学長・校長 特別座談会 大学は地域の未来へ提言する いばらき地域づくり大学・高専コンソーシアム
Chapter1
学校、地域、そして教育。
その現状から見えてくる、共に深めていくべきもの。
現在、茨城県が置かれている地域の現状と、コンソーシアムに参加する大学・高専が取り組んでいること。その先に、求めるべき未来と、そこに至る課題も見えてくる。
- 三村
- 今日はお忙しいところ、お集まりくださりありがとうございます。コンソーシアムの設立から半年が経って、先日にはCOC+が採択されました。本日は、今後どういうふうにコンソーシアムの活動を進めていくかとか、コンソーシアムの活動にとどまらず地域活性化全体をどう考えるかという話も含めて議論させていただきます。
では、具体的な話に入りましょう。今年の3月31日、「いばらき地域づくり大学・高専コンソーシアム」を立ち上げました。その前提としてそれぞれの大学、高専で何をやっておられるかを簡単にご紹介いただき、そのうえでコンソーシアムに対する期待についてお話をいただければと思います。まず東海林先生からお願いします。
- 東海林
- まず、コンソーシアムができたということは本当に意義深いことだと思っています。私も数年前からこのような形でできあがるということについては望んでいましたし、その過程においてはやはり全国の事例等もある程度の情報を得たほうがよいと思い、例えば先進的な取り組みとして京都のコンソシアムなど見学に行って情報を得るなど、「コンソーシアムとは?」についての基本的な勉強をしていたところはあったのです。その中で、やはり地域課題に取り組むという時に一つの大学ではパワー不足で、さまざまな大学が共同で取り組むという姿勢はとても大事だという意識がありました。そういう時に三村先生からお声掛けいただいて、まず組めたということが本当に意義深いと思っています。SNSというのができたことで「シェア」という概念がかなり生まれてきた。お互いの大学が持っている資産をシェアし、このコンソーシアムをもっと進めていくべきだと思っています。
また、この間のシンポでも栃木の宇都宮大学の石田学長から事例報告がありましたが、もちろん、うまくいっている部分と課題の両方を指摘されていました。やはりコンソーシアムを組んだからバラ色というわけではないので、成功例と課題等をいろいろなレベルで調査していく必要があるのではないかなと思っています。そのためには、コンソーシアムの連合体などに加盟していくというような考え方もあるのかなというふうに思います。

- 「他のコンソーシアムの、成功例と課題とを調査して考えていくことが必要」(東海林)
- 三村
- どうもありがとうございました。それでは日下部先生。
- 日下部
- 私どもは昨年、創立50周年という大きなイベントの年に、国立高専機構から明石高専とともに茨城高専がグローバル高専モデル校という指定を受けると同時に、世界と直結する高専教育、産業の先端と直結する高専教育という大きな柱を立てました。
その実現へ向けて私どもが考えた一つは、やはり地域との連携。特にOBのネットワークをどうやって強化するのかということで、「茨城高専地域協働サポートセンター」というものをOB有志と協力してつくりました。また、OBの方々に本校の客員教授になっていただいて、企業の方々が直接教育にも関わるというシステムをつくったわけです。このようなシステムの中で、企業の方々に本校の学生への教育支援に直接参画していただくと同時に、Uターンする我々の卒業生の起業サポートも視野にいれて活動しようと考えています。その活動を円滑にするために、いまサポートセンターを法人化しようという動きも出ています。それから、「学び」だけではない、様々な連携を進めているところです。例えば日本プロサッカーリーグの水戸ホーリーホックと連携を組んで、私どものサッカ部員を指導していただくと同時に、本校のグラウンドを開放して地域の子供たちがサッカーを行える場所を提供することを考えています。
