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教員自ら取り組む熱いアクティブ・ラーニングの現場―よい授業をつくるために

レポート

 ディプロマ・ポリシーで定めた5つの茨城大学型基盤学力をすべての学生に身につけてもらうためには、大学の授業も進化していかなければならない。授業力を高めるべく、学生と同じようにラーニングコモンズでのグループ学習に取り組み、自らアクティブ・ラーニングを体感している教員たちの努力の現場を覗いてみた。

0313fd1.jpg いつもは学生たちの姿がひしめく水戸キャンパス共通教育棟のラーニングコモンズに、この日は教員たちが集まった。各学部や全学教育機構、社会連携センターの教員に加え、他大学の先生たちの姿も。その数、30人以上。

 これは、3月13日に行われた「講義形式授業において学生の学習を促進する授業デザイン」というFDの様子だ。FDというのは、Faculty Developmentの略。つまりは大学教員の研修のこと。

 講師を務めたのは、かつて茨城大学でも教鞭をとっていた、芝浦工業大学教育イノベーション推進センターの榊原暢久先生。同センターでは、理工系の大学教員の能力を高める研修プログラムを全国の大学向けに提供している。今回は、講義をベースとした基礎科目の授業に関連して、学生の学びを高めるための目標の立て方や評価の方法、アクティブ・ラーニングを取り入れた具体的な方法などを、体感しながら学ぶというもの。学部等の枠をこえた幅広い教員たちが、ここまでアクティブに、授業についての考えを深め合うというワークショップは、茨大にとっても初の試みだ。

0313fd2.jpg 参加者には1枚のワークシートが配られた。題目は「『講義形式授業において学生の学習を促進する授業デザイン』ワークシート」。自分が担当する授業について、学生にどんなことができるようになってほしいか、という目標を記した上で、評価方法や授業方法、具体的な授業計画を書き入れていく。

 もちろん、このワークシートをひとり黙々と完成させる研修ではない。今回は約2時間かけて、自ら振り返ったことや考えたことをグループやペアで共有しながら、「授業デザイン」についての学びを深めていく、"ガチ"なアクティブ・ラーニングなのだ。

 たとえば「評価」というテーマ。ワークシートには、授業の目標に関連させながら、具体的な評価方法を記入する欄が用意されている。参加者たちは自分の実際の授業を事例に、試験、レポート、プレゼンテーション、振り返りシート...といった評価方法を書き入れる。そして、グループで紹介しあい、互いのレビューを通じて取り入れてみたい良いアイディアだと思った方法を加え、赤いシールを貼り付けていく。

0313fd3.jpg 「評価」というと、学生にとっても、授業がすべて終わったあとのA・B・C...ばかりが気になりがちかも知れないが、そもそもは教員が学生の理解度を確認して授業を微修正するために行うものだ。さらに、学生自身も自分の理解度を確認して学びをさらに進めるためにも使う。「評価は、学生がその結果をもとに行動を起こすために実施されるもので、その後の学習を促すために行うものです」と榊原先生は語る。

 その榊原先生が、自らの授業で評価のために用いているツールを披露してくれた。授業ごとの細かな振り返りシート、ルーブリックという構造的・多面的な評価シート、ある概念に対する理解を可視化するコンセプトマップ...そしてそれらを綴じあわせたラーニング・ポートフォリオ。その緻密さとボリュームには、参加した教員たちから思わず驚嘆の声が漏れた。

 続いて授業方法。最初に榊原先生が紹介したのは、「90/20/8の法則」。

0313fd4.jpg これは、「理解しながら聞けるのは90分まで」「記憶に残しながら聞けるのは20分まで」「8分ごとに参画させる」という、学習者の理解にかかわる法則。つまりは、20分以内というのをひとつの単位に90分の授業を構成し、それぞれの単位の中で、8分ごとに学習者の思考がアクティブになるような活動を入れると良い、ということだ。

 それから、短期記憶から長期記憶に移行するには、最低6回の"revisit"が必要、という「6×」の法則。すなわち、大事なことを1回の授業で頭に入れようとしても、短期的にはともかく長期的な知識としては定着しない、ということ。だから、断続的に6回以上記憶に働きかけるような組み立てが必要になる。

......といったことをなんとなく理解したところで、「みなさん、席を立って、それぞれペアを作ってください」と榊原先生。

「これから2人組になって、1人は『90/20/8の法則』、1人は『6×』について、ペアの相手に教えてください。時間はそれぞれ1分です。スタート!」

0313fd5.jpg 参加者たちが一斉に席を立ち、ペアでの「教え合い」が始まった。ラーニングコモンズに熱気が篭もる。

「みなさん、いかがでしょうか。たくさんの人数の中で急に指名されて発言を求められたら、やっぱりドキドキしますよね。そういう極度の緊張感は、記憶の定着の障害になります。でもペアでの教え合いならハードルも低くなりますよね。『教え合い』は、一番初歩的なアクティブ・ラーニングといえます」

 こう語る榊原先生の説明に対し、実際に身をもってそのことを実感した教員たちからも「なるほど」という声が聞こえてきた。「大事なのは、学生自身が、授業の中で何をわかっていてわかっていないかを自覚すること。自覚していないと本当の学びにはつながらないのです」。

 自らアクティブ・ラーニングを体験して気づきを得て、さらに自らの授業を振り返っては、構成を考え、シェアしていく。質疑応答では、たくさんの質問が飛んだ。

「アクティブ・ラーニングの要素を取り入れることで、講義だけの授業で触れていた内容をいくつか飛ばさざるを得なくなってくると思うが、どうすればいいのか?」

「コミュニケーションを苦手とするハンディキャップを抱えた学生に対しては、『教え合い』についてどのように対応すればいいのか?」

「予備知識をたくさんもっている学生と、予習や復習に取り組まない学生が一緒の授業を受けているとき、どんなところに重点を置けばいいのか?」

...そう、大学の教員たちもみんな、授業をめぐって悩み、改善したいと懸命に考えているのだ。

 研修終了後、ある教員が率直な感想を語ってくれた。

「授業を変える具体的なヒントが得られましたね。アクティブ・ラーニングを取り入れた学習を、実際に自分で体感できたことはすごく大きいし、ある意味でショックも受けたな。講義だとつい喋りっぱなしで、内容をたくさん詰めて濃くすることを考えてしまうけれど、学びの主体は学生。教員の自己満足では、結局いい授業とはいえないということ。今日学んだことを振り返って、授業改善につなげたいと思います」

 学生たちの意欲や努力を引き出し、あるいはそれに応えていく、教員たちの"コミットメント"。弛まぬ努力と挑戦は、これからも続く。

(取材・構成/茨城大学広報室)