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ロシアで学会デビュー!?大学院教育学研究科の大内純さんが「第13回国際芥川龍之介学会」で発表

インタビュー

 突然ですが、大学生のみなさん。学会って、行ったことありますか?

  

 学会とは、同じ分野の研究者や学生たちが一堂に会して、研究成果を発表したり情報を交換したりする場のこと。文学系、教育学系、理学系、工学系、農学系など、実に多種多様な学会が世界中で日々開催され、学問に従事する人々の交流の場となっている。学会に参加することは、最先端の研究成果に触れられるだけではなく、大学の外に人脈を広げ、自らの研究を外部の批評にさらして実力をはかることのできる絶好のチャンスだ。

 大学院教育学研究科2年の大内純さんは、昨年9月、初めて学会での研究発表に臨んだ。学部生時代からひたむきに芥川龍之介作品を研究し続けてきたという大内さん。国内の学会に聴講や手伝いで参加したことはあったものの、これまで自ら登壇し発表したことはなかった。しかし、「芥川研究における自分の立ち位置を知りたい」という思いから、指導教員である宮﨑尚子准教授の勧めもあり、「第13回国際芥川龍之介学会」への参加を決意した。開催地は、ロシアのサンクト・ペテルブルク。国際舞台での学会デビューとなった。

大内純さん(教育学部国語科図書室にて)
大内純さん(教育学部国語科図書室にて)

-初めての学会発表は、いかがでしたか。

大内「本当に良い機会をいただきました。自分にとっての研究の世界が広がりましたね。それまで自分の研究成果を発表したり批評してもらったりする機会は教育学部内に限られていましたし、周囲では文学ではなく教育学の分野で研究する学生が多かったんです。今回、学会で様々な研究者の発表を聞いて、文学と一言でいってもいろんな切り口があることがわかりました。また、学会に参加した方々から自分の研究を客観的に評価してもらえたことで、この分野でやっていける自信というか、今後も研究を続けたいという気持ちを再確認しました」

-大内さんが参加したのは「国際芥川龍之介学会」ですね。芥川作品を研究することになったきっかけは?特に好きな作品はありますか。

大内「茨大教育学部の国語科では"ことば"に真摯に向き合う授業が多く、言うべきことを精密に説明する技術を、学部1年生の頃から訓練することができました。芥川作品は子どもの頃から読む楽しみとして好きだったんですが、教育学部に入学して橋浦洋志先生の授業で作品解釈に触れたとき、それまでの読書とは違う新たな発見がたくさんあって、研究対象としてもおもしろいなと思ったんです。それからはずっと、修士の今に至るまで、芥川作品を研究し続けています。思い入れのある作品はたくさんありますが、『地獄変』が好きですね」

本目次

 大内さんが今回発表した研究題目は、「『南京の基督』考」。大正9年に発表された芥川龍之介の短編小説『南京の基督』は、中国・南京で貧困と病に喘ぐキリスト教信者の少女「金花」と、娼婦である金花のもとへ客として現れた「外国人」との間におきた一夜の出来事を、金花と、第三者である「日本人旅行家」の視点から語った作品である。作品中では、自分のもとに訪れた外国人を本物のキリストと信じる金花の語りと、その外国人は単なる客に過ぎないと考える日本人旅行家の語りが併存し、どちらが真実なのか(外国人の正体)は明らかにされない。
 大内さんは、従来の研究で行われてきたものとは異なるアプローチでこの作品を分析した。語りの「声」の文体に着目し、本作品中で描かれた物語のもつ真実性の追求と事実への懐疑を「自然主義への反抗心」として意味づけたこの発表は学会でも高く評価され、会場からは「視点が斬新」「(作品中の)しつこい反復表現が腑に落ちる」という感想が聞かれた。

  

-数ある芥川作品の中から、なぜ『南京の基督』を研究の対象に選んだのですか。

大内「この作品には、小説を〈書く〉ということに対する著者の問題意識がよく表れているからです。"物語"と"事実"の併存をどう扱うかが、この作品の鍵となっています。これは芥川の他の作品にもよく見られるテーマですが、事実とは何か、虚構としての物語をどう捉えるかが、読者に問いかけられていて、現代人が受け取るメッセージとしても大きな意味があります。この問題は、私の修士論文のテーマにもなりました」

 学会での発表後は、会場となったサンクト・ペテルブルク大学を見学したり、市内の文学散歩(ドストエフスキー記念館、二葉亭四迷旧居、『罪と罰』執筆当時のアパートを訪問)したりと、短いながら充実した時間を過ごした。サンクト・ペテルブルク大学のロシア人学生が企画したフィールドワークに各国の研究者・院生たちと一緒に参加するなど、国際学会ならではの交流も生まれたという。

サンクト・ペテルブルクの二葉亭四迷旧居前にて
サンクト・ペテルブルクの二葉亭四迷旧居前にて

-これまでの学生生活や学会での経験をふまえて、他の学生にどんなことを伝えたいと思いますか。

大内「学生のうちに好きなことを一所懸命やってほしいですね。大学は、純粋に研究を楽しめる時間がいっぱいあるのが良いところ。好きだと思える研究を見つけて本気で打ち込めたことは、私の今後の人生にとって大切な財産になりました。大学に入る前は、学生ってなんとなくバイトや遊びで忙しいイメージがありましたけど、学部生のときに川嶋秀之教授の授業を受けて、『大学ってすごい!』って衝撃を受けたんです。ことばに向き合うのって、苦しいし大変だけど、楽しい。理解できないものにぶつかって、立ち向かうことって、すごく大切です。私は4月から社会人として働くことになりますが、自分の『わかった』という感覚を常に疑い、これからも自分なりに研究を続けていきたいと思っています」

大内純さん

大学で学ぶこと、自ら研究することの楽しさを語ってくれた大内さん。授業や研究以外にも、読書会の開催や古典を読む自主ゼミの運営、文芸同人誌の編集など、多彩な活動を続けてきた。「書く行為によって、読むだけではわからなかった書き手の考えや問題意識が見えてくることがあるんですよね」と、どこまでも貪欲で、前向きだ。

大学生のみなさん。学生のうちにぜひ、心から好きだと思える研究を見つけ、のめりこんでほしい。興味のある分野があるなら、学会に出向いてみるのもいいだろう。論文を投稿して腕試しをするのもいいだろう。学ぶこと、探求することをめいっぱい楽しんでほしい。きっとその経験は、あなたの人生を彩る大切な1ページになる。

  

(取材・構成:茨城大学広報室)