グローバル教育の面では、我々の学校全体、教育内容、教育環境のすべてがグローバル化する必要があるというのが本校のグローバル事業のコンセプトなのですが、グロバル教育の一つの柱は、学生が世界をどうやって知るか、日本をどうやって知るか、地域をどうやって知るかという視点を体験的に身に着けることだと考えており、これはとても重要な点であると思っています。世界をどうやって理解するか、日本をどうやって理解するかという課題については、広島大学大学院に国際協力研究科というのがあり、そこで国際協力とは何か、国際環境協力の現状はどうなっているか、国際平和とは何か、このような内容のプログラムを組んでいただき本校の本科学生を今年から参加させています。地域との連携という観点からは、筑波大学大学院のドクターの留学生と、本校の専攻科の学生をペアリングして、国内において国際連携を体験する工夫もしています。
もう一つ、グローバル化に関連して私どもが役割を果たそうと思っているのは、在留外国人の子弟の教育です。例えば、県南県西のほうには在留外国人の方々が多くおられます。本校では、来春から外国人特別枠の試験制度を導入します。奨学資金としては、50周年記念事業でご寄付いただいた基金を充てることを考えていますし、地元のロータリークラブからもご支援の連携ができつつあります。
このコンソーシアム設立を一つのきっかけとし、いま申し上げたような私どもの50周年とグローバル高専モデル校指定としての動きが相まって、様々な連携が深まっていくことを期待しています。学校同士の連携と同時に、やはりどうやって地域のいろいろなセクターと連携を組んでいくかということが大きな課題ではないかなと思っています。以上が、今までの半年間で行ってきたこととして申し上げられることです。

- 「国際化・グローバル化する地域社会の新しい仕組みが必要だ」(三村)
- 三村
- その在留外国人の子弟の教育という話ですが、常総市で水害の被害が出た時に、避難所や避難情報は外国人の方に十分に伝わらないということがありました。放送が聞こえても意味がわからないという話です。まさに国際化、グローバル化する地域社会の中では、いままでとは違う仕組みが入らないといけないということを強く感じたのですが、そういうことも、在留外国人子弟教育をやろうというモチベーションとつながりますか。
- 日下部
- 日本全体がグローバル化していこうとしているのに、そういった認識はものすごく限られていると思います。現在の制度では、3年間、日本に在留すると日本人と同じ県立高校の試験を受けないといけないと聞いています。ブラジルから来ている日系2世3世の方はポルトガル語で教育を受けるわけですが、県立高校に行く時には日本語ですべて受験をしなければならない。そういうハンデを若い人に負わせているのではないか。ですから、我々がその辺の突破口となって切り崩せないかなという気持ちをもっています。
先程の災害との関係でいくと、やはり国全体でそういった地域の中の在留の人たちに対するケアが本当に欠けているなあという気がします。昔の話ですが、私が東工大にいた時に目黒区と組んで5カ国語でそういった災害の情報誌を出したのですが、そういう努力はもうちょっとやるべき。その点でも我々の役割は大きなものがあるという気がしています。
- 三村
- 茨城大学では災害の後、石塚観光(石塚サン・トラベル株式会社)と組んで学生ボランティアを送り込んだのです。その後、継
続して避難者や住民のケアなどもちょっとやり始めています。そうすると、いま話している外国の方々も入ってくるのですよね。
- 日下部
- そうなのです。
- 三村
- 県内のNPOなどがずいぶん頑張っているのですが、通訳ボランティアで大学も協力しようという機運が出てきています。確かに、今おっしゃった在留外国人の方たちが困難に直面した時に何ができるかとかいう話は、非常に切実な問題だと感じています。
- 東海林
- 日下部先生がおっしゃった移民の教育の問題というのは二つあると思っていまして、一つは、現在存在している移民をどう教育していくかというのはある意味で目の前にある課題かと思うのですが、今後、人口減少を迎えた時に新たな移民が生じてくるのかどうかというようなこと。それから、生じてきた際にその受け入れをどうしていくのかというビジョンを、この地域の大学としてどう持っていくかということも、中期以上のタームとしては考えていく必要があるのではないかという気がしますね。国の政策とも絡む問題ではあるのですが、この地域としてそういう選択肢があるのかというところも含めて、まだ私の中では答えが出ていないのですが、考えておくべき課題なのかなというふうに思っています。
