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「みんなの<イバダイ学>シンポジウム」見どころ一挙解説

 大学のミッションや茨城大学の将来について考える「みんなの"イバダイ学"シンポジウム」が、12月22日(土)、水戸キャンパスの人文社会科学部講義棟で開かれる。開催が近づき、シンポジウムの詳細も決まってきた。

「みんなの"イバダイ学"シンポジウム」とは?

 茨城大学は来年(2019年)5月に創立70周年を迎えるにあたり、さまざまな記念事業に取り組んでいるが、そのひとつが「みんなの"イバダイ学"プロジェクト」だ。

 これは、大学を取り巻く状況や社会からの期待の内容が日々刻々と変化する中、今一度「大学とは何か?」「茨城大学はどこへ向かうべきか?」という本質に立ち返り、まさに「学問」のように考え、みんなで議論をしようというもの。そのメインイベントが今回のシンポジウムとなる。

 シンポジウムに向けて、現在茨城大学の15人のメンバーで構成しているプロジェクトチームでは、みんなで大学について考えるための根源的な「問い」を5つ設定した。後ほど紹介するとおり、いずれも簡単には答えが出ない問いだ。シンポジウムではこの問いをめぐる議論を行い、後日その内容をベースに、イバダイ学の「仮説」=今現在の将来ビジョンを組み立てていく。なかなか重要な使命を帯びているのだ。

オックスフォード大学から苅谷剛彦氏を招いて

 第一部は特別講演。今回は、イギリスのオックスフォード大学で教鞭をとっている、社会学者の苅谷剛彦氏をお招きした。

 オックスフォード大学といえば、世界大学ランキングのトップの常連でもある名門大学だが、そこに身を置く苅谷氏は、『オックスフォードからの警鐘―グローバル化時代の大学論』などの著書で、日本の大学のあり方についても示唆に富んだ提言をしている。

 その苅谷氏の今回の講演のテーマは、「大学と学ぶということ―エセ(忖度する)『主体性』に絡みとられないために」というもの。刺激的なタイトルだ。日本の大学は、今一様に学生たちに「主体的な学び」「アクティブ・ラーニング」を促していながら、その呼び声は、国の教育改革の政策言語の焼き直しにしか見えないところがある。では、「主体性」とは本来何か。大学はどういう学びをする場なのか。エセ「主体性」に絡めとられない"知的なタフネス"をもつことを呼びかける苅谷氏のメッセージに、真摯に耳を傾けたい。

5つの問いをめぐるグループディスカッション

 苅谷氏の講演で刺激を受けたあとは、グループにわかれてのディスカッションになる。

 グループは、教職員チームが考えた「イバダイ学を考える問い」ごとに分かれている。その問いとは、「残る『知』とは何か?」「大学における『学び』とは何なのか?:過去・現在:未来」「いばらきのイノベーションと雇用:大学は何ができる?」「グローバル化ってしなきゃいけないんですか?」「地域空間と大学―キャンパスは進化する?」の5つ。それぞれのグループについて説明しよう。

【イバダイ学を考える問い①】残る「知」とは何か?

 ここ数年のAI(人工知能)の発達は、「知」のあり方を大きく変えようとしている。これから30年後―茨城大学が創立100周年を迎える頃、今ある学問分野はどうなっているのだろうか、それまで残っている「知」とは何だろうか、というのがここでの問いだ。あわせて、今大学で学んでいる学生が卒業し、30年経った後も自分の中で残っている「知」とは何だろうか、という視点もある。

 ファシリテーターを務めるのは、公共哲学が専門の乙部剛准教授(人文社会科学部)と、数学・グラフ理論が専門の松村初准教授(教育学部)。哲学とデータサイエンスの専門家がどんな化学変化を起こすだろう。

さらにゲストスピーカーは、学術系のクラウドファンディングサービス「academist」の創始者である柴藤亮介さん。一般の人たちに響くもの、投資を集めるものとしての「知」を扱う立場にとっては、「残る『知』」というのはあまりにナイーブすぎる問いかも知れない。熱い議論になりそうだ。

【イバダイ学を考える問い②】大学における「学び」とは何なのか?:過去・現在・未来

 かつて日本の大学は、マスの講義に出席していれば単位がとれる、という雰囲気が確かにあった。その後、グローバル化の時代において、日本の大学教育の質についての議論が巻き起こり、今ではアクティブ・ラーニングや学びの可視化とデータ管理が常識になっている。しかし、それが大学における「学び」の理想的な形なのだろうか。管理されたアクティブ・ラーニングやデータ化される学び、という現実は、私たちに「大学における『学び』とは何なのか?」と問いを改めて投げかける。

