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「茨大生のための場づくり」の現場に潜入したらみんな前向きにもやもやしていた

レポート

 3月9日、水戸市内のとある会場で、「茨大生のための場づくりとは~場づくりのファーストペンギンが語る茨大だからできること~」というトークイベントが開かれた。主催者は"いばらき場づくりサーカス団"とのこと。どんなイベントか気になり、潜入してみた。

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 会場は水戸キャンパスの目の前にある「たねホールカフェ」。昼間はカレーなどを提供しているから、行ったことがある人も多いかも知れない。スタートの18時に近づくと、学生はもちろんのこと、高校生から50代ぐらいと思われる人たちまでが、吸い寄せられるように次々とやってくる。15畳ほどのスペースはすぐにいっぱいになってしまった。

「みなさん、今日はどうもありがとうございます。今夜は"茨大生がどう社会に関わっていくか"を自由に語る会にしたいです」

 そう宣言したのは、川原涼太郎さん(工学部3年)。この会の発起人だ。彼がFacebook上で作ったイベントページでは、「"大学生と地域の人材が混然一体となれるサードプレイス"を茨大そばにも作りたい」と説明されている。

badukuri2.jpg発起人の川原さん

 「サードプレイス」というと漠然としているが、川原さんの中ではそれなりのイメージがある。そのイメージのもととなっている空間のひとつが、つくば市にある「Tsukuba Place Lab」だ。今回はそのTsukuba Place Labの代表をしている堀下恭平さんなど、県内外で実際に魅力的な「場づくり」を展開している人たちを呼び、そういう場を水戸につくることをイメージしながら、わいわいと語り合うというものだ。このミッションに、大学生だけではない、水戸のいろんな人たちが引き寄せられてやってきたのだ。

badukuri3.jpgTsukuba Place Lab堀下さん(中央)

 堀下さんは1990年生まれ、熊本市出身。商店街活性化や行政のコンサルを務める会社を起業し、つくばに移住。筑波大学在学中の2016年12月にコワーキングプレイスTsukuba Place Labをオープンした。毎日7時から23時までオープンしていて、学生は300円で1日滞在できる。年間350回以上のイベントをこなし、筑波大生はもちろん、いろんな人たちが集まり、出会い、何かが生まれる。実際にここでの出会いをきっかけに起業した人もいれば、インターンシップにつながることも多々ある。「やりたいことは、『偶然を演出すること』。意識的に偶然を創り出すということは、イノベーションを起こすということ」と堀下さん。いろんな人の風を受けてコミュニティがハッピーな形に回っていくイメージを、風車のロゴデザインに込めた。

 2人目のゲストは菅原広豊さんの肩書きは「茨城移住計画 代表発起人」。1984年生まれ、秋田市出身。大学卒業後、「ラグビーをするため」9年前に日立市へ移住。2013年に家族で学べる場をコンセプトにした「ヒタチモン大學」を立ち上げて、地域密着のイベントを次々と開催。茨大発ベンチャーのひとつ「ユニキャスト」が運営するシェアハウス「コクリエ」などを舞台に、「本を読む」「人に会う」「旅に出る」の3つをポリシーに掲げ、多世代のコミュニティづくりを実践している。ちなみに「ヒタチモン大學」の事業は、日立出身の学生・鈴木夏海さん(教育学部3年)が引き継ぐことになったそう。楽しみだ。

badukuri4.jpg茨城移住計画 代表発起人の菅原さん

 3人目のゲストは、西田卓司さん。西田さんは新潟県で「ツルハシブックス」という本屋を運営していたが、2015年に茨城県へ移住。ツルハシブックスは、本屋でありながらカフェであったり自習スペースであったりする場所。西田さんはツルハシブックスをオープンする前も、大勢で朝ごはんを食べるイベントや畑をつくるプロジェクトなど、多彩なアプローチで「場づくり」に取り組んできた。茨大でも授業のサポート役として活躍しているので、知っている!という学生も多いだろう。

badukuri5.jpg新潟でツルハシブックスを手がけた西田さん

 それぞれが自らの活動を紹介したあとは、会場に集まった人たちが自由に発言し、トークが進んでいく。

 3人に寄せられた質問のひとつ、「どうして今の場づくりをしようと思ったのか?」。最初に答えたのは菅原さんだ。「分断された社会をつなげるのが趣味みたいなもので」。一方で西田さんは「なんだろう、わからない」。堀下さんも、「僕もわからないけれど、でもコンサルタント、つまりプランナーとして活動しているのでは物足りなくて、プレイヤーになろうと思ったし、まちのプレイヤーを増やしたいって思いはあった」。この点で、「目的を目標にしすぎないことが大事かも知れない」という西田さんの指摘は鋭い。それぞれの場づくりの根本には、数値で明確に示された目標よりも前に、「好き」というエモーショナルな核がある。「『場づくり』というとすぐ、『何のため』と言われがちだけれど、『つながる』という瞬間に立ち会うのが好き、というのが動機」と語ったのは菅原さん。その彼が例として挙げた存在が「さかなクン」だ。「どうしてさかなクンのところに人が集まるか、といえば、それは彼がどうしようもなく魚が好きだから」。

badukuri6.jpg感じたことを参加者同士で語り合う

 大学をはじめとするフォーマルな教育機関は、人を育てる目的や目標を掲げ、それに向けてカリキュラムを組み立てていくところだ。となると、3人の見解からすれば、大学という営みの中だけでは、多様な出会いや魅力的な学びの「場」はなかなかできないのかも知れない。

 この日の参加者のひとり、茨大の1年生、郡山葵さん(人文社会科学部1年)は、「大学での価値観という意味では、『就職』へ向かっているという意識がすごく強い」と語った。それは、他者からの一面的な評価という側面を強くもつ大学受験を終えたあとも、すぐに就職活動という、社会からの評価の場へとさらされる、という学生の素朴かつ悲痛な感覚かもしれない。そしてそれは彼らの自信を奪っているかもしれない。

 もちろん、大学も多様なプログラムや学びの場を用意しようとしている。しかし、「自信がない人は、小さなチャレンジをすることも難しい。だからこそ偶然の場を作りたい」(西田さん)という場づくりの先達たち。ここに集まった学生たちが求めるのも、緻密に設計された大学のカリキュラム内に留まるのではなく、偶然の力を大いに借りながら、もっと多様な人たちに出会い、豊かな価値を自分の中に取り入れていけることなのだ。

 今回は「茨大生のための場づくりとは」と題したイベントだったが、堀下さんはこうも言い切った。「『茨大生』という枠で区切ったら、その時点でもう終わってしまう。『社会人になったら...』などと言われるけれど、大学生も社会の一員であって、充分にひとりの社会人なんだ」と。会場に集まっていた学生たちが、うんうん、と強く頷いていたことが印象的だった。

 茨大の学生が、茨大生でもありつつ、他の何かでもある、という当たり前のことが自然に肯定される空間こそ、彼らの求める「場」なのかも知れない。それはもやもやした状態かも知れないけれど、参加者のひとりが言っていたように、「もやもやは現在進行形ということ」なのだ。

 20時。お開きの時間を迎え、川原さんはこう呼びかけた。「もやもやを持っている人は、今日ここに集まった人以外にもたくさんいる。場づくりサーカス団は、これからいろんな場所でゲリラ的にこういう会を開いていって、たくさんのフックを作りたい」。

 茨大生のための場づくりは、始まったばかりだ。

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(取材・構成/茨城大学広報室)
※肩書きは取材当時のものです。記事中の一部写真を川原涼太郎さん、堀下恭平さんから提供してもらいました。