理工学研究科・庄村康人准教授、農学部・西原宏史教授ら、NAD+還元[NiFe]ヒドロゲナーゼのレドックススイッチ機構の構造基盤を解明

 兵庫県立大学の樋口芳樹教授、茨城大学大学院理工学研究科/フロンティア応用原子科学研究センターの庄村康人准教授、農学部の西原宏史教授、奈良先端科学技術大学院の廣田俊教授、東京大学の石井正治教授、九州大学の小江誠司教授らの研究グループは共同で、大型放射光施設SPring-8を利用し、酵素の一つであるNAD+還元[NiFe]ヒドロゲナーゼのX線結晶構造解析(立体構造解析)を行いました。その結果、分子中の鉄硫黄クラスターの酸化状態の変化が引き金(レドックススイッチ)になって酵素の分子構造が変化し、これが酸素に対する防御機構と活性酸素種の生成を抑える分子機構に関連していることを見出しました。また、酵素分子中で電子を流す鉄硫黄クラスターの立体配置が、ヒトを含む酸素呼吸をする生物の呼吸鎖電子伝達系で重要な酵素・複合体Ⅰと酷似していることを発見しました。

 今回の研究は、酵素の酸素に対する防御機構と細胞における活性酸素種の生成を抑える分子機構の解明に寄与する重要な知見であり、生物におけるエネルギー代謝システムの進化的側面を解明したものです。この研究成果は、Science誌電子版に発表されました。詳しくは、プレスリリース(PDF)をご覧ください。

 本研究は、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)「ライフサイエンスの革新を目指した構造生命科学と先端的基盤技術」領域(研究総括:田中啓二 東京都医学総合研究所理事長兼所長)の研究費支援を受けて行われました。

今回の研究成果について

 ヒドロゲナーゼとよばれる酵素は、微生物の細胞内で水素の分解や合成を行いますが、その多くは他の物質の酸化還元反応に関与する酵素と合体して一つの複合体として機能しています。今回の研究に用いたNAD+還元[NiFe]ヒドロゲナーゼは、水素酸化還元ユニットとNAD酸化還元ユニットからなり、両酸化還元反応を組み合わせることによって水素の分解と合成のどちらも一つで行うことができる、珍しいタイプのヒドロゲナーゼです。この酵素を構成するタンパク質は、呼吸鎖複合体Iとよばれる、私たちヒトも含む酸素呼吸を行う全ての生物が持つ重要な膜結合性タンパク質の一部と、アミノ酸配列がよく似ていることが分かっていました。

 今回、研究グループは、水素酸化細菌Hydrogenophilus thermoluteolus TH-1由来のNAD+還元[NiFe]ヒドロゲナーゼの結晶化に成功し、大型放射光施設SPring-8ビームラインを用いてX線結晶構造解析を行いました。そして、世界初となるこのタンパク質の立体構造解析によって複合体Iとの詳細な構造の比較が可能となり、本酵素が酸素による失活を防ぐ仕組み(酸素耐性機構)の一端を解明することができました。

 本研究が明らかにした、「ヒドロゲナーゼのNi-Fe活性部位が酸素による攻撃から逃れる仕組み」はこれまでに例がないもので、ヒドロゲナーゼおよびこれに類似する触媒の酸素耐性の一般則の構築など、この問題を克服するための鍵になることが期待されます。また、老化やガンとの関係が指摘されている活性酸素種の生成を防ぐ機構の解明につながることが期待されます。

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図:NAD+還元[NiFe]ヒドロゲナーゼ(A)と呼吸鎖複合体I(B)の比較

発表論文

  • 雑誌名:Science
  • 論文タイトル:Structural basis of the redox switches in the NAD+-reducing soluble [NiFe]-hydrogenase
  • 著者:Y. Shomura, M. Taketa, H. Nakashima, H. Tai, H. Nakagawa, Y. Ikeda, M. Ishii, Y. Igarashi, H. Nishihara, K-S. Yoon, S. Ogo, S. Hirota, Y. Higuchi
  • DOI番号:10.1126/science.aan4497

関連リンク

プレスリリース「NAD+還元[NiFe]ヒドロゲナーゼのレドックススイッチ機構の構造基盤の解明 -タンパク質の構造変化による酸素および活性酸素種からの防御機構と生物のエネルギー代謝システムの進化についての基礎科学的研究-」(PDF)

(2017年9月1日)