 このグループでファシリテーターを務める佐藤環教授(教育学部)の専門分野は、教育学・教育史。まずは歴史の軸で大学の学びのあり方を問うことになろう。もうひとりの佐川明美助教は、今まさに茨城大学の教育の質保証にデータ面から関わっている立場から、大学教育の「今」の姿を具体的に紹介する。そしてゲストスピーカーであるIGS株式会社の中里忍さんは、能力や気質を可視化するサービス「GROW」のマーケティングを担当。民間のこのサービスは、世界の教育についてのひとつの未来を例示するものかも知れない。ある意味で苅谷氏とは対照的な視点から、大学の学びの本質に迫っていきたい。

【イバダイ学を考える問い③】いばらきのイノベーションと雇用:大学は何ができる?

 少子化・人口減少が続く日本の地方においては、新たな産業創出が必要となり、そのキーとなるのが地方大学のイノベーションである―今、大学はそのような期待を背負わされている。しかし、現実的に大学は何ができて、何ができないのか。あるいはできるようにするために、大学が取り組むべきことは何か。それには「イノベーション」とは何か、「働く」とは何か、というところから考えてみるべきかも知れない。ある意味で、大学の覚悟も問われるだろう。

 このグループでファシリテーターを務める酒井宗寿准教授(研究・産学官連携機構)、小磯重隆准教授(全学教育機構)は、それぞれ本学で産学連携とキャリア教育を担当している。一方でゲストスピーカーとして招いた、東大発教育プログラムi.school ディレクターの横田幸信氏、株式会社リバネスの環野真理子氏は、いずれも民間の立場からイノベーション人材の育成や産学連携に関わっている。大学/民間という2つの現場の状況を見つめながら、大学として次のステップへと進むための手がかりを探りたい。

【イバダイ学を考える問い④】グローバル化ってしなきゃいけないんですか?

 世界大学ランキングに代表されるグローバル規模での大学間競争、各大学が目標に掲げる「グローバル人材」の育成。これらは、茨城大学においてどのような意味をもち得るのだろうか。

 あるいは、出入国管理法が改正され、国境を越えた人の移動が加速化していく中で、私たちはどんな社会を目指すのだろうか。

 そう考えると、まず私たちが直視すべきなのは、グローバル化という事態によって生まれているコミュニティの実情であり、そもそも「グローバル人材」とは何か、という問いなのかも知れない。

 このグループでは、ペルーにルーツをもつ移民第二世代研究者の小波津ホセさん(宇都宮大学大学院)と、本学卒業生にして、茨城のソウルフード「納豆」を世界へと発信している株式会社納豆の宮下裕任さんとともに、地域とグローバルの関係を丁寧に解きほぐしていく。ファシリテーターは、グローバル教育センターで英語教育・日本語教育を担当している瀬尾匡輝講師(全学教育機構)が務める。

【イバダイ学を考える問い⑤】地域空間と大学―キャンパスは進化する?

 大学の未来はどうなるか、ということを考える際、もっともイメージしやすいのは、キャンパスというハードのことかも知れない。しかし、ICTの発展で教育や研究のスタイルが変化する中では、キャンパスというハード自体が必要なのか、と問うこともできるだろう。

 キャンパスを軸に考えることは、結局のところ、大学の魅力とは何か、誰のための大学か、環境が導く新しい学びとは何か、ということに思いを馳せることになる。果たして、キャンパスは進化するのか?

 ファシリテーターを務める辻村壮平講師(工学部)の専門は環境心理学。たとえば、会議の能率が上がる部屋・環境について研究している。一方でゲストスピーカーのウエスギセイタさんが共同代表を務めるYADOKARI株式会社は、タイニーハウスの建築などを通じて新しい住まい方や地域のあり方を発信している新進気鋭の建築集団だ。常識にとらわれず、頭を柔軟にしながら、未来のキャンパス像を自由に構想したい。

 以上がシンポジウムの内容だ。ディスカッションの後は、参加者それぞれの大学の概念がアップデートされるのではないだろうか。そのようにして、大学について自由に考え、語り、自分たちのものとして育てていくこと。それが「イバダイ学」である。この新たな「学問」の生まれる場に、みなさんもぜひ立ち会ってほしい。

(取材・構成:茨城大学広報室)