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話題のインド映画『バーフバリ』字幕監修の山田桂子教授が語る裏話

レポート

 『バーフバリ』(二部作)というインド映画をご存知だろうか。前編はインド映画初の全米興行成績トップ10入りを果たし、後編は全米初登場3位となった娯楽大作だ。日本でも去年から一大ブームを巻き起こしており、映画館を満席にしつづけている。
 テルグ語が使われているこの映画の日本語字幕監修を担当したのが、茨城大学人文社会科学部の山田桂子教授(南アジア史)だ。先日、那珂市の映画館「あまや座」での上映後、トークショーに臨んだ山田教授。ここだけの裏話を聞くことができた。

baf1.jpg まずは、『バーフバリ』とはどんな映画なのか。まだ観ていない方は、ひとまずこちらの予告編映像を確認してほしい。

 1作目は『バーフバリ 伝説誕生』。S.S.ラージャマウリ監督、2015年公開。

 続いて完結篇となる『バーフバリ 王の凱旋<完全版>』。同じくS.S.ラージャマウリ監督で、こちらは2017年公開。

 ご覧のとおり、伝説の戦士・バーフバリをめぐる王国三代の物語を、壮大な世界観、あり得ないほどの豪快なアクション、息もつかせぬ展開とテンション、そしてインド映画ならではの音楽とダンスで描く大作だ。

 日本では昨年後半からSNSを中心に口コミが広がり始め、複数の著名人も絶賛したことなどから、インド映画ファン以外にもそのブームが広がった。茨城県内ではなかなか公開機会が訪れなかったが、7月28日~8月10日に那珂市瓜連の「あまや座」という映画館で上映。県内初上映ということもあり、インドの民族衣装であるサリーを纏ってトークショーに臨んだ山田教授。屈指のインド映画ファンというラジオパーソナリティーの山田タポシ氏の進行のもと、さまざまな裏話を披露した。

baf2.jpg関連の書籍も傍らに積み、軽快にトークが進む

 まず、「日本語字幕監修」とはそもそもどんな仕事なのだろうか。

 「今回、字幕翻訳を担当したのが藤井美佳さんという方で、私の映画の仕事のほとんどは藤井さんと一緒にやっています。でも藤井さんとは面識はないんです(笑)プロの字幕翻訳家である藤井さんが、まず英語の字幕から日本語の字幕をつけます。そのあとに、私がその字幕を見て、テルグ語の映画の音声を聴き、原語と照らし合わせて修正するんですね。その仕事を字幕監修といいます」

 南アジア史、つまりおもにインドの歴史を専門とする山田教授は、テルグ語の日本語字幕監修ができる日本で数少ない存在だ。2010年には『基礎テルグ語』というテキストも出している。

baf3.jpg字幕翻訳家の藤井さんとのやりとりに使うExcelのシートを紹介

 山田教授が、Excelで作られた一式の表を取り出した。この表の中に、テルグ語のセリフ、英語字幕、英語字幕からの翻訳案、山田教授からのコメント、藤井さんによる修正案が記される。表を使ったやりとりを3回ほど繰り返すそうだ。

「インドの言語のように、そもそも英語から遠い言語の場合は、英語字幕をつけた段階で、最初の内容からほど遠いものになっている可能性があります。それでチェックすると、かなり書き換わりますね。それで私が藤井さんの作った字幕を見て、原語ではこんなふうに言っています、と書き込むんですけど、日本の場合、字幕の作り方というのがプロフェッショナルな技術として確立していて、たとえば喋っている1秒に対して4文字しか文字を入れられないんですね。それから1行は14文字が限界で、2行まで。だから私が25文字ぐらいで書いても、藤井さんが6文字ぐらいにする、とか(笑)。藤井さんは大変な仕事ですよ」

