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太陽フレアの影響予測に挑む理学部・野澤研究室―宇宙天気予報の人材を茨大から輩出したい

レポート

 今月、「太陽フレア」と呼ばれる大爆発が太陽で起きたことが話題になった。茨城大学理学部の野澤 恵 准教授の研究室では、フレアを中心とした太陽現象の観測に取り組んでいるが、実は太陽研究に取り組んでいる研究室は日本の大学でもあまり多くはない。
 今回は一部で警戒されていたほどの被害は起こらなかったが、野澤准教授は「爆発の規模からすればこの程度の影響で済んでいるのは不思議なこと」と語る。
 詳しい話を、野澤准教授と同研究室の4年生・津田菜月さん(理学部理学科学際理学コース)、放送大学大学院に所属しながら野澤研究室で観測や研究に取り組む玉置 晋さんに聞いた。

DSC_0045.jpg左から野澤准教授、津田さん、玉置さん

 太陽フレアは太陽の黒点近くで起こる大爆発。黒点から出る磁力線がねじれ、その状態から解放されることで発生すると考えられている。フレアによって太陽から電磁波や粒子などが大量に放出し、それが人工衛星や地球上に影響を及ぼしてしまう。
 野澤准教授によれば、太陽の黒点は11年周期で増えたり減ったりしており、今は現象に転じて数年の時期で、その時期はフレアが起こりやすいとのこと。今回も2006年以来まさに11年ぶりの規模の爆発だったそうだ。

DSC_0006.jpg「今回のフレアは、地球の正面の向きで発生したというのが特徴といえます。そのため、爆発の発生後、粒子が地球の磁場へ届くまでの時間も短かったのです」と玉置さん。それだけに、今回の影響が、GPSが10~20メートルずれたという程度で済んだのは「不思議なこと」(野澤准教授)であり、これから解明を進めていきたいという。

 どんな規模のフレアが、どういう条件や環境によって、どの程度の被害をもたらすか。そうした宇宙の現象による影響を予測して情報を提供することを、「宇宙天気予報」と呼ぶ。宇宙天気予報にはさまざまな観測データが必要となるが、日常的に太陽を観測している施設は、実は日本中にそう多くあるわけではない。野澤研究室では、理学部棟の屋上にアンテナを設置し、太陽から発せられる電波を日中観測している。曇っていても観測できるのが電波の利点だ。現在、その作業にあたっているのが、津田さんだ。今回のフレアをとらえた画像を見せてもらった。

20170907_1min.png これが茨城大学で観測した電波。横軸は時間で、左端から右端の間は1分。強いエネルギーを感知すると赤く表示される。フレアによって放出された粒子が燃え、熱が発生しているのだ。
 こうした観測を、世界中の大学などが常に行ってデータを共有していくことが、影響予測の技術向上につながる。そのための「e-CALLISTO」というグローバルな観測ネットワークに、茨城大学は日本で唯一参加している。

DSC_0036.jpg理学部棟屋上に設置したアンテナで太陽が発する電波のデータを取得

 津田さんは「e-CALLISTO」を通じて海外の研究者などと英語でやりとりをしながらデータをまとめ、先日、日本天文学会の秋季大会でも成果を発表した。
「4月から観測を担当するようになったと思ったら、4月2日にいきなり大きなフレアが観測されたんです。そのあとも7月に観測されて、そして今回が3回目。おかげでこんなに早いタイミングで研究に貢献でき、学会発表もできました」とはにかむ津田さんについて、野澤先生は「卒業研究の時期にタイミングよくフレアが起こってくれるわけではない。その点で津田さんは強運の持ち主です」と太鼓判を押す。「嵐を呼ぶ男」ならぬ「フレアを呼ぶ女」とでもいうべきか。

 太陽フレアが地球や人工衛星にもたらす影響についてはわかっていないことが多いものの、大規模な爆発が頻繁に起こるわけではないため、一回一回の発生時の観測データが貴重な資料となる。津田さんによる茨城大学の観測データも今後の研究において活用されるに違いない。野澤研究室では、過去に大きなフレアが起こったとされる時期(たとえば1859年のキャリントンイベント)の日本の古文書を紐解き、オーロラが見られたことを示す記録がないかなども調べているという。

DSC_0010.jpg 今回は幸い大きな被害につながらなかったが、たとえば数十センチメートル程度のGPSのズレも、今後自動運転などが普及すると、大きな事故につながりかねない。宇宙天気予報の需要はこれからますます増えると考えられる。
 玉置さんはいう。「米国では宇宙天気の現象を災害と捉え、国家プロジェクトとして研究や普及に取り組んでいます。日本でも、フレアの影響などを現場で状況分析し、適切に国内や地域の中で情報提供できる宇宙天気アナリストの育成が必要だと思います。そのためには社会科学的な知見も大事になります」。
 野澤准教授も、「茨城大学のような地方大学がこのような太陽の観測設備をもっているというのは大きな意義があると思います。今後、電波観測に加えて可視光の観測設備も整え、宇宙天気予報に貢献できるような人材を輩出していきたいです」と意気込んでみせた。

(取材・構成:広報室)