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図書館本館アンドレア・リッピ写真展「Lights Of Japan」 甲斐教行教授インタビュー

イベント情報

 水戸キャンパス図書館1階展示室で、イタリアの写真家アンドレア・リッピの写真展が5月8日から23日まで開催されている(詳細はこちら)。リッピの写真は、現代の日本で撮影されたものにも関わらず、見る者に不思議な郷愁を起こさせる。
 本展を主催する茨城大学五浦美術文化研究所の所員も務める教育学部の甲斐教行教授に、本展の見どころやリッピ作品の魅力を聞いた。

甲斐教行教授

-本展を開催することになったきっかけは

甲斐「私は2016年から一年間、サバティカル制度を利用してイタリアで研究していたんですが、そのときにアンドレア・リッピと知り合いになり、『写真集の序文を書いてくれないか』と頼まれたんです。私は彼の撮る写真に深い感銘を受けていましたので、もちろん、喜んでお引き受けしました。写真集は2017年に『lights of Japan』という題で出版されまして、私が書いた序文は本展でもご覧いただけます。
 今回展示している作品は、実は、今年3月に大阪のイタリア文化会館で展示されていたものです。『ぜひ関東の人たちにも見てほしい』というリッピ氏の希望もあり、イタリア文化会館の後援を得て、茨大でも展示できることになりました」

-本展の魅力は

甲斐「今回展示している写真は、『lights of Japan』に収録されている作品の一部です。いずれも2015年と2016年の夏に彼が京都や高野山などを訪れた際に撮影したものですが、日本を見るならこんな風に見てもらえたらうれしい、また実際の日本もこんな風であってほしい、そう思える作品です。展示をご覧になった方は、これが現代の日本で撮られたものだと知ると驚かれますね。もっと昔の日本かと思った!って。
彼の写真は、無理な演出は一切ないにもかかわらず、見る人に言葉では言い表せない不思議な神秘性とノスタルジーを感じさせます。静謐で穏やかで..."コンテンプレーション"とでも言いましょうか。リッピ氏は非常に高い感度を持った写真家で、日常の中にある神秘的なもの、日常を超えたものを見る感性が、彼にはあるのですね。シーンを写すだけではなく、シーンを超えて、自分の見たものを表現するんです。
地中海世界で育った人が、日本に来て、この土地で日本の精神性を見つけてくれた。ある意味で今回の展示は、西洋と東洋が出会ってかたちを結んだものです」

-リッピ作品の特徴とは

甲斐「彼の作品の大きな特徴のひとつが、光の表現です。彼はデジタル加工も駆使するので、作品は実際の景色そのままというわけではありません。あいまいにぼかされた水面や、うねるような雲、画面を覆う雨の筋、影のように重なる木々の枝葉などが、効果的に配されています。中には、狩野派を思わせるような絵画的な写真もありますね。リッピ氏独自の視点とそうした技術が合わさって、特別な、神秘的な雰囲気を醸し出しています。  今回の展示作品はお寺や森林、海辺で撮られた写真が多いのですが、京都市街の写真もあるんですよ。絡み合う電線は日本の独特な風景ですが、彼の作品においては、非常に風情ある要素になっています」

-今回の展示で一番好きな作品を教えてください

甲斐「これですかねえ...。現代の瀬戸内海あたりで撮られた写真のはずなのに、まるで世界の原初、天地創造の世界のようじゃありませんか。リッピ氏の、この空の表現が、とても好きなんです」

setonaikai_andrea lippi

瀬戸内海 Mare Setonai-kai, Hiroshima,2015

-甲斐教授の研究について教えてください

甲斐「授業としては西洋美術史を教えていますが、もともとは16世紀イタリアの宗教画を研究していました。その後、17、18世紀以降の宗教画も扱うようになり、19世紀のアカデミックな絵画、20世紀ファシズム期の彫刻や現存の作家たちもテーマにしました。イタリアでとても良い先生に師事して、狭い時代にこだわるのではなく、いろんな時代に目を向け、さまざまな時代を見る目を持った研究者になりたいと思うようになったんです。資料収集に行くと、誰からも研究されていない作家・作品が見つかったり、異なる分野の研究者に出会ったりする。そのうち、テーマの方からやって来るようになりました。研究を通じて、いろんな人、いろんな世界と知り合うことができるのは、うれしいかぎりです。
 最近は16世紀フィレンツェのバッチョ・バンディネッリという、ミケランジェロと同時代に活躍した彫刻家を研究しています。ミケランジェロと言えば、フィレンツェ共和派のシンボルともいえる《ダヴィデ》が有名ですが、実はバンディネッリは常に庇護者であるメディチ家と密接な関係を保っていたため、ミケランジェロとの対比から君主制を体現する存在のように誤解され、生前から誹謗中傷が絶えず、史上最も過小評価されてきた彫刻家の一人だと思います。政治の動乱に絶えず翻弄された芸術家ですが、近世初の美術アカデミーを開くなど、非常に先進的な面もあるんですよ。
 芸術は直前の時代を否定し、新しい表現を提示しようとするものですが、価値の変換、時代や芸術の再評価は、どの瞬間にも起こっています。これは研究活動も同じで、歴史は常に書き換えられているんです」

-茨大で芸術を学ぶことの意義とは

甲斐「茨大は総合大学であって、芸術系の大学ではありません。教員になるうえで図工・美術の知識が必要だから教えている、というのはもちろんのことです。ですが、人類史上、芸術が存在しなかったことはないんですよ。どんな地域・時代にも、芸術は常にあった。食べたり、住んだり、着たりするのと同じように、表現するというのは人類に必要な活動なんです。人類は芸術なしにはありえないのだから、芸術を学んだり研究したりすることは、すなわち人類を理解することでもあって、哲学や人文学などと同様に、大変意義のあるものだと考えています」

Andrea Lippi写真展

学内外から多くの方が本展に訪れ、リッピのフィルターを通した日本の景色に触れてほしいと語った甲斐教授。アンドレア・リッピ写真展「Lights Of Japan」は5月23日(水)まで。入場無料。[イベント詳細はこちら]