学長・校長 特別座談会 大学は地域の未来へ提言する いばらき地域づくり大学・高専コンソーシアム
Chapter4
茨城県の多層的な可能性を根拠づけるのは
大学・高専の仕事。
県南と県北の課題の違い。共通する目標。
茨城県の持つポテンシャルをさまざまな角度から見直し、多層的な可能性を根拠づけ、長期的な展望を見いだすという、大学の研究者として仕事がある。
- 日下部
- 茨城県を考えると、さっきのリーダーシップの話と同じなのですが、リーダーシップを発揮していろいろな問題を解決していくには科学技術の動向がどうなるかということがわかる人でないと務まらないと思います。茨城県には筑波研究学園都市があって、最先端の科学技術のフロントが見えるわけですよね。それを学ぶというのは、リーダーになる人にとってはものすごく重要なことだと僕は思っているのです。これはたぶん、座談会の最後のテーマになると思いますが、そういう面では、筑波大学だけではないと思いますが県南の先端的な研究をされているところとの連携というのは、我々の人材育成の一つの大きな柱になり得るなと考えています。

- 「県南の先端的研究をする研究者との連携は大きな柱になる」(日下部)
- 三村
- そうですね。地域貢献について、この地域の持っているポテンシャルを顕在化させるために大学が役割を果たすという考え方があるのではないかと思います。というのは、茨城県というのは一人あたりの県民所得が全国で4位(2012年)です。工業生産は非常に高い。それから農業も産出額が全国2位。科学技術の集積はつくば市にも東海村にもあるし、いろいろ高いポテンシャルがあるわけです。
もう一つ、非常に特徴的だなと思うのは、茨城県は北関東のゲートウェイになっている。港もあるし、空港もある。この間、群馬大学と宇都宮大学の学長の間で3大学で組んで外国の観光客を3県に招くプロジェクトをやりませんかという話が出ました。例えばそういう発想をすると、茨城県は人や物が入ってきたり出ていったり、その入口に位置しています。そのような自分たちの地理的な特徴、立ち位置を考えて、それをどうやって活かすかを考えるというのも、こと茨城の地域づくりという点では非常に重要なのではないかと思います。
- 日下部
- 私はそういう点では港湾が非常に重要な役割をしていると思います。鹿島の港湾というのは世界でも工業化の成功例の一つとされていますが、ひたちなか市の港湾の活用などはさらに進めるべきだと思います。三村先生がおっしゃるように、北関東の拠点になり得る潜在力を持っている。ポテンシャルとしては持っているのですが、十分活用されていないという気がします。
- 三村
- 茨城の持っているポテンシャルをフルに顕在化させるということでいうと、このコンソーシアムだけでは狭くて、もっと県内の多くの大学にも参加してもらわないといけないし、それから集積している産総研などの研究機関も一緒になって考えるということが必要だと思います。現在の港湾というのは物の出入りをやるだけではなく、そこで物をつくったりする機能も非常に高い。コマツが常陸那珂港の後ろに出てきたのは、重機をわざわざ内陸から運ぶのではなく、つくったものをその場で船に載せられるというほうがよいという考えですよね。同じように日立港にも日産やベンツなどが出ていますし、日立では今LNGの大きなタンクをつくっています。これは京浜港などがほとんど満杯で、首都圏や関東圏に、もう一つのエネルギ供給ルートを作るということでやっているわけです。LNGから水素ができると、今は燃料電池の車が動く時代になっていますが、30年後40年後の新しいエネルギーを先駆的に利用するようなモデル的な地域にできる可能性もある。これはまだ可能性の話ですが、そういう可能性に具体的な姿を与えて根拠づけるのは大学や研究者の役目だと思うのです。茨城にはそういう意味でのポテンシャルもあるし、もっと別の農業とか地域の伝統的な文化とか自然環境とかいろいろあります。
日下部先生の話を聞いていて、我々の活動自体も、やることは多層的なのだなと再確認しました。多様なレイヤーがあって、それぞれのレイヤーごとに可能性、ポテンシャルがあるような気がします。県南の大学を含めた茨城の大学・高専のコンソーシアム、場合によっては研究機関を含めたネットワークをつくっていくということでしょうね。
- 冨田
- そうですね。既存の「まち・ひと・しごと」の枠で考えると県北は過疎の問題が強く、一方で県南は首都圏に人が行くということで、問題が全然違っていて共有していない。全然違う問題に直面しているという認識が基本的にはあるので、組んでやろうという発想があまりなかったわけですよね。ご指摘をうかがっていて、実は両方が共有している問題もあるし、協力し合える関係にもあるということがかなり明確になってきた。これを積極的に推し進めていくことが茨城県における地方創生、我々のコンソーシアムのある程度の成果へつながるのではないかなという気がしてきました。非常に大事な視点だと思います。

- 「県北と県南、実は両方が共有する問題もあるし、協力し合えることがある」(冨田)
- 日下部
- 私も、過疎の問題はなかなか難しいと思いますが、やはり県の力も国の力も地域の力も将来に向けてかなり限定的なので、やはり選択と集中はせざるを得ない。ですから、水戸と日立を一つの核にし、それから県南を核にして、そういったところで集中的な人口構造も考えるということが大事だと思うのです。また、私どもが生きている間にできるかどうかですが、こういった人口構造になって、産業が世界的な競争にさらされている時に、県単位ということで明治以来ずっとやってきたものが本当にこのままでよいのかと思います。その辺について我々から大胆な提案をするということも大事なのではないかと私は思います。
- 東海林
- そうですね。私どものような日立にある大学から見ると、エリア的には福島県の磐城地区とも非常に親和性があるわけですね。だから、そういう意味では県境を越えたエリアという考え方も十分にある。
- 冨田
- 企業などが進出したり人が住む上で、加えておきたいのはやはり安全ですね。セキュリティの問題というのは非常に大きくて、アメリカで新たな自動車などの製造工場を立ち上げる時に各地から従業員が来ると。その立地条件、その地区の犯罪率が高いと従業員が嫌がって計画が頓挫するということがあって。そういうものが進出したり人が生活したりする場所ということで考慮するファクターはいろいろあると思うのですが、その中でやはり災害からの安全ということもあります。それから犯罪などの人の行為があって、安心は主観的なものですが、それを確保していくという視点を持つことは大事です。今回のCOC+でも本学の役割というのはその辺の安全・安心をどう考えるかということですので、これはいろいろなインデックスを見てもあまり出ていないので、勝手に私は重要だと思っているのですが、もう少し強調されてもいいのかなと思っているところではあります。
- 日下部
- そのお話ですぐに思い出すのは、タイの大洪水があった時、日本の企業もかなり水害で被害を受けました。それとともに政情不安があったりして、日本の自動車産業の多くは、メキシコにも拠点を持つきっかけとなったといわれています。災害、安全、安心は地域経営にとってすごく大事な視点だと思います。産業のベースとしてどれほど長期的な展望を持てるのかというところが拠点を考える上では大事なことだと思います。
本コンテンツの内容は、2015年10月6日、茨城大学学長室で実施された座談会のようすを、web掲載用に編集したものです。