光渦レーザーを磁性体に超高速でプリントする方法を提案 ―理学部・佐藤正寛 准教授ら

 茨城大学理学部の佐藤 正寛 准教授と東京大学大学院の大学院生で物性研究所所属の藤田 浩之 氏の研究グループは、トポロジカルなナノスピン欠陥が安定に生存するカイラル磁性体薄膜に、軌道角運動量を持つ(ひねり構造を持つ)レーザー光(光渦)を照射することで、ピコ(10-12)秒からナノ(10-9)秒という超高速で、スキルミオンや複数のスキルミオンの結合状態といった多様なナノ欠陥を生成する方法を理論的に提案しました。
 スキルミオンなどのトポロジカル磁気構造は次世代スピントロニクスにおける情報伝達の担い手として期待されており、その生成・制御方法が精力的に研究されています。また光渦は、軌道角運動量という新しい自由度を持つ光源として、その応用の可能性が近年精力的に探索されています。本研究は、光渦の科学と磁性・スピントロニクスを融合した新しい領域に位置するものであり、新しい光源である光渦を電子物性制御に応用する具体的な方法を提供しています。今後の実験研究の発展が期待されます。
 今回の成果は、Physical Review Bオンライン版のEditor's Suggestionに選出され、2017年2月16日に掲載されました。

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【資料】光渦レーザーを磁性体に超高速でプリントする方法を提案―新しい光源・光渦を電子物性制御に応用 今後の実験研究の発展に期待―

 近年、光渦と呼ばれる新しいレーザー光が広い周波数帯で実現しており、注目されています。位相が揃った(コヒーレントな)高強度の電磁波であるレーザー光は、身近な例ではレーザーポインタなど様々な分野で応用されています。通常のレーザー光(ガウシアンビーム)では、その伝搬方向と垂直な面での強度分布は、中心で最も高く、中心から離れるほど低下していきます。一方、ガウシアンビームとは異なる性質を持つ光渦は、伝搬軸周りの軌道角運動量を持つレーザーであり、それ故に強度分布が中心軸上でゼロになる特異性を持ちます。したがって、光渦の強度分布は一般に多重リング構造となります。
 新しい光源であるこの光渦の応用は、これまで多くの研究者によって考えられてきており、「強力な光渦を金属薄膜に照射し金属結晶を蒸発させ、強度の弱い中心部分に針(ニードル)構造を生成する」、「光渦をマイクロメートルスケールの微粒子に照射し、光渦の角運動量を微粒子に転写することで微粒子を回転させる」といった現象が実現しています。しかしながら、これまで光渦により固体電子物性を制御しようという試みはほとんど成されていませんでした。一方、通常のレーザー光を用いた磁性体の磁性制御の研究は、磁気光学やスピントロニクスの観点から近年急速に発展しています。このような状況を踏まえ、本研究グループは、光渦の特徴を活かした新しい磁性制御の方法について理論的に考察しました。
 光渦の強度分布はリング構造を持つため、光渦の照射対象としては、同様に円状の磁気構造がエネルギー的に安定に存在し得る磁性体が相応しいと考えられます。本研究グループは、そのような対象として、スキルミオンと呼ばれるトポロジカル磁気欠陥が実現する、カイラル磁性体薄膜を選択しました。カイラル強磁性体及び反強磁性体における、スキルミオンをはじめとするトポロジカルに安定な磁気欠陥構造は、スピントロニクス分野において情報伝搬の為の新しいキャリアとして期待されており、理学だけでなく工学的な関心からも、その制御方法が精力的に研究されています。
 ところが、カイラル磁性体の磁気欠陥と光渦との間には克服しなければならないミスマッチがあります。典型的なトポロジカル欠陥の大きさは10-1000ナノメートルです。一方、光渦の焦点を絞る際の限界値はおおよそ光渦の波長で決まり、10-1000ナノメートルの波長に対応するのは紫外から可視光領域の光渦となります。しかしながら、そのような光の周波数は1014-16Hz程度であり、磁性体のスピンの集団運動(スピン波など)の典型的な周波数であるテラヘルツ(THz=1012Hz)からギガヘルツ(GHz=109Hz)に比べると速すぎるため、紫外線や可視光の光渦の振動に磁性体の電子スピンは追いつけません。一方、THzやGHzの光渦の波長はマイクロメートル以上の大きさを持つ為、スキルミオンに比べて大きすぎます。
 そこで本グループは、このミスマッチの解決法の一つとして、紫外や可視光の光渦の熱の効果を考えました。すなわち、磁性体の低エネルギー励起は電子スピンによって形成されますが、紫外や可視光領域の高エネルギー光子を吸収する電子励起も必ず磁性体に存在します。その電子励起状態は超高速で様々な自由度に緩和し、電子スピンはそれを熱として感じることになります。本研究では、光渦によってリング状に生成する熱の効果を考慮に入れて、光渦照射下のカイラル磁性体の磁気ダイナミクスを、ランダウ・リフシッツ・ギルバード方程式によって微視的に解析しました。
 解析の結果、スキルミオンと同程度のビーム径の高強度光渦をカイラル磁性体に照射することで、高い確率でスキルミオンやリング状の磁気欠陥(2個以上のスキルミオンまたはアンチ・スキルミオンの結合状態)を、ピコ秒からナノ秒で超高速に生成できることを明らかにしました。これまで、主にカイラル磁性体金属において、電流によってスキルミオンを生成する方法が幾つか提案されてきましたが、本研究の提案は、金属と絶縁体の両方のタイプのカイラル磁性体に応用可能であり、かつ、スキルミオン以外のより複雑なトポロジカル磁気欠陥を生成する方法も提供しています。さらに、本グループは、この光渦の方法がカイラル「強」磁性体だけでなくカイラル「反」強磁性体にも適用できることを明らかにしました。
 スキルミオンをはじめとするトポロジカルに安定なナノスピン構造は、次世代スピントロニクスの情報処理の省エネルギーキャリアとして有望視されています。また、紫外、可視光、THz領域を含む広い周波数帯において光渦の生成方法が発展又は確立しており、メタマテリアル技術の急速な発展に伴い光渦の制御技術は近年猛烈な勢いで進展しています。本研究の予言は、これら2つの著しい発展を遂げている分野の連結を図る新しい提案と言えます。

発表論文の情報

<論文タイトル>
Ultrafast generation of skyrmionic defects with vortex beams:
Printing laser profiles on magnets

<著者名>
Hiroyuki Fujita, and Masahiro Sato

<雑誌名>
Physical Review B (Editor's Suggestion)

<掲載日>
2017年2月16日オンライン掲載

関連リンク

茨城大学理学部物理学領域物性理論グループ 佐藤 正寛研究室

(2017年3月13日)