- 三村
- 冨田先生、お待たせしました。
- 冨田
- 今回のコンソーシアムの設立ということにつきましては、そもそもは国の「まち・ひと・しごと創生法」絡みで、大学には何ができるのかという話から来たわけです。ちょっと我田引水になるのですが、私立大学というのは私立学校法等に基づく学校法人で、国立大学と違うところは建学の精神にあるわけですね。本学の話になって恐縮なのですが、実学を重視するということを本学は建学の精神の中でうたっております。実学の定義というのはいろいろあるのですが、一つは社会に存在するさまざまな問題を解決する、その提案をするというのがわりと定着した実学の定義です。今回の「まち・ひと・しごと」というのは基本的には少子高齢化あるいは過疎化に伴って地方に起きている問題をどう解決するのか、大学には何ができるのかという話なので、やっぱり本学における実学の尊重みたいなものが注目されたのかなという点で良いことというのがひとつ。
二つ目は、先ほど東海林先生もおっしゃったように、やっぱり一つの大学でできることは限られているわけですから、同じ地域にある大学である程度問題を共有しているところが連携・協力するというのは非常に大切なのかなというふうに思っております。
- 三村
- ありがとうございました。では、私のほうから茨城大学の考え方についてお話します。去年の9月に学長を拝命したときにいろいろ考えて、二つのことが重要だと思ったのです。一つは、社会に貢献する大学。具体的に社会に貢献する大学になるにはどうしたらよいのかということですね。もう一つは、学生が成長する学生中心の大学というのを考えました。というのは、学生は大学で習ったことをもって卒業し社会へ出ると、知識自体はかなり早く陳腐化する。出ていった後、自分で能力を高めて成長しなければいけないですよね。そういう成長する方法、成長する力を持って送り出すにはどうしたらよいだろうかと。そういう視点から、学生の目線を中心に考えてみようというのが二番目でした。
社会に貢献する大学ということを考えると、この1年、いままで40社くらいの企業を訪ねて、意見交換しています。それは2時間かかる熱心な意見交換になります。私自身は回れなかったものですから、26社ほどを回った昨年度の終わりに社長さん方に集まってもらって、とにかく大学に対する注文を全部聞きますという意見交換会をやったのです。それで出てきた最初の反応は「大学は敷居が高い」「いろいろやりたいことはあるけれど、大学に行って相談しようというような気持ちには今までの経験からいってあまりならないんだ」といったことでした。他にもいろいろなご批判があったし、ありがたい意見もいただきましたが、ただ、「こういう会を開くこと自体が大学の姿勢が変わった一つなのではないか」とも言われました。
私が強く思ったのは、茨城大学は実は10年以上前から「地域に根差して地域とともに歩む大学」ということでやっているわけです。産学官連携などにもずいぶん力を入れていることになっています。産学共同の研究も180件くらいやっているということなのですが、実際に個々の取り組みを確かめるとそうなっていない。毎日交流があるかどうかは別にしても、非常に緊密な連絡があるという形で具体的に社会に貢献するという形にはまだなっていないということを強く感じたのですね。
もう一つは、学生が成長する力を持つというのは教室の中だけではできない、グローバルにしても地域活動をやるにしても、学生は今まで習わなかった問題にぶつかるわけです。だから、問題の現場に学生を投げ込み、未知の体験をさせる。そういうことを教育システムの中に組み込みたいという思いがあります。
そういうことを考えている時に、ちょうどこの「まち・ひと・しごと地方創生」の話が出てきた。これは社会のために大学や高専が力を発揮するという側面と、それを利用して我々がより高い教育を実行する機会になると直感しました。その時に、皆さんがおっしゃるように一つの大学だけでは限界があるので、同じような志を持っておられる大学・高専と一緒に問題を共有してやるのがよりよいのではないかということで今日につながっています。
本コンテンツの内容は、2015年10月6日、茨城大学学長室で実施された座談会のようすを、web掲載用に編集したものです。