 そんな中で、藤井さんの翻訳に対し、山田教授が「元のセリフを超えて、字幕が成功している例」と指摘したのが、物語の舞台となる「マヒシュマティ王国」の国母・シヴァガミが、火のついた壷を頭上にのせて歩き続ける儀式のシーン(『王の凱旋』)でのナレーション。字幕では「歩みをとめれば結願(けちがん)しない」となっているが、原語では「歩みをとめたらダメだ」というセリフだった。山田教授はもちろんその点を指摘したが、藤井さんとしては、「結願(けちがん)」という宗教用語をあえて使うことで、映画の世界観を醸成することに成功している。

 あるいは、国母・シヴァガミが重大な決定をしたときに王族や国民たちに宣言するときの「この宣誓を法と心得よ」というセリフ。映画全編を通して印象的な決め台詞のひとつだが、これも元は「これは我が言葉である。我が言葉こそ法である」という言葉だそう。プロの字幕翻訳家である藤井さんと字幕監修者である山田教授とがこうしたやりとりを繰り返し、日本語字幕ができあがっていくのだ。

baf4.jpgトークショーには長年インド映画の配給に携わってきた松沢靖氏も参加

 では反対に、改めて見返して「こうしたほうが良かったかな」と思うセリフはあるのだろうか。

 司会者のそんな質問に対する山田教授の答えのひとつは、なんと、主人公の名前としてタイトルにもなっている「バーフバリ」に関するセリフについてのことだった。

「シヴァガミが(生まれたての)赤ちゃんのバーフバリを初めて見たとき、その赤ちゃんがシヴァガミの指を力強く掴んだのを見て、『バーフバリ』とお名前をつけますね。『バーフ』が『大きい』、『バリ』が『力』の意味なので、それ自体は『怪力さん』とか『剛力さん』という意味になります。でもややこしいことに、ジャイナ教の神話に『バーフバリ』という登場人物がいるんですよね。映画と同じように兄弟で王国を争う神話なので、もしかしたらそこからとったのではないかと。そこで勝ったお兄さんの名前が『バーフバリ』で、彼は結局戦いの無情さに心を痛めてこの世を捨てて修行者になるので、ジャイナ教では『バーフバリ』は非暴力の人なんですよ。だから映画の『バーフバリ』というところに、『怪力さん』みたいな名前をつけた場合にちょっと問題があるかも知れないと思って、あえてそこに意味はつけず、字幕では『バーフバリ』と、そのままの言葉にしたんです」

 その後、ラージャマウリ監督にインタビューする機会が訪れた。そこで山田教授は「バーフバリ」という名前についても尋ねてみたという。

「そしたら、『あれは強い力という意味だ』っていうんですね。それならやっぱり字幕も『怪力さん』などにしたほうがわかりやすかったですよね」

baf5.jpg県内外からの来場者で会場は満席に

 茨城県内初の上映ということで、会場には県内各地からはもちろん、県外からも映画ファンが集まった。トークショーの最後に設けられた質疑応答では、「映画で興味をもってテルグ語を学び始めました。大学で山田先生のテルグ語のレクチャーを受けたりはできないのでしょうか」という質問も。映画のブームを通じてインドの文化や言葉を学びたいという需要は、これからも高まっていきそうだ。

茨城県内の公開情報

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  • 那珂市瓜連の「あまや座」では、8月10日(金)まで公開。8月8日(水)は休館(毎週水曜休館)。詳しくは「あまや座」のホームページ(http://amaya-za.com/)をチェック。
  • 9月24日(月・祝)、水戸市大工町のホテルにて『バーフバリ 伝説誕生』の自主上映会が開催される。詳しくは、主催のシネポートシアターMITOまで。
  • 10月6日(土)~ 8日(月・祝)開催の「第33回水戸映画祭」でも『バーフバリ 王の凱旋<完全版>』の絶叫上映と山田桂子教授のトーク・イベントが行われる。最新の情報は水戸映画祭のホームページ(http://mitotanpen.jp/)でご確認を。

(取材・構成:茨城大学広報室)