学長・校長 特別座談会 大学は地域の未来へ提言する いばらき地域づくり大学・高専コンソーシアム
Chapter3
地域の歴史と未来を知る、考える。
それが、国際社会を見る目に繋がる。
COC+の成功には、地域を知り、学ぶことが、日本全体の課題を知り、そしてグローバル世界と繋がっていくきっかけとなっていくことが重要。
そのために学校と地域で出来ることは何だろうか?
- 三村
- 今度のCOC+で提案した中身というのは、それぞれが地域志向教育をやっているので、それをお互いに聴けるようにしましょうというのが主な柱なのですが、地域志向教育の中に地域だけのことではなく、他とどういうふうにつながるか、もっと幅広い歴史観、素養をどう育てるかなどまで含めると、協力できる部分がすごく広がってくるのではないかと思います。
いま茨城大学では、「茨城学」という授業を始めています。これは、1,700人の1年生が全員聴くのです。授業の、前半の6つか7つのコマは大学の教員が茨城の歴史とか文化、産業などを教える。その後は自治体の方などが出てきて、自治体が抱えている問題などの話をする。単なる座学にしないため、毎回の講義は40分だけとし、その後、各先生が茨城県の魅力を発信するにはどうしたらよいかとか、この分野の問題を解決するにはどうしたらよいかといった問題を学生に投げかけ、その場で(1授業は400人ですから8人で)50組くらいに分かれて議論をし、議論の結果を発表しながら、先生と学生が議論するというアクティブラーニング型の授業になっています。学生たちの反応がおもしろくて、最初、「自分はずっと18年間茨城に住んでいるのだから、もう勉強する必要がない」という学生がいるし、よその県から来た学生は、「茨城に来たつもりはなくて大学に来ただけだから、特に勉強する必要はない」とか、そういう意見もあった。ところがやってみると、「自分たちの知らないこともたくさんあった」とか、「自分は静岡県から来たけれども、もっと静岡のことを勉強したくなった」とか、非常に前向きな反応がある。茨城を学ぶというのは最初は地域を学ぶのだけど、それは日本全体のあらゆる地域を学ぶことに通じるのだと。それをもって皆さんは世界とつながってほしいのだということを三段論法のような形でガイダンスしているのです。大学に入ったら抽象化された理論とか教科書に書いてあることを勉強するだけでなく、現実と切り結ぶような学問への入り方をどうやったらできるかという一つの試みとしてやっています。
このCOC+の中では、茨城学の講義に他の大学の学生も来ていただいていいようにしようと思うのですが、それは最初の一歩であって、日下部先生が言われたように世界とつながるプロジェクトを一緒にやるとか、あるいはそういうプロジェクトをそれぞれが持っているのであれば持ち寄って経験の交流をするとか、何か次のステップができるような気がしますね。

- 「地域を学ぶ“茨城学”から、世界に繋がるという試みが始まっている」(三村)
- 東海林
- 英語で言うエリア・スタディーズには二重の意味があって、特定の地域を研究するということと、「地域とは」という視点での研究があって、三村先生のお話を聞いていると、名前は茨城学であってもそういう普遍的な「地域とは」というところに目標がある、一つのベクトルは向いているというところがあったかと思うので、その視点は忘れないようにしたほうがよいのかなと思いますね。

- 「普遍的な“地域とは”を考える。その視点を忘れない」(東海林)
- 日下部
- いいですね。私どもの卒業生に考古学の専門家がいて、その方がひたちなか市の虎塚古墳に関わっておられた関係から、土曜日の課外授業として学生を見学に連れて行っていただいています。そうすると学生たちは地域の歴史や発展もよく理解できるし、歴史そのものに対する興味も生まれてくる。このような体験は、工学系の勉強を集中的に学んでいる学生にとっては大きなインパクトがあると感じています。
- 冨田
- 今の話をうかがっていて、実際はCOC+を成功させるためには海外から学ぶこともあり、そしてその成果を海外に発進していくことも重要で、それもこれからの我々が行っているプロジェクトの評価のインデックスというものに加えてもよいのではないかという気がしますね。我々がやる時には、先ほど出てきたように歴史に学ぶなり、国際比較や研究を通じて。これから先が少し見えてきたような気がいたします。
- 三村
- 茨城大学は今、卒業生の30%だけが県内に就職して、70%は外に出ていく。ですから、先ほど言ったような指向性からすると、県内に残って県内を盛り上げてくれる学生がもう少し増えることを期待しているのですが、しかしそうは言っても、やはり半分以上の学生は全国に散っていくことは確かなわけです。そういう時に、茨城での勉強を通して、自分が住んでいる場所の問題を考えることのできる人間を育てるということが非常に重要なのではないか。自分がいる場所の問題を発掘して、それを定式化して、その解決策にチャレンジしようという気持ちを持っている学生であれば、地域で働こうが企業で働こうが、あるいは海外で働こうが前向きにやっていけると思うのです。そういう経験を大学の早い段階から与えてやりたいと考えています。
それは、大学教育の構造の問題になりますね。教養教育の中でそういう問題意識を持たせて、その問題意識をどう専門教育に引き継ぐかというところが非常に大切になる。専門教育では専門分野について深く教えたいという意識が非常に強いから、そことのバランスをどういうふうにするかということです。だから専門教育の中でも、先ほどの話ではないですがリーダーシップとかファシリテーションとか、あるいは自分はいま材料力学を教えているとして、その材料力学の背後にあるより広い工学の問題は何なのかということを教える必要があります。
- 冨田
- 学生ではなく教員も。
- 東海林
- 三村先生が「現場に出ていくということを教育システムに組み込む」とおっしゃった、それが非常に重要だなと思います。つまり、現場に出ていくこと、それ自体の意義ももちろんありますが、ともすれば学生は海外に研修に行ったとか、あるいは地域でボランティアなりインターンシップをやったというところで完結しちゃう危険性がある。私のような人文系では、旧来の教育は本からスタトしたわけですが、それとは違うアプローチが今の大学には求められているのだろうと思うのです。「地域に出ていく」「海外に出ていく」というところの体験から問題意識が芽生えて文献研究をするとか、それをまとめて発表するというトータルの教育システムというものを考えていきたいと思いますね。
- 日下部
- 茨城大学の卒業生は7割が外に行くとおっしゃいましたが、私どもでは地域の企業の方から、いくら高専に人材を欲しいと言っても学生をくれないじゃないかと言われます。確かに、6割近くは大学に編入学しますし、地元に残るのは10%弱ではないかと思います。私はそういう時に言うのですが、「実態としてはそうかもしれませんが、では皆さん、人材を欲しかったら奨学金を出してください。人材育成に協力してください。」と。
- 東海林
- なるほど。
- 日下部
- やはり僕は、それは大事なことだと思います。
- 三村
- そうですよね。
- 日下部
- 学校の教育がいけないと批判ばかりするのではなく、地域全体で人材を育てるという意識の共有と行動が必要であると思います。地域で人材を循環させたいということであれば、お金の循環もつくらなければいけません。学校関係者はこのことを恥ずかしがらずに言うべきだと思います。
本コンテンツの内容は、2015年10月6日、茨城大学学長室で実施された座談会のようすを、web掲載用に編集したものです。