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災害時の救援物資の輸送について地理学の視点から考える―共編著書を出版した人文・田中耕市准教授に聞く

インタビュー

 人文社会科学部の田中耕市准教授(地理学)が共編著者のひとりを務めた『救援物資輸送の地理学 被災地へのルートを確保せよ』(ナカニシヤ出版)が、このほど出版された。震災などの大規模広域災害が発生したとき、いかにして効率的・効果的に救援物資を運ぶのかを、自然系から人文系に及ぶ地理学の視野で考察。大学1~2年生にも読みやすい一冊だ。田中准教授に聞いた。

pic_ktanaka.jpg―2011年の東日本大震災や2015年の関東東北豪雨などでは茨城県内も大きな被害を受け、避難所等への救援物資の輸送をめぐる課題も耳にする。現状をどう見るか。

田中「物資があるところには大量にストックされていながら、一方で必要な場所には届いていないというミスマッチが少なからず起こっていました。まず重要なことは、どこに何があるのか、という情報を正確に把握することです。これらはICチップの活用などにより技術的にはリアルタイムな把握も可能になります。その上で、道路の状況なども踏まえて、何をどこからどう運んだら効率的なのか、というのを重層的に捉えていくという点で、地理学の知見が活かされます」

―具体的にはどういうことか。

田中「たとえば自分の場合は、本書で『GISによる輸送シミュレーション』という章を担当しています。GISというのは地理情報システムのことで、何がどこにあるのかという座標データの集まりで、それらをマップとして再現していくつも重ね合わせることでさまざまな計算・分析を可能にするものです。災害に関わるものだと、自治体が指定する緊急輸送道路をまとめたデータ、土砂災害危険箇所データ、南海トラフなどの巨大地震を想定した津波浸水範囲のデータなどが挙げられます。これらを重ね合わせることで、たとえば土砂災害危険箇所に重なる緊急輸送道路を見つけ出すことができるわけです。また、カーナビのように物資輸送の最短経路を計算することもできます」

―災害への対応というと、自然地理学のイメージのほうが強い。

田中「地形がどういうふうにできているのか、強いのか弱いのかといったことを見る自然地理学の視点はもちろん重要です。一方、人文地理学ではそれぞれの地の集落形態などに関心があります。もともと地理学は射程の広い学問ですが、私たちの研究チームでも、そうした幅広い専門分野の研究者が共同でフィールドワークや分析を行っています。本書はこうした地理学の視点から防災・減災の具体的な課題に切り込む一般向けの書籍として、意義のある一冊です」

―本書で示した内容を踏まえ、国や自治体にはどんなことを求めるか。

田中「災害時の効率的な物資輸送をシミュレーションする上では各自治体がもっている地理情報を多角的に参照していくことが必要ですが、現状においては、地理情報の取得や公表の状況が自治体ごとにバラバラな状態です。こうなると広域に及ぶ正確なシミュレーションが難しくなってしまいます。
 またそれとも関連しますが、隣接する都道府県間の境をこえた連携がもっと必要です。地理情報の分析から、たとえば県境に近い避難所において、同県内から物資を運ぶよりも隣の県から輸送したほうが早いということが見えたりするわけですが、災害対策はほとんど都道府県単位で計画されているために、県境をこえる輸送が現実には機能しづらくなってしまっている面があります。隣接自治体の連携により、越境での支援が実現しやすくなればと思います」

―どういう方たちに読んでほしいか。

田中「地理学の入門書としてもおもしろく読んでいただけるのではないかと思っています。中学・高校の地理のイメージが強い人も多いと思いますが、大学で学ぶ地理学はもっと多様です。日本においても世界においても、いつどこで大きな災害が起こるかわからず、防災・減災は自分たちの身近なことで意識する必要がありますが、そうした関心を入り口に、地理学の幅広さにも触れていただければと思います」

書籍情報

荒木一視・岩間信之・楮原京子・熊谷美香・田中耕市・中村努・松多信尚
『救援物資輸送の地理学 被災地へのルートを確保せよ』(ナカニシヤ出版)
2017年11月1日出版 定価:本体2200円+税

(取材・構成/茨城大学広報室)