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若者のシェアハウス&地域交流拠点を自分たちの手で―工学部建築コースの学生たちによる空き家再生の挑戦

レポート

 "平成最後"の年末も暮れゆく2018年12月26日。日立市内の団地内の一軒家では、小さな子どもからお年寄りの方までさまざまな人たちが集まり、談笑していた。豚汁やお汁粉を振舞ってもてなしているのは、茨城大学工学部都市システム工学科に所属する学生たちだ。

 築44年のこの家、実は来春から学生のシェアハウスとなり、実際に4人の学生たちが住む予定になっている。元は空き家だったこの家屋のリノベーションを、同学科で建築を学ぶ学生たちが文字通り自らの手で行った。「茨城大学空き家再生プロジェクトチーム」として活動してきた17人の学生たちの活動を振り返っていこう。

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 企業城下町として栄えてきた日立市は、住宅地の開発が一気に進められ、多くの人たちで賑わってきた。しかし高齢化が進むにつれて人口の流出が急速に進行し、そのため空き家も急増して、現在では市内だけで3000戸近い空き家があるという。空き家が増えることは防犯・安全面でリスクとなり、周辺コミュニティの衰退にもつながりかねない。今、日本の地方で直面している課題のひとつだが、労働人口の増加とその流出が極端に進む日立市にとっては、とりわけ深刻だ。

 工学部の熊澤貴之准教授も日立市の空き家問題を考える委員会のメンバーを務める。その中で、他地域でも取り組まれている事例を紹介しながら、学生が自らリノベーションを手がけて自分たちの居場所をつくることを提案したのが、2017年春のことだ。以降、このアイディアに興味をもった工学部の学生たちが集まり、プロジェクトを進めてきた。

 都市システム工学科3年生の飯塚柊斗さんもそのひとり。現在、プロジェクトのリーダーを務める。1年生のときに日立市の空き家の問題を授業で知り、自分も何か関われないかという思いから、先輩たちが進めていたこの活動に参加しはじめた。

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プロジェクトリーダーを務める3年生の飯塚さん

 学生メンバーたちはまず、どんな場所にしたいかアイディアを出し合い、たどり着いた結論が、自分たちのシェアハウスと地域の交流拠点を兼ねた場をつくることだった。そのコンセプトをもとに、日立市の担当者のコーディネートのもと、キャンパスから遠くない地点で、候補となる空き家を探していく。その後、オーナーの方の理解が得られたら、実地調査を進めていく。そして現状を図面に起こし、模型もつくり、改装のプランを組み立てていく。今回のプロジェクトにあたっては、日立市、茨城県、大学それぞれから資金を獲得しているものの、当然コストを抑える工夫も必要だ。

 実際、学生たちは複数の物件で調査や交渉を行ってきた。そして、日立市西成沢の旧民家に決定し、プランも固まった頃には、最初の構想から1年以上が経っていた。

 最初の改築作業にとりかかったのは、昨年の11月。作業にあたっては、茨城県建築士協会日立支部の方々が全面的に協力してくださり、学生たちは施工の手ほどきを受けた。たとえば、畳をはがし、フローリングへと変える作業。築年数が経っているため、建物に少なからず歪みができているため、かんなを使って微調整をしながら、うまく収まるようにフローリング板をはめていく。

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 学生たちは建築コースに所属しているため、設計については授業でも学んでいるものの、実際の施工作業ははじめて。飯塚さんは、「図面ではただ『フローリング』と書けば済むことが、こんなに大変なことだなんて」と驚く。それでもつなぎを着た学生たちの姿は、なかなか様になっている。大工さんの指導を受けながら、着々と改装を進めていく。

 建築士会の梅原郁夫さんは、「実際の物件を対象に、学生に対して実践的な指導を行うというのは、私たちも初めてのことです。学生たちは、建築がもともと好きだということもあるかと思いますが、さすがに飲み込みが早いですね」と目を細める。建築士会にとっても、後継者の育成が大きな課題だという。「地元の工学部は貴重な存在。こうして一緒に取り組むことで、ひとりでも地域で活躍する建築士が生まれれば」と期待を込める。

 こうして自分たちで手がけた新たなシェアハウス&交流拠点。1階と2階それぞれに大部屋と小部屋があり、1階の中央に共用スペースを設けた。お披露目会を開くにあたって、周辺の家々にチラシを配って歩いた。そして迎えた12月26日当日。近所の方たちが次々と集まってきた。

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 玄関前で開かれたセレモニーで、飯塚さんが挨拶を述べた。
「みなさんにご協力をいただき、ようやくここまで来られました。これから自分たちで住みながら、いろんな交流イベントも企画していきます。これからぜひよろしくお願いします」
集まった人たちから拍手が起こる。

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 セレモニーには、かつてこの家で過ごしたオーナーの家族も駆けつけ、学生からサプライズプレゼントとして花束を手渡された。もちろん、実際に施工に協力してくださった建築士会の方々にも。その後、みんなで手作りのくす玉を割り、学生のガイドによる内見、そして朝から仕込んだ料理を囲み、最初の地域交流が実現した。

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 ちなみに、入り口付近で参加者にポップコーンを振舞っていたのは、このプロジェクトを一緒に進めてきた日立市住政策推進室の方々だ。言うまでもなく、日立市職員の方々のマネジメントなくして、このプロジェクトは成り立たなかった。高橋正朗室長は、「今回の取り組みをモデルに、空き家を地域の交流センターとして活かす取り組みが広がれば」と語る。

 シェアハウスのオープンは今年の4月。飯塚さんも住民第一号のひとりとなる。今回の事例を卒業研究のテーマに据えることも検討中だ。「将来も地域の問題に取り組むような仕事をしたい」と語る飯塚さん。これからの展開が楽しみだ。

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(取材・構成:茨城大学広報室)