国立天文台・茨城大らのチーム、60年以上に及ぶ太陽観測データの解析により極小期の活動度が毎周期変わらぬことを発見

 国立天文台チリ観測所の下条圭美助教を中心とする、名古屋大学、京都大学、茨城大学からなる合同研究チームは、 60年以上にわたる太陽マイクロ波の強度モニター観測のデータを解析し、太陽極大期の活動度が太陽周期ごとに大きく変わるのに対して、 極小期のマイクロ波強度およびそのスペクトルが最近の5周期では、毎回同じであることを示しました。この観測結果は、 黒点や太陽活動の源である磁場の太陽内部での生成・増幅を理解する上で、重要な鍵になると考えられます。

1117-shimojo-fig1-1024.jpg詳しくは国立天文台野辺山宇宙電波観測所のホームページをご覧ください

 人工衛星の活用に代表される科学技術の発達により我々の生活は便利になった一方、 太陽フレアやコロナ質量放出(CME) などの太陽活動は、私たちの生活へ影響を及ぼしやすくなっています。 可視光で観測できる黒点の数は、太陽活動の指標として利用されてきましたが、 太陽フレアやCMEなど地球に影響する活動現象は黒点が無い領域でも発生することがあり、 太陽活動の状況を知るためには黒点数だけでは不十分といえます。また、当然ながら、 黒点は曇りの日や雨の日などは観測することができません。太陽から放射される電波、特にマイクロ波は、 太陽フレアを発生させるような磁場の領域があれば強度が増加します。また太陽フレア時には、強烈に強いマイクロ波が放射されます。 更に、マイクロ波には曇りや雨でも観測できるという強みがあり、太陽活動の指標として世界中で利用されています。 日本では、1957年6月から1, 2, 3.75, 9.4 GHzの4周波同時観測が豊川でスタートし、 国立天文台野辺山キャンパスへのアンテナ移設を経て、現在まで観測を継続しています。

【観測成果】
 太陽は約11年ごとに活発な時期と静かな時期を繰り返します(太陽周期)。上図のマイクロ波強度グラフでも約11年ごとに強度が増減しています。 本研究では、60年の観測期間中に太陽が静かになる時期(極小期)5回分のうち、最も静かになる月をマイクロ波観測データから決め、 その月の平均マイクロ波強度を観測周波数毎ごとに計算しました。その計算結果をグラフにすると(図・右下)、 5回の極小期のスペクトル(色の違いが周期の番号を示している)がほとんど同一線上に並んでいることがわかります。実際、観測装置の精度とほぼ同じぐらいの差しかありませんでした。

【観測成果の意義】
 マイクロ波の強度と太陽表面の磁場強度には相関があります。極小期では黒点はないので、 黒点の磁場を太陽内部で生成するメカニズム(グローバルダイナモ)で作られた磁場ではなく、 もっと局所的な磁場生成メカニズム(ローカルダイナモ)で作られた磁場がマイクロ波の強度を支配していると考えられます。今回の観測結果から、極小期のマイクロ波スペクトルは太陽周期が異なっても全く変わらないことがわかりました。 変わらないということは、太陽周期ごとに黒点の数がどんなに異なっても、静かになれば太陽磁場の状態が前の太陽周期の静かな時期と同じになることを意味し、 さらに黒点を作るグローバルダイナモがローカルダイナモにあまり影響を及ぼさない事を示唆します。 このような示唆は、現状では見ることができない太陽内部での磁場の生成・増幅を考える上で、重要な鍵になるでしょう。同一観測手法によるデータの質が揃った長期観測データは黒点観測以外の太陽観測では珍しく、黒点数以外のデータで太陽周期を超える時間スケールの傾向を発見したことは非常に意義深いものです。  今後も太陽マイクロ波モニター観測を継続し、世紀単位で太陽の長期変動がわかれば、新たな知見が得られると期待しています。

【論文情報】
この観測成果は、以下の内容で米国の天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」2017年10月10日号に掲載されました。
"Variation of Solar Microwave Spectrum in the Last Half Century", 2017, Astrophysical Journal, vol. 848, id. 62

【研究メンバー】
下条圭美(国立天文台チリ観測所 助教)
岩井一正(名古屋大学宇宙地球環境研究所 准教授)
浅井 歩(京都大学理学研究科附属天文台 准教授)
野澤 恵(茨城大学理学部 准教授)
南谷哲宏(国立天文台野辺山宇宙電波観測所 助教)
齋藤正雄(国立天文台TMT推進室 教授)

(2017年11月20日)