農学部・毛利栄征教授、九州北部豪雨における農業用ため池の減災機能を現地調査

 茨城大学農学部地域総合農学科の毛利 栄征 教授は、平成29年7月九州北部豪雨における農業用ため池の被災状況を現地調査しました。その結果、農業用ため池の設置そのものが洪水の誘因となったのではなく、流木や土砂の流入による水位上昇から越流や決壊につながったことが確認されました。また、ため池が土石流を貯留することにより、減災につながった可能性があることがわかりました。

【プレスリリース】平成29年7月九州北部豪雨 農業用ため池の影響を現地調査で確認

 この調査は、福岡県朝倉市などで大きな被害をもたらした平成29年7月九州北部豪雨の発生を受けて、農林水産省九州農政局の支援のもと、8月2日~3日、7つのため池を対象に実施したものです。
 農業用ため池は、かんがい用水を貯留することを目的に築造された「土を締め固めた堤」であり、土地改良設計整備指針「ため池整備」によって、その標準的な設計と施工に関する考え方や方策が示されています。この近代的な施工によるため池は、歴史的な豪雨に対しても溢れることなく洪水を下流の水路へ導く性能を有していますが、土石流や流木などの流入は想定していません。

 そこで今回、ため池上流からの膨大な土石流の流入を受けたため池を対象に、ため池の堤の変状と貯水池の状況を調査しました。
 調査により、河川沿いの斜面が豪雨によって広域・多所で表層崩壊したために、膨大な土石流が河川を流れ、多くのため池の貯水池が完全に土砂で埋まった状態になっていたことがわかりました。さらに、長大な流木もため池に流入したことから、それが洪水の障害となり、ため池の水位を上昇させていることが確認されました。流木と土砂が短時間に多量にため池に流入したことによって、その水位が異常に上昇し、洪水吐水路やその周辺の堤を越流して下流の斜面を削り、大きな崩壊を引き起こしています。
 一方、堤に越流痕跡がないため池については、堤そのものに大きな変状もなく、適切に流水し、安全性を保っていることが確認されました。

 これらの結果から、農業用ため池の機能は、計画どおりに作用した一方で、土砂や流木の流入という事態が、越流や洪水を招いたことがわかりました。他方、土石流や流木が流入したため池についても、これらを貯留し、災害を緩和する機能を発揮したことが確認されました。
土石流や流木の貯留は、ため池に設定されている通常時の本来機能ではありませんが、それによって地域の減災機能を発揮したと評価できます。今後、ため池の貯留機能をより有効に地域減災に役立てるためには、堤の耐久性を高めて豪雨や地震に対する安全性をさらに向上することや、流木などの大きな障害物を優先的にため池入口で捕捉する杭などを設置することが必要だと考えます。

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調査溜池(候補)位置図
 
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洪水吐に貯まった土砂と流木

毛利栄征教授のコメント

 今回の平成29年7月九州北部豪雨では、ため池において土石流や流木が越流し、さらに下流地域に洪水が起こったことで、農業用ため池が洪水の起点となったとする見解やため池の存在自体を、洪水災害におけるリスク要因として指摘する意見も散見された。しかしながら、今回実施した8月2~3日の現地調査によって、ため池は豪雨そのものによって決壊しておらず、実際には想定どおりの防災機能を発揮していたと考えられる。すなわち、越流や洪水は、土砂や流木の流入によるため池の水位上昇が原因と考えるべきで、今回、それらをため池が貯留したことによる減災効果も確認された。
 専門的な調査によってため池の減災機能を冷静に評価し、より必要な機能強化を進める技術開発が望まれる。

(2017年8月10日)