中性子回折による金属材料の集合組織測定で世界最速レベルの技術を確立―小貫 祐介 助教ら、茨城県材料構造解析装置を用いて開発

 茨城大学フロンティア応用原子科学研究センターの小貫 祐介 助教らの研究グループが、中性子回折によって金属材料の集合組織を高速に測定できるシステムを開発しました。
 定量的な集合組織解析が難しく、通常のX線回折では相分率を正確に定めることも困難な二相ステンレス鋼を用いて、これらの情報を定量的に、かつ数分という短時間の測定で求めることができるようになりました。これは大強度陽子加速器施設・J-PARC(茨城県東海村)に茨城県が設置した「茨城県材料構造解析装置(iMATERIA)」を用いて確立した技術で、試料を回転させる必要のない本方法は、金属材料の集合組織を高速に測定するシステムとしては世界最速のレベルであるといえます。
 今回の成果は、自動車のフレームに用いられる高張力鋼板や、モーターの高効率化に重要な電磁鋼板の高性能化に役立つと期待されます。また、これまで電池関連分野が中心だった「iMATERIA」の産業利用の裾野を、金属材料分野にまで大きく拡大するものだといえます。
 今回の成果は、2016年10月1日発行のJournal of Applied Crystallographyに掲載されました。

詳しくは資料(PDFファイル)をご覧ください。
【プレスリリース】中性子回折による金属材料の集合組織高速測定システムを開発

 金属は原子が整列した結晶からなる材料ですが、実際に材料として使用されるものは、単一の結晶ではなく複数の小さな結晶が集まってできた多結晶と呼ばれる状態にあります。これらの結晶の粒(結晶粒)はそれぞれ異なる向きを持っていますが、材料製造の過程で圧延(変形させてロールなどで薄く延ばす)したり、加熱したりすることで、結晶の向きがある程度揃った状態になることがあります。この結晶の向きの偏りは集合組織と呼ばれ、どのような偏りが、どのくらい強くあるのかによって材料全体の性質が変わることから、使用目的に合わせたさまざまな材料を製造する上で、集合組織を正確に測定することは重要であり、そのための高速で効率的なシステムが求められています。
 今回の研究では、飛行時間型中性子回折と呼ばれる回折手法を用いて、集合組織を測定しました。iMATERIAは多数の検出器を持っており、132の回折線を捉えることができます。これにより、入射線の角度を頻繁に変更したり、試料を回転させたりしながら測定を繰り返すという必要がなくなり、1回の中性子線照射だけで集合組織が求められます。

iMATERIAにおける実験の模式図。色付きの四角形で示した検出器モジュール上に、
赤枠の四角形のように検出点を設定、各検出点で試料からの回折を独立して捉える。

 その方法について、今回は日本冶金工業株式会社の提供による二相ステンレス鋼、NAS64(SUS329-J4L相当)圧延材を用いて検証を行いました。実験では、数回角度を変える方法と、角度変更をしない一回測定の方法の両方を行った結果、いずれの方法でもほぼ同じ結果が得られることが分かりました。

結晶の向きの分布を等高線で表わした図の一部。(a), (c)は試料の角度を変えて複数回測定する従来用いられている方法で得た、それぞれフェライト相とオーステナイト相における分布図。(b), (d)は今回開発した試料の回転を必要としない方法で得た図。いずれの方法でもほぼ同じ図形が得られた。

 現在、iMATERIAにおける1回の中性子線照射に要する時間は数分~10分程度であり、本実験は、そのような世界最速レベルといえる短時間での集合組織・相分率の同時測定に初めて成功した事例といえます。さらに、J-PARCの中性子線の強度は今後増強されていく予定であり、将来的には解析に要する時間を1分程度にまで縮められることも展望されます。 今回の研究グループの成果は、集合組織を数分という短時間で測定する技術を開発したものです。
 今回の研究は、鉄心に使われる電磁鋼板の改良によるモーターの効率化や、自動車のフレームに使われる高強度鋼をより柔軟・軽量・安全なものにすることにつながります。また、本手法の確立により、短時間・低コストでの解析が可能となるため、今後は部品製造や加工を行う中小企業の利用も想定され、これまで電池関連分野が中心だった「iMATERIA」の産業利用の裾野が、大きく拡がることが期待されます。

発表論文の情報

<論文タイトル>
Rapid measurement scheme for texture in cubic metallic materials using time-of-flight neutron diffraction at iMATERIA

<著者名>
Y. Onuki, A. Hoshikawa, S. Sato, P. Xu, T. Ishigaki, Y. Saito, H. Todoroki and M. Hayashi

<雑誌名>
Journal of Applied Crystallography

<掲載日>
2016年10月1日掲載

(2016年10月27日)