨城大学広報室)